ヒカルの碁 花盗人
花盗人 (青嵐番外2)

 白川と緒方 蓮はお互いの近況を話ながら、ちびりちびりと酒を交わしていた。
「由比が犬を飼い始めたんだ」
 由比(ゆい)とは蓮の長女だ。
「でな、それがピレネーなんだけど、名前がセイって言うんだよ。綺麗で賢くなるようにだと」
「性格が悪くなっても知らないですよ」
 確かに性格が悪くなりそうな名前である。
 その名前を娘が買って来た犬につけた時、蓮は唖然とした物だ。自分も同じ名前を付けようかと思ったからだ。妙な所で似る親子だと。
「由比は、あまり俺とは似てねえのに、妙な所で話が合うんだ」
「親子なんてそんな物かもしれませんね」
「まあ、あいつはお袋に似てるしな」
 蓮が言ったあいつとは、もちろん精次の事だ。
「だが、これで落ち着くだろうな。縁てのは本当に異な物だぜ」
「然り然り」
 白川は重々しく頷いた。

 それは川岸を変えた先の出来事だった。

 隣のひそひそとした話に白川が眉を寄せる。その表情を見て蓮も沈黙した。
 隣の話を聞く為だ。

「お前、その怪我、本当に良いのか?」
「罰が当たったんだ」
「はあ、何だ?それは」
「俺、お前に嘘を言ってた・・・この怪我は緒方 精次が俺に復讐したんだ」

 ここで、白川の顔が変わったのだった。
 何だろう?と、言うように。

「俺、お前に嘘を言ってたんだ。進藤の事」
「嘘ってなんだ?お前、進藤とホテルに行ったんだろ?」
「行ったさ。で、進藤を抱いたんだ」
「嘘じゃないじゃん。何でだ?」
「俺は進藤を・・・お前に言ったのは嘘なんだ。俺は好きなんだ。あいつが好きなんだ。だが、お前に嘘を言った。それを緒方が聞いていたんだ。白川が見せた赤い箱、あれは緒方 精次だ。見栄を張ってお前に嘘を言ったから、罰が当たったんだ。・・・天涯の花を盗んだ罰だよ。こんな罰は軽いもんだ」
 暫しの間があった。
「本当に好きだったのか?」
「好きだった。本当は今でも好きだけど、俺にはそんな資格はない。嫌がるあいつを押さえつけて、俺は自分の物にしたんだ。知ってたのに・・・俺はあいつが、進藤が他の奴らにも襲われてるって知ってた。それなのに知らないふりで同じ事をしたんだ」
「そっか。ま、お前は後ろ暗い所があるから、警察ざたには出来ないとは思ってたけど、そう言う気持ちもあったわけだ。俺はお前から何を聞いても忘れる事にしてるんだ。俺の耳にはお前の言葉は残らない。俺は何も知らないぜ」
 同門のよしみだからな。
「俺も潮時なんだ。故郷に帰って手伝いしないとならないしな。棋士生活もお終いだ。だが・・・進藤と約束した事だけは守るつもりだ」
「約束?なんだ?」
「碁を止めない事だそうだ。俺に碁だけは止めて欲しくないそうだ」
「・・・碁を止めない事か。まあ、あんな年で達観してるなあ。自分の事より碁が大事なのか?呆れる奴だな。それこそ、碁が打てないなら死ぬとか言い出すんじゃないか?」
「多分、そうだ。碁があれば生きていけると言ってたからな。あいつがいつも対局の時に持っている扇子。触ろうとして振り払われた。その時に言った言葉が・・・」

「俺の碁に触るな」

「・・・そうなんだ。あいつの碁に触らせてもらう許可さえ、俺にはなかった。だから・・・」
 沈黙の後に、二人の気配が消えた。
 席を立ったのだろう。


「勝手な言い分ですね」
「おお、勝手な言い分だ。で、お前さんたちは相変わらずのやんちゃぶりを発揮してるんだな」
 蓮の言葉に、白川は憮然と返す。
「花盗人に罪がないのは間違いです。盗人は立派な犯罪です」
「そりゃあ、稀少価値のある花だからな。進藤君は」
「稀少価値なんて小さな物じゃないですよ。この世にたった一輪しかないんですよ。進藤君の花は」
 まったく、聞かなければ良かった。
 白川は憮然と、目の前のぬるくなったビールを煽った。


「蓮さんが今日、俺に会いに来てくれたんだ」
 ヒカルの嬉しそうな顔に、緒方は目を細める。
 まだ、数ヶ月しかたってはいないが、何とか笑える程にはなったらしい。
 相変わらず空が好きで、ここにいる時はソファから見上げているが。
「ねえ、緒方先生」
「何だ」
「我慢しなくてもいいよ。俺、大丈夫だから」
 ヒカルの言葉に、緒方は憮然と口を尖らせる。
「馬〜鹿。俺を誰だと思ってる?緒方 精次だぜ」
「どう言う意味?」
「さあ、どう言う意味だろうな」
 二人は顔を見合わせると、盛大に吹き出した。  花盗人 (青嵐番外2)

