| ヒカルの碁 | 君の花北斗杯編空のしるべ11〜15 |
| 空のしるべ11 「今日から、進藤は緒方になる」 そう担任がみんなに告げたのは、中学2年の夏だった。 「ねえ、何で、名前変わったんだ?別に離婚したわけでも無いだろ?」 昼休みに学食で汁ばかりで具の無いカレーうどんをすすっていた精次は、目の前で定食の大盛りをかきこんでいる智に聞かれた。 「大した理由じゃない。緒方の家の伯父も伯母も子供がいないから、養子にならないかと言われただけだ」 「ふうん、で、養子になったんだ」 「ああ、俺は、ほら、一番年下だし。うちには兄さんや姉さんいるしね。跡継ぎには不自由しないからな」 それに。 「それに?」 「かあさんが言うんだ。緒方の家の養子になった方が先々、俺の為になるって」 緒方はずるずるとカレーうどんをすする。 そう、自分は何となくあの家に違和感を憶える。 別に家族仲が悪いとか疎外されていると言うわけじゃない。 でも、何だかぽっかりと穴が開いたような気が、時々襲ってくる。 『俺の待つ人がいない』と。 進藤の家は一種、特殊だ。 周りに、幽霊が見えるとかお祓いが出来るとか、そんな人間が沢山いる。 精次はその中でも、一切、そんな能力はなかった。 だが、それを嫌だと思った事も無ければ、羨ましいと思った事も無い。 ただ・・・。 『探しているものがあるような気がするんだ。大切な何かを』 思うだけで口にはしないが。 「う〜ん、あ、いや、でも、俺、緒方 精次って名前、格好いいと思う」 智は照れた顔で精次に告げる。 「そうか?」 「うん、何か、進藤 精次よりきりっとしてる。きっと、格好いい男になると思うよ。お前は」 あ、今でも格好いいと思うけど。 そう言われて見れば、何だか嬉しい。精次は緒方と言う名前は、結構気に入っていたのだ。 「智は良い奴だな」 「うん、俺、精次の事、好きだもん」 「うん、俺も好きだよ。智の事が」 側で聞き耳を立てていた、数人ががしりと精次の肩を掴んだ。 「わわ、何だよ?!」 「精次、俺も緒方って格好いいと思うよ」「俺も」 精次が肩を揺らして笑った。 「うん、みんな大好きだよ」 ああ、みんな大好きだよ。 「朝か・・・」 遮光カーテンの隙間から、朝日が出ている。 「何時だろう」 緒方は壁に掛けてある時計を眺めた。 「8時か。今日は特に何も予定が入ってなかったな」 随分と懐かしい夢を見た。昨日、智の所に行ったからだな。 緒方はこきこきと肩をならすと、ベッドから出てシャワーを浴びようと、居間を横切った。 ソファの上に毛布の塊がある。 「・・・・」 そっとめくって見て、成程と頷いた。 下にいたのは、芦原だ。 そう言えば、昨日は一緒に飲んでたな。玲華(智)が俺のタイトル取得祝いだと、奢ってくれたんだった。 起こすまいか、起こすか、緒方は考える。 で、結局は、そのまま毛布をひっぺがした。ころりと床に芦原が落ちた。 「起きろ、芦原」 玄関を出て、緒方は隣のドアを見る。 言いようのない気分が湧いて来るのを止める事が出来ない。 『昔の夢を見たからか・・・』 あの時、あいつは何と言ったかな? ああ、そうだった。 『・・・・・・・だね』 その時に俺が気がついていれば、もっと今は変わっていただろうか? 「緒方さん〜早く行きましょうよお〜」 芦原の明るい声で緒方は引き戻される。 芦原、お前の声は智に似てるな。明るくて強い。 「ああ、今行く」 空のしるべ12 はらはらと泣いている姿が悲しい。 泣くなとその肩を抱く。 俺が幸せにしてやる。 だから、泣くな。 「・・・起きてよ」 うっすらと目を開けると、緒方にはヒカルの姿が見えた。 「あ?ああ」 「珍しい、寝坊なの?」 