ヒカルの碁 段ボールの階段番外1
段ボールの階段番外1

 本日は緒方とヒカルがタイトルを賭けた戦いだ。
 緒方は十段に続き、新たに本因坊のタイトルを奪取していた。
 今や、三冠の重鎮だ。だが、今回、ヒカルが勝てば、本因坊のタイトルはヒカルの物となるのだ。
 もちろん、好きな相手とて、勝負の世界は別だ。
 今までも全力で戦ってきたのだ。だが、ここに至るまで緒方は既に三戦を落としている。 本日は詰めなのだ。
「今日こそ、もらうよ」
 ヒカルの言葉に、緒方も負けずに返す。
「今日から俺の防衛だ」
 これが、今朝の会話である。

 さて、結果はと言うと。
「進藤本因坊誕生」
と、なった。緒方の手からタイトルは離れたのだ。

「進藤さん、おめでとうございます」
 次々にかけられる賞賛とフラッシュにヒカルは目を細めた。
「ありがとうございます」
 それを言うのが精一杯だ。まさかこんなに早くタイトルを取れるとは思っていなかった。
「緒方先生、どうですか?」
 その質問に、緒方は大笑いを返した。みんなが唖然とする中、ヒカルは血相を変える。
『あ、やばい!』
 後を振り向くと、アキラの顔が見えた。今日は近場だから見に来ると言っていたのだ。アキラの顔にも狼狽が見える。
『やる。絶対にやる』
 次の瞬間、ヒカルは緒方に支えられ引きずられるように立ち上がらされた。
「俺は、碁には負けた敗者だが、人生では勝者だ!」
 高らかに宣言すると、
「芦原!あれを配れ!」
 塔矢門下NO2の切れ者芦原が、さっさと例の物を端から配布する。
 アキラは片手で顔を押さえた。
「ああ、やっぱり。派手好き緒方さんだから・・・」
 それは以前写した結婚写真だった。キャビネット版で100枚発注の品だ。
 あちこちで妙な声が響く中。緒方がトドメの言葉は放つ。

「進藤 ヒカル本因坊ではなく、緒方 ヒカル本因坊だ!ヒカルは俺の妻だ!」

 駄目押しとばかりに、キスまでした緒方は、次の瞬間、思いっきりヒカルに殴られていた。
「いてえなあ。お前、タイトルを取るまで公表しないって言ったじゃないか。タイトル取れただろ?」
「TPOをわきまえろ!このスケベ親父!」
 ヒカルは、精一杯の怒声を放つと真っ赤になって、出て行ってしまった。
「あら、怒らせちゃいましたね」
 にこにこと笑う芦原に、緒方は、肩を竦める。
「俺はちゃんと約束を守ったぞ」
 周りで唖然とする人々に向かって、
「進藤 ヒカルは18歳から俺と結婚してました。本人の希望により、本因坊タイトルを取るまで、公にはしない約束でした。で、質問は?」
 ふてぶてしく言い放つ緒方に、周りもかける言葉がない。
 転んでもただでは起きない男緒方に、呆れるしかないのだ。


「進藤、入るよ」
 アキラが控え室を開けると、ヒカルのヒステリーが炸裂していた。
「スケベ親父!変態!」
「だって、緒方さんだから」
 アキラのため息に、脱力を隠せないヒカルだ。
「実は言いにくいんだけど、さっき芦原さんが、緒方さんの名前で、スイート予約してたよ。逃がさないつもりだよ」
 緒方が常々漏らしていた言葉が、ヒカルの脳裏に蘇る。
『タイトル取れたら、めいっぱい中出しさせてもらう』

「セクハラだ〜!」
 人生最良の日に、一番の不幸を味わうヒカルだった。
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