ヒカルの碁 段ボールの階段14
段ボールの階段14

「あれ?」
 和谷は首を傾げた。目の前を歩く二人には見覚えがありありだ。
 一人は二冠の白スーツ。一人は若手NO1を争うみんなのアイドル。
 二人の名前は、緒方 精次と進藤 ヒカル。
 (実は内緒の熱々夫婦である。だが、この事は周りにはひみつなのです)
「緒方先生と進藤じゃん。何処行くんだろう?」
 な、進藤の奴、緒方先生と腕組んでる?何でだ?
 しかも、凄く嬉しそうな顔じゃん。
『で、でーと〜!』
 和谷の頭に5tの重りが落ちた。
「これは後を付けないと。緒方先生は抜け駆け禁止同盟に入ってないんだからな」
 解説しよう。抜け駆け禁止同盟とは、その名の通り、進藤 ヒカル非公式ファンクラブである。何?これでは解らない?ようは、進藤 ヒカルを独り占めしない同盟である。
 和谷はその会員だ。
 二人が入った先を見て、和谷は首を傾げた。
『デートじゃなくて、奢りかあ』
 二人が入った先は、映画館・・・だが、
「何で、ド○えもん?」
 良く解らないながらも、和谷もチケットを買うと二人の背後の席に座った。

 ヒカルは大きなポップコーンと炭酸ペットボトルをキープして映画に見入っている。
『何か、凄く楽しそうだよな』
 和谷は二人の後姿を見ながら、ぶちぶちと不平を漏らす。
『あ、肩なんて抱いてる、ぷっ!手、はたかれてやんの』

 映画はクライマックス。
 主人公ののび○の声が館内に響きわたる。
 和谷は二人のウォチングに忙しくて、映画を半分も見ていなかったので、ヒカルが緒方の肩を抱いて、頭を撫でているのを見て度肝を抜いた。
『なんなんだ〜!』
 進藤の奴、緒方先生と・・・。 
 明かりがついてから、和谷は緒方が泣いていた事に気が付いた。しかし、尾行がばれては不味いので、出来るだけ視界に入らないように、そっとそっと移動を始める。
 そんな事はまったく知らない二人は、会場の外の椅子で、感動のため息を零している。
「良かったね。緒方先生」
「ああ、良かった」
 泣いていた緒方は、照れくさいのかサングラスをかけている。
 黒サングラスはかなり怪しい代物だ。
「ねえ、今度はコ○ンを見に行こうね。TV放送、感動したもん」
 ヒカルの言葉に、緒方は楽しそうに頷く。
「さ、飯にしようか?何がいい?」
「そうだな・・・」
 歩き去る二人の後を和谷は見送ると、にやりと笑った。

「進藤、コ○ンのチケットがあるんだけど、どう?行かないか?」
 和谷はヒカルの前で、そのチケットをひらつかせる。
「和谷、悪いな。俺、それ試写で見た。緒方先生が連れて行ってくれたんだ。ごめんな」
 しげ子ちゃんでも誘ってよ。
 ヒカルの言葉に固まるしかない和谷だった。
ヒカルの碁目次 1315