にこりと金の髪が目の前で揺れる。 「?・・・何か、夢を見てた」 「あの人の夢?」 ヒカルの瞳が心配そうに揺れる。 「いや、違う。もっと深い・・・何だか悲しい夢だ。お前が泣いていたような気がする」 「俺が?」 俺は何時も楽しいよ。何で泣くの? 「・・・そうだな・・・あ、すまん。今日は、アキラ君との対局じゃないか」 送って行こうか? 「ううん、電車で行くよ。車は混むかもしれないしね。帰りに迎えに来てよ。検討すると長くなるかもしれないからね」 「ああ、解った」 「行ってきます」 「ああ、行ってらっしゃい」 嬉しそうに駆け出す背を眺め、緒方は少し寂しいと思う。 「もう、一人前の男だな」 ヒカルが生まれた時、一番喜んだのはおそらく、自分だ。 「空いていた穴が埋まった気分だったよ」 誰にも言った事はないが、泣ける程嬉しかった。眠るヒカルの顔を見た瞬間、言いようのない幸福な気分が、緒方の胸に湧いた。 空っぽだった空に、一筋の雲がすーと引かれた。 色の無かった空に、色がついた。 これこそが待ち望んだ存在だ。 腕に抱いた瞬間、はらはらと涙が流れた。 その小さな手が自分の手を握り返す。 胸が張り裂けそうな程に痛かった。 ああ、この子が・・・俺の空(から)を埋めてくれる。 「あの子はいつでも笑うんだな」 口をついて出た言葉に緒方自身が首を傾げる。 いつでも? 何時? 記憶を探るが、淡い夢となって消えてしまった。 棋院のエレベーターが開くと、アキラと越智が降りて来る。 「よお、おはよう!」「おはよう」 和谷と冴木が、二人に声をかける。 「おはようございます。ヒカル君、来てますか?!」 開口一番がこれかと、和谷は肩を竦める。 「来てるよ」 じゃあ、先に行きますね。 いそいそと、靴を脱ぐアキラだ。 「で、越智は不機嫌な顔だな?」 くるりと和谷が振り返ると、越智はまだロビーに佇んでいる。 「楽勝でしょ?って聞いたら、やってみないと解らないと答えをくれたよ。たかだか、初段になったばかりの進藤に、リーグ入している塔矢がだよ」 越智は肩を竦める。 「まあなあ、進藤はかなりの腕だしなあ」 冴木は、顎を撫でる。 実際、ヒカルは三段以上の実力があると冴木は思っている。 「塔矢のライバルって言われてたもんな。院生時代」 和谷はその頃を振り返る。ヒカル本人は、友達だと言っていたが、誰も彼も、二人はライバルと見ていた。しかし、アキラのヒカルに対する態度は、ライバルと言うよりは・・・。 『犬っぽい』 そんな事は誰も口には出さないが。 「まるで、進藤のファンのようだよね。塔矢って」 越智は深々とため息をつく。 誰も言わない事をずばりと言い切れるのは、越智ならではの性格だろう。 だが、当の本人のアキラは、それを聞いたら、大きく頷いたに違いない。 『そうだよ』と。 空のしるべ13 碁盤の上で、激しい戦いに興じる。 内面を探る。心に忍び込む。 その内に隠されたものを暴き出す。 ぱちりと打たれた石に、アキラは想う。 『佐為だ』 これは、彼だ。 彼がヒカルに譲り渡したもの。 彼が僕とヒカルを繋げてくれたものだ。 アキラはぎゅっと目を瞑る。 僕の空に線を引いたのは、佐為。 その線は、ヒカルへと繋がっている。 ふと、アキラはデジャブーを憶えた。 『あれ?以前にも・・・あれ?佐為が・・・あれ?』 ぱちんと鋭い音で、アキラは我に帰る。 うちかけだ。 「アキラ、食事に行かないのか?」 ヒカルがアキラの顔を覗き込む。うちかけの間、食事に行かないのは知っている。だが、あえて聞いて見たのだ。 「あ、ああ。うちかけだな。うーん、折角ヒカル君と一緒なんだから、お茶でも飲みに行くよ」 「じゃあ、行こうか」 立ち上がったヒカルにアキラが声をかける。 