ヒカルの碁 マーチでGO10(武装!お花見隊)
マーチでGO10

 塔矢門下のお花見に、ヒカルもお呼ばれした。
「塔矢の母さん、料理上手だから、うれしいな」
 ヒカルの母も料理は得意だ。本日は土産に大量の草団子を用意してくれた。
「誰が来るのかな?」
 うきうき気分で、塔矢邸を訪ねたヒカルだ。


「・・・塔矢、みんな何してるの?」
 ヒカルの疑問に、アキラは苦笑する。
 そこには正装した塔矢門下の面々が座っているのだ。が、アキラは普通のセーターを着ている。スーツ姿ではない。
「気にしなくていいよ。うちの前の家がお花のお師匠さんの家でね、うちで花見をする時は、手伝いに来てくれるんだ。お弟子さんたちとね。だから、みんな正装なんだよ」
「そうなのか。俺もスーツでなくて良かった?」
 もちろん。あ、おかあさんが草団子喜んでるよ。ありがとうって。


 庭に毛氈ではないが、縁側に毛氈を敷いて、そこに料理が並べてある。
「ここの方が良く桜が見えるから」
 何時もは男ばかりの塔矢邸も今日は彩りが鮮やかだ。着物ではないが、春らしい装いの女性が、あちこちに見られる。
「うわ〜女の人だ。あ、今日は先生は?」
「父は外せない用事が出来て、いないんだ」
「そっか、残念だなあ」
「まあ、いない方がみんなも気が楽だよ」
 アキラにしてははっきりと言い、くすりと笑う。
 ほら、こんな風にね。指さす先には芦原が照れながら女性と話しをしていた。


「盛況だな」
 ぬっと顔を出したのは、緒方だ。
「あ、緒方さんだ。・・・スーツじゃない!」
 ヒカルの言葉に緒方は首を傾げる。セーターと皮ジャンの服だが何か妙なのだろうか?
「だって、今日はお花見だよ」
「だから、花見だろ?お見合いじゃないんだぞ」
 そんなずばり言わなくても。みんなは張り切ってるんだから。
「ま、俺は関係ないからな」
「そうなの?」
 ヒカルが首を傾げると、緒方は懐から何やら取り出して、ヒカルに見せる。
 叫びを上げそうになったヒカルだが、かろうじて手でそれを飲み込む。
「なんで、それ持ってるの」
「芦原がくれた。今、俺のパソコンの壁紙はこれだ。良い写りだ」
 ちきしょう!芦原さん!
 ヒカルはずんずんと芦原に近づくと、良いムードの二人の間に割り込んだ。
「ねえ、芦原さん。緒方さんが呼んでるよ」
 兄弟子に呼ばれていると言われれば、行かないわけには行かない。
「ちょっと、失礼します」
 芦原は丁寧に頭を下げると、緒方の所にやって来た。
「用ですかあ?緒方さん」
「別に」
「でも、進藤君が呼んでると言ってましたよ」
「うん、これ見せたら、お前の所に行ったんだ」
 緒方のにやにや笑いに、芦原は酷く不味い顔になる。
「・・・緒方さんの意地悪。せっかく、今日は力入れて来たのに」
 オレのドリームが〜!
「俺はこの美人だけで、十分だからな。ま、お前も諦めるんだな」
 指さす方向には、他の門下生と話が弾んでいる先程の女性がいた。
「芦原さんもこりないね」
 アキラのため息に、緒方は上機嫌でヒカルの写真を見せる。
「おや、まあ。すごい美人ですね。データーくれますよね、緒方さん」
 その後、アキラのパソコンの壁紙が和服美人に変わったらしいが、それは誰も知らない話だ。
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