ヒカルの碁 マーチでGO3(初体験)
マーチでGO3


            進藤初体験疑惑


 それが、本日の棋院に出回った噂だった。

 俺は正直それを聞いた時は、『嘘だろ〜』と、思っていた。
 確かに進藤もそう言うお年頃だが、進藤にはとんと浮いた噂話は聞かれない。そもそも進藤には、大切な大切な恋人がいた?のだ。
(このあたりは俺も確証がない、と、言うより、実物を見た事がないためだ)
 その人が今でも好きなのだ。
 俺は手近な身内を捕まえると、噂の出所を探る。
「冴木さん。・・・噂、聞いた?」
 つい小声になるのは、話が話だからだ。
「ああ、聞いた。でも、あの進藤だぞ。この前、コンドームも知らなかった奴なのに、何て噂が流れてるんだか」
 その通りだ。進藤はこの前まで、コンドームを見た事がなかった。緒方に悪戯でプレゼントされるまで、その物、自体を知らなかった。その進藤が何でいきなり?
「噂じゃ、もろにその後があるんだと」
「その後って?」
 俺の疑問に、冴木さんは秀麗な顔を曲げる。
「お前、それじゃあ進藤と変わらないぞ。キスマークの事だよ」
 ああ、そうか。って、
「キ、キスマーク?!」
 思わずの大声に慌てて、冴木さんが俺の口を押さえる。
「静かにしろ。誰が聞いているとも解らないんだから」
「で、でも、進藤がそんな事・・・ありえないんじゃあないかな・・・でも、うーん」
「俺もそう思うがな。今日は進藤は来ないのか?」
「いや、俺と待ち合わせ。もう直ぐ来るかな?」
 進藤にキスマーク?一体、誰が?
 ここで俺は、嫌な考えに当たった。
 もしかして、緒方先生?進藤は最近、緒方先生に馴染んでいる。以前のように見かけると、避けると言う事がない。
「・・・緒方先生・・・」
 その呟きをきっちりと冴木さんは聞いていたらしい。
「・・・まさかあ・・・」
 冴木さんは言葉は否定してるが、ありえない話ではないと顔に書いてある。緒方先生は突拍子もない事をしでかす人だ。悪戯でそう言う痕をつけたかもしれない。
「最近、進藤は緒方先生に懐いているからなあ。時々二人の所を見かけるし」
 ほら、否定しない。
「いくら何でも、緒方先生は本番はしないよ。だから、痕だけ残すとかさ」
 俺の中では既に、緒方先生がやったと言う事になっていた。
「だろうな。犯罪だよ。本番してたら・・・っ、進藤だ・・・」
 俺たちの視線の先には、呑気にふらふらとしながら、進藤が歩いて来る姿が映る。
「こんにちわ。冴木さん。和谷」
 進藤の様子は普段と変わりない。でも、俺は見てしまった。進藤の右腕の内側には、赤く鬱血した痣があった。
 これは確定だ。
「進藤、緒方先生は?」
 俺の質問に進藤はすらりと返す。
「今日は会ってないよ。一昨日は会ったけど。食事、奢ってくれたんだ」
 これはもう確定だな。俺は進藤の肩を叩いて、頷いた。
「嫌だったら、きちんと言うんだぞ」
「?俺、嫌じゃないよ。緒方先生、優しいし」
 俺の隣で冴木さんが、顔を背けた。見れば、鼻から血が・・・すけべめ。
 俺たちは何も言わなかったのに、この話は噂になって駆け回ったらしい。

 だが、翌日。
「あ、大分消えて来た」
 進藤がそのキスマークを擦りながら、にこやかに笑う。
「おや?進藤君もなの?私もなんだよ」
 白川先生も?私も?
 俺の疑問がぐるぐると回る。キスマークが?私も?
「白川先生もなの?俺も。町内の運動会でね。丁度、家にいたから出てくれって頼まれたの」
「私もだよ。知り合いの人のね。綱引き、結構堪えたよ。こんな痣まで出来るし。軍手してたから、手は無事だったけど、半袖だったからね。進藤君も?」
「そう、俺も半袖だったから。結構痛かったけど、もう引いてきたし」
 何ですと?綱引きの痣?ですと。キスマークじゃあないのか?!
「進藤、それ・・・そうだったんだ」
「え?何、うん、そう。見栄悪いよな。その日に緒方先生と会って、先生、ラーメン奢ってくれたんだ。その痣、何だって聞かれたから、話すると笑われた」


 後日。緒方先生が俺たちを呼び止めた。
「進藤、俺がお前にキスマークをつけたと言う噂が流れている。不愉快だから付けさせろ」
 俺たちは丁度、帰る所だった。
「キスマークって何?先生」
 やっぱ、知らなかったんだ。進藤は。
 だが、その言葉に緒方先生は、「実践」と、言うと、この間の疑惑のあと、今はもう何もない場所を強く吸った。
「これだ」
「へえ、こんなになるんだ。って、先生、俺、この前の痣が消えたばかりなのにー。酷いよ」
 進藤は悔しそうに喚いている。だが・・・。
『進藤、そう言う問題じゃないぞ』
 今日も進藤の天然ぶりは健在だ。そして、緒方先生は相変わらず、マイペースで噂を煽りたてた。

    だって、ここ棋院の中なんだぜー! 
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