「佐為を感じたよ。ヒカル君の中に」 その言葉にふわりとヒカルが笑う。 「うん、佐為はここにいるんだよ」 もう、何処にも行かない。 「俺やアキラが思い出してくれれば、何時でもここにいる」 「ん、うん」 そっか、僕が思い出したからなのか。 「そうだよ」 「やあ、アキラ君、どうだった?」 緒方の声に、アキラは胸を張る。 「勝ちましたよ。でも、ぎりぎりかなあ。かなりしんどかったですから」 緒方がくすりと笑う。 「まあな。俺もヒカルが君に勝てるとは思ってなかったがな。そうそう、ヒカルは何処だい?」 「ああ、ヒカル君なら、和谷君に捕まってますよ。もう少しかかりそうですね」 そうかと、緒方は煙草を出した。 「失礼」 「かまいませんよ」 「時に、アキラ君。少し小耳に挟んだんだけど、日、韓、中の18歳以下のJr戦があるらしいよ。時期は来年の5月と言う事らしい」 俺も今日聞いてね。 「へえ、そうなんですか。僕はまだ、何も聞いてませんけど」 「君は多分出場になると思うよ。ああ、だが、関西棋院の方からも人が出るだろうから、トーナメントをするかもな。まあ、詳しい事は俺もまだ聞いてないんだがな」 何だか、賑やかになりそうだな。 「緒方さん、ヒカル君が戻って来ましたよ」 アキラがヒカルに向かって手を振る。 「ごめん、今年の合格者の事聞いてたんだ。伊角さんが受かったって」 「ほう。桜野さんのしんちゃんか?」 すかさずな緒方の答えに、アキラは目を向く。 「しんちゃん?ですか?」 「ああ、桜野さんが可愛がっている後輩だよ。こりゃあ、近々、女史に呼ばれそうだな」 緒方はぽりぽりと頭を掻いた。 「どうしたの?」 こっそりとヒカルにアキラが囁く。 「う〜ん、まあねえ。桜野さん、苦手なの。精次兄さんは」 「・・・そうなの?」 「まあ・・・そうなの」 どのような意味で苦手なのかは、ヒカルも推測出来かねるらしい。 酒癖が悪いのか、はたまた、おしゃべりがすごいのか。自慢話を聞かせられるのか。 「ううむ、これは芦原に尊い犠牲になってもらおう」 「・・・・」「・・・・・・・・」 アキラとヒカルは顔を見合わせる。 『犠牲って何だろう?』 空のしるべ14 最強初段 そんな噂を聞きつけた緒方は、にんまりと笑う。 「最強初段とはね」 それは、快進撃を続けるヒカルについたあだ名だ。 春からの療養休暇で、ヒカルは今だに初段のままだ。そんな事情を知らない者が、対局した時に呟いた言葉だったのが始りだ。 本人は、 「初段は初段だよ。最強って言われても・・・」 と、照れた苦笑を浮かべるしかない。 その言葉をヒカルに運んできた和谷は、その姿を見て、 『成程、最強初段だな』と、心にしまった。 ヒカルは余裕がありすぎるのだ。 自分より一つ年下のヒカルが、何故自分より大人っぽく見えるのかは、自分には解りようがないが、何だか、酷く寂しく感じる。 最近ヒカルが持ち始めた扇子で、和谷はますますそう思う。 その扇子を見る時の優しい眼差しは、遥か前を行く程遠く思えるのだ。 『俺だって、あいつと同じだと思うんだけど?』 焦ると言う程ではないが、ヒカルとの器の違いと言うものをひしひしと感じる時、和谷はやるせない気分になった。 その度に言い聞かせる言葉は、 「まだ、始ったばかりだ」だった。 「扇子?」 ヒカルが持ち始めた扇子に視線を落として、アキラが首を傾げる。 「うん、アキラと対局した日にね、夢を見た」 「何の?」 「佐為の夢。俺に扇子を渡してくれたんだ。きっと俺に残してくれた欠片だよ」 そう言って、胸を指さし、扇子を持ち上げる。 「ああ、そうか。佐為は扇子を持ってたね」 最初、佐為はアキラに憑いていて、いろいろとアキラを悩ませた。