ヒカルの碁 マーチでGO11(真っ白dayと黄色のハンカチ)
マーチでGO11

『あ、お返し買わないと』
 ヒカルはホワイトデーの広告を見て、巨大板チョコを思い出した。
「緒方さんにもお返しいるよね」
 でも、何がいいかな?チョコなんて食べないし、甘い物は嫌いだったよね。

「塔矢、緒方さんて何が好き?」
 ん?と、アキラは碁盤から顔を上げるが、首を傾げる。
「食べ物?は、好き嫌いないよ。甘い物は嫌いだけど」
「あ、やっぱり。どうしようかな?俺、バレンタインのお返ししたいんだよ。でも、緒方さん、服とかにもこだわりあるみたいだし。何がいいか解らないんだ」
「お返しねえ」
 アキラは先月のバレンタインを思い出す。巨大板チョコにでかでかと書かれた文字。
    進藤ラブと君の瞳に乾杯
 そして、自分は進藤のドUPで鼻血を吹いた。思い出すに赤面する話だ。
「そう、お返し。俺、一応、親がかりだから金はあるんだけど・・・緒方さんて何でも持ってるし、解らないんだよ」
 そう言われても、アキラも解らない。緒方の趣味は謎が多い。
 あの白スーツからしてそうだ。戦闘服とか言われたが、何で白スーツが戦闘服なのか?いや、自分の父親も対局には必ず同じ着物だったので、ゲン担ぎは解るが。あれでは、○クザ屋さんに間違えられる。
「さあねえ、本人に聞いてみたら?」
「そうだよな」
 思案顔のヒカルに、アキラはもう言葉がなかった。緒方の趣味は長い付き合いのアキラにも本当に謎だったのだ。


「で、芦原さんは知らない?」
 ヒカルは偶然捕まえた芦原に、緒方の趣味を聞く。
「んん〜?さあねえ。進藤君も気を使わなくてもいいよ。緒方さん、別にお返しなくても何とも思わないから」
 又、プロレスでも付き合ってあげて〜。じゃあ、バイバイ〜!
 軽やかに歩み去る芦原だが、正面の顔は眉を寄せた渋顔だ。
『とんでもない物請求しないだろうな』
 バレンタインの話は有名だ。棋院中を駆けめぐった話題だ。
「プロレス二人でやってるなんて言えば、又、誤解を招くよ」
 はあ〜と、深いため息の芦原だ。

「ねえ、緒方さん、ホワイトデー何欲しい?」
 ヒカルの言葉に緒方はんん?と首を回す。緒方のマンションにヒカルがやって来て、最初に聞いた言葉だ。
「まあ、上がれ。お前の好きなマロンパイ買ってきたから」
「お邪魔します」
 で、何が欲しいの?
「何と聞かれてもなあ、俺は大抵何でも持ってるし・・・そういえば、何でホワイトデーって言うんだ?真っ白って言っても3月だ。雪なんぞ降らないしな」
「そうだよね。何でかな?」
「愛の色と言えば、黄色だ」
 緒方の力説にヒカルは首を傾げる。
「何で?」
 緒方はビデオ棚から一つのビデオを出した。それには【幸せの黄色いハンカチ】と書かれてある。
「今、見てもいいの?」
 頷く緒方に、二人でビデオ鑑賞会だ。で、二人は泣いた。それはもう盛大に。

 さて、ホワイトデー当日。
 和谷は数日前から、ヒカルに昼ご飯を奢ってもらって、貯めた小金を詰めた財布を握りしめる。
「これで足りてくれよ」
 伊角は綺麗な折りたたみのパラソルを、桜子さんに用意した。
「似合うかな?」
 アキラは市河さんに、可愛い花束を用意した。ヒカルも貰ったので、二人で用意したのだ。
 で、肝心のヒカルは、
『緒方先生。俺からの気持ちだよ』
 棋院の駐車場のRX−7には、黄色のハンカチが巻き付けてある。ただし、一枚ではない。何枚あるのか解らない程だ。
 それを見て、緒方は血相を変えてヒカルを探す。
「おい!ヒカル」
 自動販売機の前で、当人を見つけると、思いっきり肩を掴んで揺さぶる。
「お前があれをしたのか?!」
「うん、そうだよ」
 朝から車にせっせと黄色のハンカチを巻いていたヒカルの姿は、沢山に目撃されている。
 みんなは何を悪戯しているのだろうと思っていたのだ。今の緒方の狼狽も愛車に悪戯された怒りだと思っていたのだが・・・。
「嬉しいぞ。最高のプレゼントだ」
「えへ。これからもよろしく」
 ひしと抱き合う二人に、周りは目を向くばかりだ。
「やはり、幸せは白ではなくて黄色だ」
「だよね」
 意味不明な会話に周りは凍り付いている。あれに一体、何の意味があるのか?
「派手なプロポーズだのう」
 桑原は駐車場のRX−7を見て、かっかと笑う。
「幸せの黄色いハンカチか、懐かしいのう。若いもんはいいのう。幸せは白ではなくて黄色だからのう」


 ホワイトデー用です。幸せは白ではなく黄色です。この意味を知りたい方は邦画、
【幸せの黄色いハンカチ】をお父さんかお母さんに聞いて下さい。緒方の趣味は高倉 健でした。
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