ヒカルの碁 段ボールの階段2
段ボールの階段2

 緒方十段・棋聖の秘密は可愛い奥さんがいる事だ。
 旧姓を進藤 ヒカルと言う。年齢ただ今18歳と十日。囲碁棋士四段、だが、タイトル戦にも出る強者だ。
 ごく普通でない二人は、ごく普通でない出会いをし、緒方の無断入籍で夫婦になった。 だが、困った事に、

「俺はタイトルを取るまで、結婚式はしないし、名字も変えない」
 
 我が儘な奥さんだが、無断入籍男には返す言葉もない。
『ま、恋人でもいいがな』
 半ばあきらめている緒方だった。


 さて、そんな緒方夫人、もとい、進藤 ヒカルちゃんには塔矢 アキラと言うライバルがいる。これ以上ないと言う程の仲の良さなのだが、緒方がアキラに気をもまないのは、素敵な婚約者のためだ。
 どれくらい素敵かと言うと、タカビーで、自己中のアキラを惚れさせたと言う強者なのだ。ヒカルもこれには驚いた。
「俺、緒方先生と結婚した」
 アキラの碁会所で、ヒカルは目の前のライバルに爆弾発言をかます。
「え・・・。何時?」
「俺の18歳の誕生日」
「そりゃあ、おめでとう。で、式は何時?」
「しないよ。俺がタイトルを取るまでしない。名字も変えない。混乱するだろ?」
「でも、進藤・・・緒方さんが可哀想だよ。君にべた惚れなのに」
「しないものはしない。第一今だって、夫婦には変わりないんだから」
 アキラは頭を抱える。
「そんな事を男の僕に言うんじゃないよ。結婚式は男のロマンだよ」
「・・・アキラ、そう思うのか?普通は女のロマンじゃないか?それに男のロマンって言うのは、恋人に無断で婚姻届を出す事なのか?」
 アキラは唖然とする。
「緒方さん、そんな事したの?」
「俺、免許証交付で初めて知った。両親は知ってたらしいけど。娘に何も言わない両親てどう思う?」
「・・・君が大反対する事が解ってたんだよ。ご両親は」
「ま、知ってたら反対したけどな。俺、緒方先生好きだけど、まだ結婚なんてしたくないよ。7大タイトルの一つもないし、不釣り合いだよ」
 ヒカルの返事にアキラは以外だと心中で呟く。
「俺、これでも自覚はあるんだよ。俺が緒方先生に不釣り合いだって言う自覚。だって、俺、色々トラブルあるやつだし。一応、ライバル門下だし」
「で、不釣り合い?」
 ヒカルは黙って頷く。
「はあ、僕にしてみたら、緒方さんの方が非常識だけどね。君もあんな人と結婚して苦労するよ。緒方さんの相手は君くらいしかいないよ」
 緒方の変人ぶりは同門でも有名だ。気むずかしいし、いつも何を考えているか解らない男なのだ。だが、ヒカルは何を考えているか解るらしい。
「そりゃあ、ちょっと変人だけど、俺には優しいし・・・」
「楽しい惚気をありがとう。僕にしてみたら、君ほどあの人にぴったりの女性はいないけどね」
「あ?アキラにしては上出来なお世辞だな。ま、俺も緒方先生が老けないうちに、タイトル取るよ。でも、緒方先生、当分老けそうにないよ。やだって言うのにしつこいんだよ」
「だから、進藤、僕は男だって言っただろ?」
 赤裸々に頭の痛いアキラだ。


「で、一応は念願かなったんですか」
 緒方の話相手は、同門の芦原だ。
「そうだ。だが、結婚式はしないと言うんだ。タイトルを取るまで」
 それに芦原は肩を竦める。
「法螺でないのが凄いですよね。」
「確かに。だが、俺は・・・ヒカルを見せびらかしたいんだ」
 悲しい男の本音である。
「でも、ヒカルちゃん、タイトル取ったら、即結婚式してもOKなんですよね。もう、結婚してるんだからいいじゃないですか。ね、」
 まったく、幼妻をもらったくせに何て贅沢抜かすんだ。とは、心で思うだけで顔には出さない芦原だ。
 だが、顔には出さなくても、伝わるのは勝負師の感。
「芦原、今、滅茶苦茶失礼な事を考えたな。」
「え?・・・何も考えてないですよ。でも、事務所には連絡したんでしょ?」
「無論だが・・・ヒカルの希望により、進藤のままだ」
「あらら。ヒカルちゃん頑固だから。でも、ま、おめでとうございます」
 芦原の言葉に緒方は嫌そうだ。
「ま、ありがたくもらっておく。で、何もくれないのか?兄弟子の結婚に」
 芦原の顔が蒼白になった瞬間だった。
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