ヒカルの碁 段ボールの階段番外2
段ボールの階段番外2・・・緒方パパになる。

 本因坊のタイトルを取った翌月、ヒカルは産婦人科の病院にいた。
 この頃、体調が優れないのとまめに取っていた基礎体温が上がりきったままなのだ。
『これは・・・』
 思いっきり揃ったデーターの結果は、やはり・・・。
「おめでとうございます」
 だった。
 ヒカルは目の前の医者に、思いっきり渋い顔を送った。


 この病院は緒方が友人から聞いたと紹介してくれたものだ。
「院長が囲碁好きなんだ」
 その言葉の通り、院長は先月のヒカルの活躍を知っていて、心配そうな顔を向ける。
「仕事に支障がありますか?なら、残念ですが・・・」
 その言葉にヒカルは慌てる。
「いえ、いります。ちゃんと欲しいです」
「ああ、良かったです。では、病院案内をお渡しします。旦那さまも喜ばれますね」
「・・・そうですね」
 緒方の顔が目に浮かび、ヒカルは苦笑する。
『何時出来たか知ったら、みんな大笑いだよ』
 思いっきり心当たりがあるヒカルは、病院を出た後、盛大に溜息をついた。

「出来てた」
 ヒカルはたった一言しか言わなかった。
「そうか。嬉しいぞ」
 緒方も一言だ。
 しかし、その後、緒方は夜のランニングに行ってしまった。
 走りたいらしかった。
「犬みたい」
 身もフタもないヒカルの言葉である。


「うわ!!」
 緒方の叫びだ。
「ゆ、夢?・・・」
 良かった。・・・隣を見るとヒカルはぐうすか寝ている。起さないように、そっとベッドから降りる。
「はあ、吃驚した。今日はここで寝るか」
 リビングに毛布を持ち込んだ緒方は、潜り込もうとして、はたと止める。
 リビングに飾ってある、マレーシアばくのぬいぐるみを取ると、自分の小脇に抱える。
「今日は一緒に寝ような」
 おやすみ。

 緒方が見た夢。
「おめでとうございます」
「アレ?アキラ君、何で看護婦なんだ?」
 差し出された赤ん坊を緒方が見て、絶叫した。
「なんで、この子もアキラ君なんだ?!!」

 緒方は忘れていたが、アキラが産まれた時、緒方は師匠の代わりに病院にいたのだ。
 当然、最初にアキラを眺めたのが、緒方だった。
 その事が夢に出てきたのだが、当の本人はすっかりそんな事は忘れている。
 ばくを抱えたまま、悪夢は続く。

「あ、緒方先生!」
 ヒカルの笑顔に、緒方も嬉しくて笑う。
「でかした、ヒカルで、何処だ?赤ん坊」
「そこだよ」
 べっとりとアキラの顔の赤ん坊が自分の背中に張り付いている。
「!!!」

 これも緒方は忘れていたが、おんぶをしている時に、アキラに盛大にミルクゲロを制服に出された事が夢に・・・以下略。

「男だったら、名前は秀策だよ」
「じゃあ、女だったら?」
「アキラに決まってるじゃん!」
 次ぎの瞬間、緒方の手に赤ん坊のアキラがいる。
「!!!」

 これも、名前を決める時に、その場に緒方がいた・・・以下略。

「あ、アキラ、来てくれたんだ。パパったら酷いんだなあ。○○ちゃん。猿とか言うんだぜ?!産まれた時はみんなそうなのに」
 え、俺はそんな事は絶対、言わないぞ!!
「まったくねえ、緒方さんらしい感想だね」

 これも・・・以下略。

 緒方の悪夢は朝まで続いた。
 緒方が抱いていたばくが、緒方の下であわれにも潰れていたのは、翌朝ヒカルが発見する事になる。
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