ヒカルの碁 マーチでGO9(正装?正装!悽愴〜)
マーチでGO9

 春と言えば・・・お花見。で、本日はお日柄も良い事で、お花見・・・では、なくて、仕事。ついでにお花見。

「俺の部屋何処ですか?」
 ヒカルが渡された部屋割には、芦原と冴木の名前があった。
「芦原さんと、冴木さんと、俺か」
 気心がしれた人と一緒と言うのは、イベントでも随分と助かる。
「おお、進藤。荷物置いたら直ぐ集合だからな」
 冴木の声に、ヒカルは元気よく返事をすると、直ぐに身支度を整えた。
 本日のイベントは、碁だけでなく、野点とかもある女性専用のイベントだ。旅行会社が企画した物で、ヒカルや数名の男性棋士と女性棋士が呼ばれている。
 女性イベントと言うので、ヒカルもスーツ着用だ。
 集合場所に行くと、どうも一番の年下はヒカルらしい。新しいスーツがさまにならないので、ヒカルは困った顔になっていたが、芦原に声をかけられて、ようやく一息つけた。
「進藤君、スーツ新調したの?」
「ええ、身長が伸びたので、どうも前のだと窮屈で。でも、吊しのスーツですけど」
「まだまだ伸びるんだから、仕方ないよ。安いスーツでいいじゃない」
 オレも吊しだし。
 フレンドリーな芦原の言葉に、ヒカルも安心したのだが、旅行会社の人の説明で男性は全員が仰け反った。
「・・・と、言うわけで、野点には着物で参加をして頂きます。着付け等はホテルの方でしますので、安心して下さい」
「冴木さん、着物着た事ある?」
 ヒカルの不安な声に、芦原や冴木も同情を寄せた。
「ああ、ある。大丈夫、そんなに窮屈な物じゃない。今日はそれで、あの二人が呼ばれてたのか?」
 あの二人とは女性棋士の二人だ。彼女達は、二人とも着物を着慣れているのだ。
「俺、着物なんて初めてだよ。浴衣でさえ着れないのに」
「大丈夫よ。進藤君。ちゃんと袴だから、乱暴に歩いても平気よ。私が着せてあげるわ」
 にこにこと微笑む笑顔につられて、ヒカルもようやく笑えたのだが、いざ着てみるとそれは甘かったと感じた。

「可愛いわあ」
 あちこちからそう囁かれる声が聞こえる。むろん、それは進藤 ヒカルの事だ。
 本人は少々、どころか恥ずかしくてたまらない。
 ヒカルに決定的に足りないもの、つまりは痩せすぎなのだ。十八にもなってないヒカルなのだから、当然と言えば当然だ。だが着物は貫禄が必要だ。
「塔矢先生とは大違いだよ」
 ぼやくヒカルに、芦原と冴木は苦笑をかみ殺すのが精一杯だ。
 二十歳を超えている二人は、それなりな体型だ。骨も太い。着物でも違和感はない。
「こんなんでいいのかな?俺、プロなんだよ。いいのかなあ・・・」
「でも、進藤君、可愛いから受けるわよ。本当に可愛いわあ」
 とほほ。と、ぼやくヒカルに、記念写真とカメラが向けられた。
『後で、緒方さんに見せよう』


 イベントは盛況だった。
 夜はディナーがあるので、ヒカル達は仕事から解放される。
「お花見行こうよ。ここのホテルの庭、綺麗だよ」
 芦原の提案で、お花見が決行された。
「・・・今日の着物は疲れた〜」
 ぼやくヒカルに、他の面々は大笑いだ。
「良い経験だったでしょ?」「可愛かったわ」
「そうだ〜!ヒカル君に着物着せてあげるわ。こっち来て。ね、可愛いわよ〜」
 焦って助けを求めるヒカルに、男性陣は明後日の方向を向いていた。

「うわ〜綺麗だねえ」「うん、綺麗だね」
 薄い紫の小紋は、どうも自前だったらしく、現在はヒカルに着せられている。
「どう、可愛いでしょ?」
 あはは・・・ヒカルは力なく笑っている。こうでもしないとやってられない。
「これも記念に撮っておかないとね」
 芦原はカメラをヒカルに向けた。

 後日、芦原が緒方に何か奢ってもらったかは、不明。
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