ヒカルの碁 マーチでGO19(恋人の橋)
マーチでGO19

 ヒカルとアキラが、地方に仕事に行った時の事だ。
「ねえ、あれ、何だろう?」
 ヒカルが指さす方向に、ででんと大きな橋がある。
 だが、そこは池でもなければ、川でもない。もちろん、車も下に通っていない。
「何で、あんな所に橋があるんだろう?」
 アキラとヒカルが首を傾げていると、橋のたもとに石碑がある。
「トラス橋?これ、陸橋?」
 三角形の橋は、公園の端の人道の上にででんと架かっているのだ。
 説明文を読んでいるヒカルに、後から声がかかる。
「これは昔の人道だよ。この上を車と人が通ったんだ。古い物だから、記念に一部を保存したんだよ」
 二人が振り向くと、にこにこと年配の男性が立っている。
「トラス橋なんて、陸橋以外ではもう作らないからね」
「何故です?」と、アキラが聞いた。
「トラスは三角形の組み合わせの橋なんだ。早く作れるけど、これがネックでね。重いんだ」
 成程。
「強度を上げる程、重くなっていくんだよ。君たちは見ただろ?あの大きな橋を」
 海峡に架かっている世界一大きな橋の事だ。
 二人は頷く。
「吊り橋はトラスに比べると軽いんだ。強度もあるしね。橋にも色々あるんだよ」
 男性は笑うと、その場を去った。

「三角の橋か。改めて見ると、可愛いなあ」
「そうだね。でも、これ、橋じゃない橋だね。人が上を通るだけだ」
「引退した橋か・・・。でも、のんびりしてて良いな」
 ヒカルは昨日見学した、あの大きな橋を思い出す。
 見上げても見下ろしても、恐ろしい程大きくて、まるで、空を支えている様に思えた。
「あんな橋も良いけど、この不条理な橋も良いな。橋じゃない橋?あれ?」
 ヒカルがててっと走って行き、橋の下を覗き込む。
「あは、猫だ。ここ、猫の巣なんだ」
 地面とたかだか40pの隙間には、猫が昼寝をしている。
「今度は猫の為の橋らしいね」
 ギャラリーが増えた事に気を悪くした猫は、立ち去ってしまった。
 二人は顔を見合わせるとくすくすと笑った。


「て、言う橋があったんだ」
 ヒカルは緒方の土産話に、あの引退した橋の話をした。
「ほう。愛されていたんだな。その橋は」
 緒方の言い方に、ヒカルは成程と頷く。
「そうだね。愛される橋なんて珍しいね」
「お前と俺の間にも碁と言う橋があったんだぜ。アキラ君ともだ。勿論、他の奴ら達ともだ」
「じゃあ、俺、あの三角の橋が良いな。綺麗な棋譜みたいなんだもん」
「幾何学模様だからな。さ、行こうか」
 緒方はヒカルの手を握る。
「何処へ?」
「恋人達の愛の橋」
 へ?それ何処?
「レインボーブリッジだ。さ、出かけるぞ。俺達の橋に」
 緒方は指で、くるくると車のキーを回した。
「もちろん、夕食付きだ」
 ヒカルは微笑むと、上着を取り上げた。


 明石海峡大橋は、パールビレッジと言います。因みに、明石とついてますが、本当は神戸にありますの。
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