ヒカルの碁 段ボールの階段3
段ボールの階段3

 進藤 ヒカルの秘密。
 実は、緒方 ヒカルと言う名前。緒方 精次十段・棋聖の幼妻だ。
 でも・・・

「俺はタイトルを取るまで、結婚式はしない」
宣言により、現在その関係は公然の秘密だ。
 で、彼女の日常を覗いて見る。


 朝、緒方のマンションからお出かけだ。
「おや、進藤君。今日も泊まりだったのかい?」
「あ、管理人さん。おはようございます」「おはようございます」
 今でも、何故か男と思われているヒカルだった。男にしたら美人すぎるだろうに。
 電車で棋院に出勤だ。本日の仕事は指導碁。流石に何年もしていれば慣れる。
「あ、和谷だ。おはよう」
「おう、進藤、おはよう」
 今日のパートナーの和谷と合流。さっそく仕事。
 午後。仕事が終わると、和谷に飲みに誘われる。
「伊角さんも来るよ。冴木さんも。後、塔矢も来るんだ」
 即、OKの返事。もちろん、アルコールを飲むわけではない。(お酒は二十歳を過ぎてから)
「あれ?緒方先生だ」
 ヒカルが飲みに誘われる日は必ず、緒方が現れる。(地方に行かない以外では毎回だ)
「緒方先生、俺、飲みに行くから」
 よい子のヒカルは必ず、緒方に断りを入れる。(メールか携帯の時もあり)
「じゃあ、俺も一緒に行く。いいだろう?」
 緒方の言葉にヒカルは少々考えていたが、頷いた。(実は結婚してから初めての飲み会だ)
『緒方先生、何も言わないといいけど』


 ヒカルとアキラと和谷は酒が飲めない。よって、居酒屋と言っても食堂形式の場所だ。
「あれ?緒方さんも来たんですか?」
 アキラの言葉に緒方は、
「当たり前だ」と、返す。
 ヒカルに虫が付いては困る。(自分が一番の害虫だとは思っていない)
「あ、アキラ。早いな」
「思ったよりも早く終わったからね。そうだ、彼女が君に会いたいって」
 そして、こっそりと耳打ちする。
『結婚祝いがしたいそうだよ』
「ええ?いらないよお。ね、 緒方先生」
 いきなり振り返って緒方を使命する。三人のやり取りは他にはちんぷんかんぷんだ。
「・・・アキラ君。今度、師匠が暇な時に、挨拶に行くよ。又、都合を教えてくれ」
 アキラは吹き出したいのをこらえて、緒方に頷いた。しゃべれないのだ。口を開くと馬鹿笑いをしそうで。

 食事の席で、いきなりだが緒方が妙な事を言い出したので、ヒカルは少し慌てた。
「なあ、もしもだが。結婚しても夫婦別姓と言われたらお前らどうする?」
 もちろん、ヒカルの事だ。
 伊角は、
「俺は別姓でもいいですよ。その人に地位や立場がある人なら、それがいい」
『流石、伊角さん。良いこと言うじゃん』
 ヒカルは心の中で万歳をする。
「俺は、嫌だ」これは、和谷である。
「だって、嫁さんじゃん。同じ名字の方がいいよ。俺、和谷でなくてもいいから。な、進藤」
 緒方のこめかみが震えた瞬間だ。和谷の言葉ではなくて、『な、進藤』の一言にである。
「え?俺、まだ結婚なんて・・・」
 ヒカルの焦った言葉をアキラがフォローする。
「そうだよ。僕たちまだ、十代なんだから」
「でも、お前、婚約者いるじゃん」
「そうだけど・・・。結婚はまだ先だよ」
「ま、そうだよな。俺、お前らと違って稼ぎ悪いし」
 あっさりと認めた和谷に、緒方の怒りは回避させられたらしい。
「でも、今の法律じゃあ、難しい話だよね。どっちの名字にしても戸籍上は入れないとね。ややこしいよね」
 冴木の言葉に、一同は黙り込んでしまった。実はこの時、アキラ以外の頭には、
『伊角 ヒカル』『和谷 ヒカル』『冴木 ヒカル』と同時に、
『進藤 慎一郎』『進藤 義高』『進藤 光二』が渦巻いていたのだ。
 因みに緒方もだ。緒方 ヒカル・・・。俺のヒカルだ。
 いい年こいた大人が、馬鹿ばかりである。
『免許証はアキラ以外には見せられないよな』
 俺、絶対、違反しない。だって、免許証見せたくない。そう、心に誓うヒカルだった。
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