幻想水滸伝 | 太陽の国から |
たまにはのんびりとするのも良いよねと、キリルはヤシュナ村にいる。 「温泉ってテッドが喜びそうだよね」 今頃、何処にいるのか。 「旦那、ベルさまが知ったら怒りますよ」 呆れたとのヤールの言葉に、キリルは知らぬ存ぜぬを通す。 「別に僕のせいじゃないもん。そりゃあ、多少チャンスを知らせたとかはあるけど。だって、孫には力貸したいと思わない?」 「孫って誰です?キリルさまやラズロさまでは無いですよね」 あれ?知らなかったんだ。しまったなあ。 「いや、知ってると思ってた」 だからあ、何をです? 「王子ってスカルドの孫だよ」 一瞬、??と言う顔を浮かべる。 「え?それって・・・」 「だからフェリド。あれは行方不明の長男だよ。イーガン家の」 「・・・ええええ?いや、だって、フェリドって名前じゃなかったじゃないですか」 件の長男は。 「うん、まあ、フェリドでは無かったね。偽名でも無いんだけど。ミドルネームと言う事でね」 「マジですか?」 「僕が冗談言うように見える?」 「旦那は何時も冗談ですませてるように見えるんですけど?」 ひどいなあとキリルはそっぽを向く。 「そりゃあ、はったりな時もあるけど。ラズロほどでも無いと思うんだけどなあ」 くしゅん。 「風邪か?」 「いや、別に。しかし、始祖の地がこんなに寒いとは思わなかったなあ」 「ああ、まあな。準備だけはしてきたけど、一週間が限界だな」 「そうだねえ」 二人は頷くと、火の紋章を作動させる。 熱を最小限に抑えると自分の周りに張り巡らせる。 「随分、上手くなったじゃねえか」 「まあね」 僕ももう100年以上は生きたからね。 「・・・楽しかったよ・・・」 ぽつりとしたテッドの呟きにラズロは頷く。 「うん。楽しかった」 「だから、約束してくれ」 「何を?」 「俺が死んでも泣かないでくれよ」 ひどい男だなとラズロは思う。だが、口に出しては、 「うん、泣かないよ」 「ありがと。俺も安心出来るよ」 さあ、調査するか。 「うん」 『死んでも泣くなか』 勝手だなあと思うが、自分も同じ立場だ。 『何時か・・・』 「どうした?」 隣に眠る人が目を開けて聞いて来る。 「いや、昼間の事」 「?」 「俺が死んでも〜ってあたりの事」 何か心当たりあるの? 「鋭いな。まあな・・・」 最近、昔の事が思い出されて。ぼんやりとした記憶なんだがな。 「そう・・・」 「拗ねてる?」 こつりと額を合わせるテッドに、ラズロはため息を零す。 「そんな事してもどうしようも無いよ。僕だって、一度はみんなを置いて行った」 罰は僕を手に入れる為に器を作ったけどね。 「ソウルイーターは寂しがりだ。一人が嫌なんだ」 「じゃあ、俺を喰らったら寂しさは減るかな?永年の連れだ」 軽口だ。だが・・・ 紋章の伴侶であると言う事はそう言う事なのだとお互いが知っている。 理不尽な力を人の器に受け入れる事。 ラズロは自身が作られた経過から、紋章の根源の一端を知った。 彼らには全も悪も無いが、求めるものはある。 この世を作った欠片は時に、人など関係無く離れてしまった同胞、あるいは自身の欠片を探す。その姿は時に容赦なく、海を割り地を裂く。同胞の嘆きに紋章は答えるのだ。 「なあ、ラズロ。その時の俺はきっと想い残す事は無いと思うんだ」 良くがんばったって褒めてくれよ。 「うん、きっとね」 指切りだ。 「うん、テッド」 「罰の紋章の下位紋章?」 ヤールは首を傾げる。 「そう。断罪の紋章。罰の紋章の欠片と言うか一部だよ」 キリルは懐からそれを取り出した。 「これはラズロに渡しておかないとね」 古書に封印されてたんだよ。 「罰の紋章のような力は無いけど、それでもまあ、物騒なものにはかわりないからね」 シュラ殿がここに着いたら、僕はエストライズに行くよ。 「ジーンさんがこれに封印を施してくれてるから。エストライズで彼らに会えなければオベルに送っておく」 まあ、多分、会えると思うけど。 「旦那はどうしてその・・・ラズロさまの居所とか解るんですか?」 「感だよ?」 「な、わけ無いでしょ?何か秘密があるんでしょ?」 さあねえ。 「強いて言えば、人外だからだよ」 これ以上は企業秘密だから。 しっ〜とキリルは唇に指を当てる。 「知らない方が良い事もあるよ」 「って、又、煙に巻く」 ははっ。煙になんか巻いてないよ。強いて言えば、 「説明しにくいだけ」 何せ、人外なんでねえ。 「じゃあ、一つだけ答えて下さいよ」 「何?」 「旦那はこの戦い勝てると思います?」 「勝てるよ」 実にあっさりとキリルは言い放つ。 「あの子は勝てる。ただ・・・」 「ただ?」 「あの子が望む奇跡は、一瞬の幻でしかないのが悲しいね。でも、幻でも真実なんだよ。紋章は望めば奇跡を起こしてくれる。でも、その道のりは腕をもがれ足をもがれ血を吐く道程だけどね」 「・・・そんなにして王子が欲しい幻って何です?」 「それは内緒。プライバシーだからね」 |
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