ヒカルの碁 段ボールの階段9
段ボールの階段9

 緒方 精次の可愛い奥さんは、旧姓を進藤 ヒカル。
 ごく普通でない二人は、ごく普通でない出会いをし、ごく普通でない夫婦となりました。 それでも、愛はあるのです。


「ヒカル、クリスマスイブは開けてくれてるんだろ?」
 緒方はご機嫌でヒカルに話しかける。
「あ、悪いけど。俺、その日はイベント」
「嘘だ!俺はちゃんと確認したんだ!」
 緒方の焦った声に、ヒカルは平然と返す。
「塔矢と変わったんだ。だって、塔矢は恋人いるんだぜ。イブくらい空けてやらないと」
「俺とお前も恋人だろ!」
 緒方の叫びに、憤然とヒカルは返す。
「違う、夫婦だ。夫婦はいつでも一緒にいられるけど、恋人は違うんだ!塔矢は毎晩、一緒にいるわけじゃない」
「それはそうだが・・・」
 尚も未練一杯の緒方だが、ヒカルは容赦ない。
「夜には帰ってくるんだから、いいじゃないか。どうせ、二人では何処も行けないんだよ。昼間仕事でもいいじゃない」
 くっ。心で涙を流す緒方だった。


 さて、そんな二人だが、緒方はもちろんヒカルもちゃんとプレゼントを用意してあるのだ。
「緒方先生たいがい何でも持ってるからね」
 ヒカルが選んだのはワインだ。国内産だが、緒方が好きな味を赤・白取り寄せてある。 緒方が選んだのは、システム手帳だ。自分が使って一番使いがってが良かった物を揃えてある。
「多忙になってきたからな」
 ちゃんと好きなカラーの皮表紙を特別に頼んだ代物だ。
「ああ、でも、イブが夜からとは・・・」

 確かに、二人でイブの日に出歩く事は出来ない。そんな特別の日にデートなど、恋人しかしないだろう。
『俺はばれても構わないんだけどなあ』
 緒方はヒカルがばれたくないわけを薄々解っていた。
「俺に気兼ねしなくても、誰も反対なんかしないと思うがな」
 出世株の自分の伴侶が、型破りなヒカルでは何処からかケチがつくと考えているようなのだ。確かにヒカルは型破りな棋士ではあるが、実力は誰もが認めている。
「でも、そこが可愛いがな」
 結局は惚気の緒方であった。


「進藤、緒方さん怒ってない?」
 アキラの言葉に、ヒカルは勝ち誇った笑いを向ける。
「愚痴ったから、へこましてきた。まったく、子供じゃないんだぜ。そんなにべたべたしなくてもいいじゃない」
「でも、緒方さん、楽しみにしてたんじゃない?」
「かもね。夜は一緒なんだから。それに緒方先生、イベントって言うともえるらしいんだ。昼からやられたら、身が持たないよ」
 ヒカルのあっけらかんとした言葉に、アキラは又、頭を抱えた。
「だから、僕は男なんだけど」
「そんな事は解ってるよ。でも、緒方先生の悪癖も事実だ」
 だいたい、人の誕生祝いの日に、ホテルに泊まらせたり入籍したりするか?普通。
「緒方さんらしいけど・・・」
 アキラの言葉は慰めにもならない。しかし、納得は出来る言葉ではある。
「それに俺、プロポーズされてない」
「え?嘘だろう?」
「本当だよ。責任取るってプロポーズなのか?なあ、塔矢。ま、いいけど」
 アキラ的には、緒方のそれは不味いと思う。
『これは、僕から進言するかな?今更だけど』
 緒方さん、プロポーズしてあげてください。進藤は根に持つタイプです。


 緒方が部屋で大きなくしゃみをしたかは不明だ。
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