ヒカルの碁 | マーチでGO4(無理無理宣言) |
マーチでGO4 芦原の車は、真っ赤なマーチだ。本日もご機嫌でそれを運転している。 隣に座っているのは、塔矢アキラだ。何故に彼がここにいるのかと言うと。 「緒方さんがね、ここに迎えに来いって。ね、アキラも行こうよ。オレだけじゃ嫌だよ」 などと言う理由だ。 アキラとしては嫌な話しだが、友人の芦原の手前、断るわけにもいかない。だが、主な理由は、緒方が進藤ヒカルといる事であった。 「え?進藤もいるんですか?」 「そうなんだ。で、足が欲しいから迎えに来いって。食事奢ってくれるって」 「・・・食事・・・」 進藤の奴、又、食事につられたな。アキラは心の中で盛大に罵った。 緒方の趣味は車だと思われがちだが違う。 緒方の趣味はプロレス観戦だ。碁の次に面白い物だ。 「な、面白かっただろ?」 いささか強引に連れて来られたヒカルに、緒方は愉快そうに語る。 「うん、結構面白い。何かすっとするし。緒方先生が好きな理由解るよ」 渋々ついて来たヒカルだが、ついつい引き込まれてしまった。それどころか、興奮して緒方に特大の笑顔を振りまいている。 「うんうん。お前とは趣味が合うな。アキラ君はこれが嫌いなんだよ。面白くないとか言って。芦原は裸ならレースクイーンの方が良いとかぬかすし」 「はは、アキラらしいし、芦原さんらしいね。ん、でも俺はこっちの方がいいよ」 その言葉に感激の緒方は、 「芦原が来たら、進藤の何でも好きな物食べていいぞ」 「え?俺が選んでいいの?」 う〜ん、俺が選んでいいのか。何しようかな? 「あ、でも、ラーメンは止めておけ」 しっかり釘を刺す緒方だ。 「狭い」 緒方の不満顔に芦原は首を竦める。 「そりゃあ、緒方さんには狭いでしょ」 緒方の身長は180pだ。座りの仕事が多いから、さほど目立たないが、立てば迫力のある存在である。 その緒方が助手席で足を窮屈そうに曲げている。 「狭い。芦原、せめてスカイラインに買替えろ」 さりげなく高い車を持ち出され、芦原は憮然と言い返す。 「オレの給料で買えるのはこれくらいですよ」 「だったら、さっさとタイトル戦くらい残れ」 「・・・昇段が先ですよ・・・」 「まあな」 その会話を後で聞いていたヒカルとアキラはくすくすと笑いあった。 「ねえ、どうして芦原さん、緒方先生とプロレス行かないの?」 ヒカルの質問に芦原はにこやかに答える。 「オレ、プロレスより野球が好きなの」 なるほど、流石緒方の弟弟子だ。頑固なのだ。 「俺も野球は好きだ。芦原は俺を誘わないがな」 「誘うわけないですよ。オレ、球場には行きませんから」 貧乏ですから。と、ぼそりと吐いた。 それに後の二人は大爆笑だ。 「塔矢はどうして行かないんだ?プロレス」 「え、だって緒方さん、その後必ずプロレスやりたがるんだよ。嫌だろ?」 ヒカルはきょとんとする。 「塔矢も緒方先生とプロレスした事あるのか?ええ?凄い!」 「君だってこの前、緒方先生の部屋でしたじゃないか。でも、僕は7.8歳の頃だよ」 まったく良い大人が困ったもんだよ。 「良い大人だからするんだ。血湧き、肉踊るのはプロレスしかない。な、ヒカル」 緒方の熱弁にヒカルも頷いてしまった。 「うん、そうだね。緒方先生」 決定。 芦原とアキラは密かに心の中で合掌した。次の生け贄は進藤ヒカルだ。 「でも、進藤君、緒方さんを好きそうだからいいんじゃない?」 芦原は呑気に呟く。本日の夕食は緒方の奢りで、肉料理だった。(実は芦原が肉がいいとねだったのだ) 今は緒方とヒカルを、緒方のマンションに送って行った帰りだ。(次はアキラを送っているのだ) 「まあね、僕らが無理って言い過ぎたからかな?」 「うっ。それは言わない約束だぞ。緒方さんがどんなに寂しがっても、もう、あの妙な趣味にはつき合わない。だったじゃないか」 「だから、今度のターゲットは進藤か」 正直、緒方の妙な趣味から解放されたのは嬉しい。だが、ヒカルを犠牲にしたのは心が痛むところだ。 その頃の緒方の部屋。 「うわ〜緒方先生」 「な、いいだろう?ヒカル」 「いいけど・・・もうちょっと待って、晩飯吐いたら困るから。ね、もうちょっと。ね、、待ってくださ〜い」 「寝るなよ」 緒方精次。上機嫌の時の呼び名がヒカルに変わったようだ。取り敢えず口説きは成功したらしい。 緒方 精次。碁の次ぎに好きなものはプロレス。プロレスは男のロマンなんです。 |
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