ヒカルの碁 段ボールの階段番外4
段ボールの階段番外4・・・緒方闇討ちされる。

「緒方〜さん」
 この所、絶好調の緒方が振り向くと、目の前には若手棋士の数名の笑顔が並んでいる。
「何だ?」
「赤ちゃん出来たんですって?おめでとうございます」
「おお、ありがとうな。いや、まだ、男か女かは解らないんだけどな。まあ、俺はどちらでもいいんだが」
 さっそくの惚気に皆は内心ではうんざりなのだが、「ここは緒方の機嫌を取らねば」と、言う事で愛想笑いを振りまく。
「ヒカルちゃんに似れば、さぞかし可愛いでしょうね」
 そのたった一言で緒方は舞い上がっている。
「おお、可愛いなあ。パパとか言われたら・・・」
 顔まで赤い。

 おいおい、おっさん!!パパって柄か?
 どすけべ、エロ親父のくせに。
 本因坊誕生の夜に子供仕込んだくせに。
      これ以上は下品過ぎるので、自主規制させていただきます。

「で、俺たち、ヒカルちゃんと緒方さんの為に、お祝い乾杯するんですよ。緒方さん、今日はもう暇でしょ?」
 芦原のにこりとした笑顔につられた緒方は素直に頷いた。
「じゃあ、決まりですね。Tホテルに今から直行便〜」
 くるりと振り向いた芦原の笑顔に、不気味な影がある事には緒方は最後まで気がつかなかった。


「ねえ、アキラ。緒方先生知らない?」
 ヒカルは棋院で、事務処理をしていた。別に約束をしていたわけではないのだが、今日は緒方は、棋院にいるはずだと聞いていたのだ。
「あのねえ。進藤・・・いや、ヒカル。緒方さんはねえ・・・」
 ヒカルはアキラの言葉を聞いた途端、血相をかえる。
「行かなきゃ」
「行くの?じゃあ、僕が車で送るよ」
「ありがとう、アキラ」
 ヒカルの目はランランと輝いている。
 アキラはそれにそっと溜息をついた。これから何が起こるか解りすぎているのだ。


「緒方さん!おめでとう」
「緒方先生。おめでとう」
「「「かんぱ〜い!!」」」
 確かに乾杯だが、上げられた手に握られているのは酒の入ったグラスではない。
 珈琲、紅茶のカップだ。
「・・・乾杯・・・」
 事、ここに至って、緒方はメンバーが変な事に気がついた。
 端から、芦原・和谷・越智・本田・名瀬なのだ。
「どうぞ。いくらでも食べてくださいね。俺なんかここのケーキ5コはいけますよ」
 緒方の前にはずらりと美味しそうなケーキが並べられている。
 ただし、美味しそうと思うのはこの場合、緒方ではない。この日の為に、進藤ヒカル抜け駆け禁止同盟は、甘党を揃えたのだ。
「俺は、甘い物は・・・」
 大嫌いだ。
 そんな、緒方の心の声は当然無視だ。
「遠慮はいりませんよ。ささっ、食べて下さい。僕らからのお祝いなんですから」
「僕らの好意、受け取って貰えますよね」
 さあさあと詰め寄られて、緒方はしょうがなく一個を口にする。
「まだまだ、ありますからねv」「そうですよ。まだまだ食べるんですから」


 緒方が泣く泣く、三個目を口に入れた時、救世主が現れた。
「ヒ・・・ヒカル。助けてくれ」
「あ、ずっこい!緒方先生!何で、皆に奢って貰ってるんだ。こんなに美味しそうなケーキ!」
 テーブルにいた者は(緒方を覗く)、にこりと笑うと、席を追加した。
「さ、ヒカルちゃんも好きなだけ食べて。つわりはもう大丈夫なの?大変だったねえ」
 アキラは緒方の隣に座ると、そっと呟いた。
「まだまだ、あるらしいですよ。復讐」
 その声に、緒方はがくりとテーブルにつっぷした。
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