ヒカルの碁 マーチでGO17(もえる夜)
マーチでGO17

 じゃら・・・じゃら・・・じゃら・・・。
「何だ、参加はこれだけか」
 緒方の不満顔に、芦原は肩を竦める。
「そりゃあ、あんな事が会った後じゃ、誰もここに来たいとは思いませんよ」
 芦原の言うのは、先週のパーティの事だ。
 百物語もどきをしていると、心霊現象が起きてしまったと言うものだ。
「勝負師のくせに、意気地無いぞ」
 憮然と、緒方はテーブルをこつこつ叩く。
「勝負師とは関係ないと思いますけど。緒方さん」
 アキラの突っ込みに、ヒカルも頷く。
「そうだよね。で、何で塔矢と芦原さんはここにいるの?」
「出前取ってくれるから」
「うちもたまに出るから。この前は飲み慣れないから二日酔いだったけど」
 アキラが肩を竦めるのに、
「未成年じゃなかった?確か、俺と同じ年」
 ヒカルのとぼけた質問だ。だが、アキラも惚けている。
「そうだったかなあ?」
 じゃら、じゃら・・・
「芦原、それ、当たりだ」
 ほれほれ、どうだ?
「あちゃあ、やられた。緒方さん、親じゃないですか〜」
「ふふ、甘いぞ。勝負師は何時いかなる時にも手を抜いてはいかんのだ」
 荒牌に強い。流石、緒方の底力だ。

 て、麻雀かい?!囲碁じゃないのお?!

「誰が囲碁してるなんて言った?」
「面子は4人なんだから、当然でしょ?」
「たまにはね」
「別に巫山戯てない」

 ごもっともです。


「でも、ヒカル君がお祓い出来るなんて知らなかったよ」
 芦原の言葉に、ヒカルは首を振る。
「俺、お祓いなんて出来ないよ。あれは帰ってもらっただけ」
「へえ、何処に?」
「病院、だって、あの人、生きてるもん」
「へえ、そうなんだ」
 じゃらじゃら。
「あ、上がりだ。引いちゃった」
 はい。ええと、何点かな?
「うわ、又、俺に辛いじゃない」
「良いでしょ。お金かけてないんだから」
「それはそうだけど・・・」


 じゃらじゃら。
「ねえ、アキラの家は何処に出るの?どんなの?俺には見えなかったけど」
「そうだねえ。僕の錯覚かもしれないけど・・・庭の片隅にたまあにいるよ」
「どんなやつ?」
「幽霊と言うより、狐狸の類だと思う。小さな少女が首を傾げてこちらを見てる。時々、枕元で音がしたり」
「それって、座敷童子じゃないの?」
「さあ、どうかな?座敷童子なのか理解に苦しむけどね。だって、お供えすると必ず食べてるんだよ。狢か狐狸だよ」
「そっか、座敷童子はお供え食べないもんな。で、お前の母さんとか平気なの?」
 かちゃん。
 リーチ。
「変わったペットと思ってるらしい。お供えしなくても特に怒る事はないしね」
「そうだな。狢なら余所でもご飯貰ってくるしな」
 麻雀の退屈しのぎの割には・・・妙な会話だなあと芦原は思った。
 かちん。
「当たり。芦原さん」
「ええ?!アキラも〜」
 がっくりと芦原の肩が落ちる。

「だって、芦原さん、背中に妙な物貼り付けてるんだもん。生霊だからその内帰ると思うんだけど・・・。競馬負けてよっぽど悔しいらしいね。芦原さん、競馬券買わなかった?」
 ヒカルの言葉に、芦原は背中を慌ててさする。
「いるの?ここ?」
「うん、いる。ま、害はないよ。鬱憤を晴らしたいだけだから」
「俺、馬券当てたんだよな・・・」
 芦原は溜息をつく。
「ほう、いくらだ?儲けは?何、お前から奢って貰おうとは思ってない」
「当たり前です。緒方さん。1万円です。それだけです」
「何で、そんな少額で?恨まれるの?」
 ン?
「芦原さん、人良さそうだからじゃない?まあ、良いじゃない。対局中じゃないんだから」
 これで厄払いだよ。
 ヒカルの言葉は無情だが、心底、麻雀中で良かったと思う芦原だ。
「阿呆、勝負師が幽霊に負けてどうする。そんな物は気合い一発だ」
「風邪とは違うんですよ」
 芦原は情けない声だ。
「そうですよ。風邪は気合いだけでは治らない時もあります」
 親切なアキラの意見は微妙にずれている。
「・・・あ、帰ったよ」
 ヒカルが芦原を指さす。
「じゃあ、そろそろお開きにするか」
「そうだね」「そうですね」
 片づけられる牌に、芦原のむなしさが募る。
「これから運が向いてくると思ったのに・・・」
「いや、それ以上運は向かないだろ?お前の点棒はおけらだぞ」
 ???
「あ、何時の間に!!!」

「ちくしょう!!俺も生霊飛ばしてやる!!」

「燃えてるな」「だね」「そうですね」

「「「で、誰に?」」」
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