 白川と緒方 蓮はお互いの近況を話ながら、ちびりちびりと酒を交わしていた。
「由比が犬を飼い始めたんだ」
 由比(ゆい)とは蓮の長女だ。
「でな、それがアフガンハウンドなんだけど、名前がセイって言うんだよ。綺麗で賢くなるようにだと」
「性格が悪くなっても知らないですよ」
 確かに性格が悪くなりそうな名前である。
 その名前を娘が買って来た犬につけた時、蓮は唖然とした物だ。自分も同じ名前を付けようかと思ったからだ。妙な所で似る親子だと。
「由比は、あまり俺とは似てねえのに、妙な所で話が合うんだ」
「親子なんてそんな物かもしれませんね」
「まあ、あいつはお袋に似てるしな」
 蓮が言ったあいつとは、もちろん精次の事だ。
「だが、これで落ち着くだろうな。縁てのは本当に異な物だぜ」
「然り然り」
 白川は重々しく頷いた。

 それは川岸を変えた先の出来事だった。

 隣のひそひそとした話に白川が眉を寄せる。その表情を見て蓮も沈黙した。
 隣の話を聞く為だ。

「お前、その怪我、本当に良いのか?」
「罰が当たったんだ」
「はあ、何だ?それは」
「俺、お前に嘘を言ってた・・・この怪我は緒方 精次が俺に復讐したんだ」

 ここで、白川の顔が変わったのだった。
 何だろう?と、言うように。

「俺、お前に嘘を言ってたんだ。進藤の事」
「嘘ってなんだ?お前、進藤とホテルに行ったんだろ?」
「行ったさ。で、進藤を抱いたんだ」
「嘘じゃないじゃん。何でだ?」
「俺は進藤を・・・お前に言ったのは嘘なんだ。俺は好きなんだ。あいつが好きなんだ。だが、お前に嘘を言った。それを緒方が聞いていたんだ。白川が見せた赤い箱、あれは緒方 精次だ。見栄を張ってお前に嘘を言ったから、罰が当たったんだ。・・・天涯の花を盗んだ罰だよ。こんな罰は軽いもんだ」
 暫しの間があった。
「本当に好きだったのか?」
「好きだった。本当は今でも好きだけど、俺にはそんな資格はない。嫌がるあいつを押さえつけて、俺は自分の物にしたんだ。知ってたのに・・・俺はあいつが、進藤が他の奴らにも襲われてるって知ってた。それなのに知らないふりで同じ事をしたんだ」
「そっか。ま、お前は後ろ暗い所があるから、警察ざたには出来ないとは思ってたけど、そう言う気持ちもあったわけだ。俺はお前から何を聞いても忘れる事にしてるんだ。俺の耳にはお前の言葉は残らない。俺は何も知らないぜ」
 同門のよしみだからな。
「俺も潮時なんだ。故郷に帰って手伝いしないとならないしな。棋士生活もお終いだ。だが・・・進藤と約束した事だけは守るつもりだ」
「約束?なんだ?」
「碁を止めない事だそうだ。俺に碁だけは止めて欲しくないそうだ」
「・・・碁を止めない事か。まあ、あんな年で達観してるなあ。自分の事より碁が大事なのか?呆れる奴だな。それこそ、碁が打てないなら死ぬとか言い出すんじゃないか?」
「多分、そうだ。碁があれば生きていけると言ってたからな。あいつがいつも対局の時に持っている扇子。触ろうとして振り払われた。その時に言った言葉が・・・」

「俺の碁に触るな」

「・・・そうなんだ。あいつの碁に触らせてもらう許可さえ、俺にはなかった。だから・・・」
 沈黙の後に、二人の気配が消えた。
 席を立ったのだろう。


「勝手な言い分ですね」
「おお、勝手な言い分だ。で、お前さんたちは相変わらずのやんちゃぶりを発揮してるんだな」
 蓮の言葉に、白川は憮然と返す。
「花盗人に罪がないのは間違いです。盗人は立派な犯罪です」
「そりゃあ、稀少価値のある花だからな。進藤君は」
「稀少価値なんて小さな物じゃないですよ。この世にたった一輪しかないんですよ。進藤君の花は」
 まったく、聞かなければ良かった。
 白川は憮然と、目の前のぬるくなったビールを煽った。


「蓮さんが今日、俺に会いに来てくれたんだ」
 ヒカルの嬉しそうな顔に、緒方は目を細める。
 まだ、数ヶ月しかたってはいないが、何とか笑える程にはなったらしい。
 相変わらず空が好きで、ここにいる時はソファから見上げているが。
「ねえ、緒方先生」
「何だ」
「我慢しなくてもいいよ。俺、大丈夫だから」
 ヒカルの言葉に、緒方は憮然と口を尖らせる。
「馬〜鹿。俺を誰だと思ってる?緒方 精次だぜ」
「どう言う意味?」
「さあ、どう言う意味だろうな」
 二人は顔を見合わせると、盛大に吹き出した。 
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