ヒカルの碁 段ボールの階段5
段ボールの階段5

 進藤 ヒカルの秘密は、緒方 精次と言う旦那様がいる事。この旦那様、碁界ではかなりの有名人。何とタイトル二冠の持ち主。

「俺がタイトル取るまで、結婚式はやらない」
 ヒカルとしては、緒方にふさわしい自分でいたい為の発言だが、当人、緒方にとっては釘バッドで殴られた程、痛い言葉だった。
 だが、そんな緒方に、塔矢 明子は妙案を授けてくれた。
『ありがとう、明子さま』
 緒方の心は爽快であった。


「おわ、歩きずらい」
 純白のドレスに身を包んだヒカルの第一の言葉だ。
 ヒカルは緒方との身長差が15pしか無いので、さほど高い靴を履いているわけではないのだが、スニーカーばかりのヒカルには手に、いや、足にあまる代物だ。
「・・・ああ、綺麗だ・・・」
 うっとりと呟く緒方に、ヒカルが照れくさげに微笑みかける。我が儘を言っている自覚があるので、ヒカルは緒方の言う通り、花嫁衣装で写真を撮るのに、何も言わなかった。
「緒方先生はいつもと変わらないね」
 白いスーツだもん。
 いや、多少は変わっているのだ。いつものスーツには、柄の襟など流石についていない。

「等身大引き延ばしが欲しい」
 撮影後の緒方のとんでもない言葉だ。
「緒方先生・・・そんな事したら誰もうちに呼べないよ。それ何処に飾るつもりなの」
 緒方の大アップなど、誰も見たくはないであろう。もちろん、ヒカルはそんな事を思ったわけではなく、純粋に飾る場所の心配だったのだが。
「ね、普通のでいいだろ?少し大きめを頼めば」
 緒方は残念そうだったが、しぶしぶ折れた。だが、特大サイズを指定すると、なんとキャビネット版を100枚注文したのだ。
「それ、どうするの?」
 ヒカルの質問に、
「お前がタイトルをとったら、これをその場で配りまくる」
「・・・ま、いいけどね。俺、がんばるよ」
 後日それは、忠実に果たされた。ヒカルのタイトル祝いの祝杯が、失恋酒に変わった者も多かった。


「あら、ヒカルちゃん可愛い」
 一足先にその写真を貰った、明子夫人は、アキラに向かって笑いかける。
「ねえ、アキラさんも写真だけ先に取らない?」
「遠慮します」
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