それをヒカルが引き受けてくれたのだ。 だがそれ以来、アキラには佐為を見る事が適わないので、すっかり忘れていたのだ。 「でも、売店の扇子なんだろ?」 もっと高い物でも良かったんじゃない? 「うん、でも、良いんだ。棋院の売店で買った物だし」 その言葉でアキラは納得をする。囲碁に関係ある場所で買った方が、佐為に重なると言うわけだろう。 「あ、そうそう。ケーキ屋さんに行きたいんだ。市河さんに、精次兄さんからケーキを買って行ってくれって言われてるんだよ」 最近、ヒカルはアキラの碁会所にたまに顔を見せるようになった。 「プロになったからね」 理由を聞いてみると、そんな答えが返って来た。 以前は渋っていたのだ。渋ってと言うより、アキラに気を使ってと言う方が正しいが。 「嬉しいけど・・・」 密かにデートぽいなどとアキラは顔を赤らめる。友人関係が疎遠なアキラには、こう言う関係はヒカルだけなので、ただ碁を打つだけでも心躍るのだ。 「こんにちわ。市河さん。これ、兄さんから」 そう言って、受付でヒカルがケーキを渡すと、市河はにこりと笑う。 「お兄さんに宜しくね。たまには顔を見せて欲しいけど、忙しいから駄目ね」 さみしいわと笑いながら肩を竦める市河に、 「うん、言っておくよ。美人が待ってるって」 市河は目を丸くした後に、微笑む。 「うわあ、ヒカル君に美人って言ってもらえるなんて、光栄だわあ」 紅茶で良いわね〜。 「・・・俺、口旨いかな?」 くるりと振り向いたヒカルに、アキラは何と言って良いか首を傾げる。 「・・・口が上手いと言うより・・・」 ん? 「・・・ヒカル君の顔でそう言う事を言うのが・・・嬉しいんじゃないかなあ?」 「?」 解らないかなあ?と、アキラは呟くが、それ以上何も言う事は無かった。 「進藤君、最強初段なんだって?」 碁会所の常連の北島が、ヒカルの顔を見る。 アキラと対局していたヒカルは、顔を上げると、肩を竦めた。 「そう言う人がいるらしいけど、初段は所詮、初段だよ」 この碁会所で、「最強初段って言われてるんだよ」と吹聴して回ったのは、芦原だ。 北島は肩すかしをくらい、アキラはくすりと笑っている。 「駄目ですよ、北島さん。ヒカル君にはそう言うのは通用しません。僕じゃないんですから」 自分の息子より年下の中学生の顔を北島は見つめると、ふんと視線を外した。 「北島さん、俺と打たない?」 最強初段と打たない? 「互い戦かね?」 「もちろん」 側で見ていたアキラはやれやれと思う。 『打ちたいなら素直に言えば良いのにね』と。 空のしるべ15 「本因坊リーグで一柳さんに勝ったんだって?」 緒方が煙草を燻らしながら、にまにまとアキラに笑う。 「まあ、勝てました。ちょっといや、かなり苦しかったですが」 先日の本因坊リーグで鮮やかな勝ちを収めた事は、その場にいたヒカルから緒方は聞いている。 「絶好調だな」 「まあ・・・そう言う意味ではそうです。色んな手を考えるのは楽しいですよ」 アキラは幸せそうな顔で笑う。 緒方の胸にちりっとした痛みが過ぎる。 『ヒカルがいるからか・・・』 自分もヒカルがいるから笑える。彼も・・・・ 泣いている背を抱きしめた。 幸せに。きっと幸せにしてやると。 「?」 何だろう?時々過ぎるこの虚しい風は? 俺は幸せじゃないか? 緒方は最近、この手の掴めない感情が湧いて来る事があった。 理由は無い。 ヒカルが独り立ちして歩くようになったからか? もう、俺を頼ってはくれないのか? だから、こんな気持ちになるのか? 「俺も年だな」 ぽつりと呟いてしまった言葉に、アキラが顔を顰める。 「何、言ってるんです、緒方さん。