幻想水滸伝 | 太陽の国から |
ううむ、又夜逃げをするとは思わなかった。 キリルの呟きに、はああとため息が落ちる。 「旦那、緊張感の欠片も無い事言わないで下さいよ」 「僕は至って真面目だよ」 「しかし、ここを明け渡してどうするつもりですかねえ。あの軍師さまは」 「・・・水攻めだよ」 キリルの言葉に、ヤールははあ?と、首を傾げる。 「あの人はね、しかるべき時にこの城を水没させるつもりなんだよ」 「そんな事できるんですか・・・」 出来るよ。 「ここの遺跡の制御は王子の黎明の紋章が握っているからね。地下の調節水路をいじれば水はかさを増す。でも実際、この城をどうやって地上に出したかは誰も知らないからね」 ツヴァイクと軍師あたりの数名しか。 「旦那は何で知ってるんです?」 「ツヴァイクに聞いたからね」 「へえ、旦那と話しが合ったんですか?」 「一応、交換条件だよ。オベルや北の大陸の遺跡の話と交換」 彼は純粋に学者だからそれを政権に使うなんてしないよ。 キリルにはまだする事があった。 「ヤール、エストライズに行くから付いてきてくれない?」 胡散臭い笑みだ。 「あそこはまだ封鎖されてるでしょ?」 「まあまあ、大丈夫だから」 ヤールは仕事の関係もあって、ラズロよりキリルの方が付き合いが長い。顔に騙されないと言うのもちゃんと心得ているのだが、どうにもこうにも読めない事が多い。 「あ、軍服は脱いでてね。そうだなあ、カイルあたりに服を借りたら良いんじゃない?確か、変装用に何着か持ってたと思うから」 「うい」 「良いお返事です。では、今夜にでも立つよ。舟を借りてくるから操縦の方をお願いするよ」 「又、何でエストライズなんです?」 んん?と、キリルは舟の上でのんびりと星を仰ぐ。 「そりゃあ、商業港だからね」 群島からの船も多いし。 「はあ。なるほど。しかし、それなら他の港にでも行けば良いと思いますけど?」 身の安全の為に。 「大丈夫だって。街もみたいし好都合なんだよ」 なにげに人使いが荒いとヤールはため息を零す。 「あ、人使い荒いとか思った?僕は荒く無い方だよ。ラズロなんかもっと荒いもの」 僕の比じゃないよ。 「はあ」 あの優しい顔の慈悲の人が? いやいや、何せ群島の海を束ねた人だからなあ。海賊まで傘下に置いてた人だし。 「まあ、本人も働き者ではあるけどね」 「くしゅん」 「風邪か?」 「いや・・・誰か噂してる」 キリルか? 「じゃあ、良い便りだな。元気でやってるんじゃないか」 「あ、そうかあ」 エストライズの街への門は警備はしてあったが、誰でも通れるようだ。 自由に街の人も近隣の村に訪れている。 「ほらね」 街を眺めながら、キリルは食堂を探すと、一軒の宿に入った。 「食事を二人前。後、ビールを」 ばさりとマントを剥がし、椅子に座る。 「あれ?旦那・・・アーメスの兵隊が食事してますよ」 こっそりと囁く。 「まあ、そうだろうね。兵士にも休暇はあるし」 軍の食事以外も食べたいだろうねえ。折角余所の国にいるんだから。 「何か・・・群島と似てません。その考え」 さあと、キリルは持ってきてもらったビールを渡す。 「まあ、飲んでそれからだよ」 キリルが酒を頼んだ理由はヤールには直ぐに解った。 「坊主、子どもの癖に酒を飲んでるのか?」 と、声をかけられたからだ。 「僕はこれでも二十歳を超えてるんですよ」 いやあ、若く見えすぎるのが困るんですけど。 「お、そりゃあ悪かったなあ」 アーメスの兵隊だ。 「何処から来たんだ?」 「仕事で群島の方からもう、帰る予定だったんですけど、戦争になったんでまあ、一応、ここまで来たんです。定期便が動いてないかなと思って」 「お、そりゃあ悪かったな。商業船は動いてるんだが、定期便は動いて無いんだ」 彼はどうやら士官らしい。内情に詳しいようだ。 「まあ、急ぐ旅では無いので。ここの治安が良くてほっとしてます。旅人にはありがたい」 「そりゃあ、シュラさまが無用な戦いは避けるって人だからな。群島との守りを預かる身だ。こっちは俺等の知った事じゃ無いんだよ。俺等から見たら、内戦だからな」 「ふうん。賢明だね」 「おうさ。まあ、シュラさまは海の男には見えないけど、男らしい人さ」 横で聞いていたヤールはなるほどとキリルに目配せした。 「あ、この人、僕の護衛なんだ。人相悪いけど、話はしやすい人だから」 じゃあ、僕はちょっと街をうろついて来るね。治安も兵士の人が出てるから良さそうだし。 「おお、大人の話なんぞ退屈だろう。市場でも見て来たら良いよ。誰も何もしないから」 ひらひらと手を振りキリルは宿から出る。 「さあてと、真珠の値段でも見てきますか」 「提督、早便の船からです」 スカルドはその手紙を見ると、ほうと面白そうに顔を弛める。 「全艦、出向の準備を。エストライズに向かって南下するぞ」 「良いんですか?」 一応聞いて見るがスカルドは覆さないだろう。 「何を言う。エストライズからの定期便がでなければラズロさまも帰って来れないじゃないか。港の封鎖は解除して貰わねばな」 「なるほど。そうですね」 現人神と聞いて、みんなは頷く。 ラズロを助けるのは群島諸国連合としては当然のことだ。 「では、準備しましょう」 「群島諸国連合の船が南下してくるか」 シュラは、渡された手紙を捲る。これは今日、街であった少年に渡されたものだ。 「これを渡してくれと頼まれました」 黒髪に黒い瞳の少年。 「お使いですか。ありがとうございます」 「いえ、頼まれただけだから」 お茶でも如何です?キリルさま。 「あ〜やっぱりばれたと言うか僕の事知ってたの?」 キリルは残念と言う顔でシュラを振り返る。 「いえ、子どもにしては堂々と私に話かけるんで。一応、敵の総大将なんですけどね」 私は。 「ここでは何ですからこちらへ」 そう行って、シュラはキリルを船の一室に通してくれた。 「アレニア殿は街の外に行っているとか」 「見計らって来たからね」 それはそれは。 「群島諸国連合艦隊の南下ですか?」 別に事を構えるわけでは無いよ。 「解っております」 「群島もそうだけど、艦隊の大多数の仕事は船の護衛だからね。海賊からの」 「こちらもそうです。でも、アレニア殿には通用するでしょう。何せ、軍艦ですから」 あ、そうだ。貴方がいると言う事は、群島の英雄殿もいるんですか? 「まあ、ファレナにはいるよ。王子の所にはいないけどね。遺跡巡りをしているはずだから、何処かの遺跡にはいると思うけどね」 そうですか。 「残念ですね」 「まあ、そんなわけでエストライズの港から定期便が出ないと困るんだよね。だから、艦隊が南下してくるよ」 「ええ。そろそろこちらも潮時ですし、もう直ぐ他の軍から知らせが来るでしょう」 さっさと撤退しますよ。 |
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