一柳先生なんか、まだまだ二十歳とか言ってますよ。勝負の翌日、棋院で合ったら、若いもんには負けんとびしりと指さされましたよ」 「あはは、あの人らしいな」 薄くけぶる記憶の夢の中。 ゆっくりと誰かが笑う。 『私は幸せ』と。 その姿がゆっくりとヒカルと重なった。 ふいに、緒方に満たされた想いが落ちて来る。 ゆっくりと空を見上げると、そこには空の碧があった。 ぱちりと音がする。 「スヨンがね、プロになってたよ」 「ええと、誰だったかな?・・・ああ、柳の碁会所の子?コンビニでこけた」 伊角は記憶を辿る。 「そう、大活躍らしいよ。韓国にほら、倉田さんの取材に行った人がそう言ってたんだ。向こうで俺の名前が出たらしいよ」 でね、本題だけど、日中韓Jr棋戦が来年の5月にあるんだって。 「選手の予選は4月だってな」 和谷が、石を置く。 「知ってたんだ。和谷」 「ああ、まあな」 「張り切ってるんだね」 ヒカルの言葉に、和谷の顔が赤くなる。図星だ。 「おう、張り切るってもんだよ。国際棋戦だぜ?選ばれたら」 そうさ、国際棋戦だ。 「?・・・ああ、そっか」 今更ながらにヒカルが頷く。懐かしい人物の名前を聞いたので、失念していたのだ。 自分はコヨンハとも会っている。 「いいな〜。おまえら」 伊角は悔しそうだ。彼は年齢制限で出る事が出来ないのだ。 「そう言えば、楽平が選ばれたら、面白いだろうな。あいつ、和谷とそっくりな顔だからな」 「?」 「中国棋院に行った時に会った子。和谷とそっくりなんだ。あ、そう言えば、楊海さんも来るかも。あの人、日本語も韓国語も話せたし」 伊角はどうやら、別の楽しみを見つけてわくわくとしだした。 「楽しみだなあ〜」と。 「やっぱり、シード枠だったか」 アキラは残念だとため息を吐く。 「選手選抜に出て、他の人と戦いたかったんだけどなあ」 リーグ戦に入っているアキラの実力は言うまでもない事なので、何処からも反対は出ないだろう。だが、本人は、面白くないらしい。 「何だかなあ・・・」 特別ってありがたくない。 「面白くないから?」 突然かけられた声に、アキラが飛び上がる。 「ごめん、驚かせた」 振り向くとヒカルが笑っている。 「シード枠だね。残るは後、二人か」 ひいふうみとヒカルは指を折り、又、指を二本立てる。 「少ないね。確立」 「ああ、少ないよ。最強初段は残れるかどうか解らない」 ・・・ 二人は顔を見合わせると、ぷぷっと吹いた。 「全く、最強初段なんて誰が言い出したのかな?」 「とんだ、迷惑だね」 この会話にはヒカルが先日、御器曽七段に勝ったと言う裏があった。 初段が七段に勝ったと言うのは、最強初段をさらに強める事実となった。 「精次兄さんなんか、嬉しくなってお祝いだとか言うんだよ」 もう、あの人はことある事にそんな事を言うんだから。 「それだけ、君の事が大切なんだよ」 そう言えば、最近・・・。 「ねえ、緒方さん、元気ないような気がするんだけど、どう?」 「そうかな?」 「・・・あの・・・ほら、緒方さんの・・・」 アキラが口ごもる言葉に、ヒカルは頷いた。 「ううん、そんなわけじゃないんだよ。精次兄さん、その夢は見ないみたいだから」 「・・・あの・・・聞いても良い?」 その人の事。 「・・・良いよ。でも、俺の知ってる事は凄く少ないよ。何なら、芦原さんも聞く?」 物陰に隠れていた芦原が、決まり悪げに顔を出した。 「あのね。芦原さんもいた方が、アキラには良いと思うんだ。今日は精次兄さんは遅いから、マンションに一緒に来て」 アキラと芦原は顔を見合わせると頷いた。 |
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