幻想水滸伝 太陽の国から
「あ、良かった会えた」
 キリルは笑うとラズロとテッドに手を振る。
「よお、キリル。暫くぶりだ」
 テッドはキリルの肩をばんばんと叩くと豪快に笑った。
「まあ、つもる話もあるから宿を取ってあるから行こう」
 そっちもあるでしょ?
「ああ、そうだな。色々とまあな」

 風呂で旅の疲れを落とした後、一頻り飲み食いをして一息入れる。
「あちこちとかけずり回ってたんでしょ?」
 ラズロの言葉にキリルは頷く。
「まあね。そうそう、ジーンさんに会ったよ。元気だよ」
 まあ、まずその話からしようか。
「断罪の紋章」
 とんとテーブルに置かれた封印球をラズロは受け取って眺める。
「・・・だね。まあ、よくもこんな大陸にあったもんだね。150年の年月は想像もつかない事も起こるね」
 じゃあ、これはここに封印と。
 ラズロは断罪の紋章を左手の甲に乗せるとぐいっと押しつけた。
「おかえり」
 きらきらと光が待った後、封印球は影も形も無くなっている。
「で、次は何の話をしよう?遺跡の城の話?戦況の話?他にもシュラの話とかあるけど」
「順番に話してよ。あ、でも、そうだなあ。戦況の話の方が良いね」
 こっちは僻地ばかり廻ってたから。
「OK」


「へえ、よくまあ、自分の大切な資料を写させてくれたな」
 分厚い紙束をテッドが持ち上げる。
「まあ、交換条件あったから。でも、見た通り、めぼしい物はないよ。実はレインウォールの近くに大穴があってそこにも地下神殿があるんだけど、ジーンさんが言うにはやはりめぼしい物は無いんだって。もう、何も残って無いらしい」
 でも、古代アーメスの都市らしいから行ってみたら?
「う〜ん。そうだなあ。折角こっちの大陸に来たんだからな」
「そうだね。二人ならまあ何とかなるでしょう」
 キリルは?
 ラズロの言葉に、キリルは頷く。
「まだ、ここにいるよ。戦争が終わるまではいるね。ソルファレナも見てみたいし。王子の事もね・・・」
「どんな子だった?」
 にこにことラズロが聞いてくる。
「一言で言えば、健気だよ。別の言い方で言うと妹を失いたく無い為に必死だね」
 あの子の奇跡を聞いたよ。
「みんなが笑って欲しいんだってさ。自分は笑えなくても良いんだね」
 キリルの皮肉な言い方にラズロは苦笑した。
「まあね・・・天魁星だからね」
 ずいっと顔を寄せるキリルに、僕は元々笑えたよと、顔を振る。
「ほんとう?ねえ、テッド」
「さあなあ。笑えたと言うより・・・笑うように心掛けてたんだろ?こいつの親父の助言がな、それだったから」
「でも、僕は得たものが多かったから・・・。今までどんなに手を伸ばしても手に入らなかったものが手に入ったから・・・」
「ささやかだよな。一緒に飯喰って頭撫でてくれる事が手に入れたかったものだなんて」
「でも、結局は人の幸福はそれでしょ?」
 ラズロは穏やかにキリルとテッドを交互に見る。
「違いないな」
「だね」

「そう言えば、スカルドが艦隊を動かしたって?」
 ラズロの言葉にキリルはにやりと笑う。
「君がここにいるから港の封鎖を解いて欲しいって名目だよ」
「で、誰の案?」
「半分は僕かなあ?あの軍師さんを気にいったから」
 キリルの言葉に、ラズロが肩を竦める。
「まあ、動かしただけだからね。一応、僕からも何か進言しておくよ。洋上会議の方には」
 後味は良くしておくに限るからね。
「ベルの渋い顔が目に浮かぶね」
「あ、そう言えば、ヤールはフェリドの事を知らなかったんだね。君が教えたと思ってたけど」
「僕にも守秘はあるよ。あの子は可愛い子だったんだよ」
 フェリドはね、可愛い子だった。
「あの子はトロイに似てる」
 考え込んでしまったラズロの背を後ろからテッドが叩く。
「おい、そんな惚気は聞きたくないんだがな。俺としては」
「惚気って・・・」
「そうだよねえ。惚気だよねえ。昔の男の」
 キリルのしれっとした言葉に流石にラズロもうんざりだ。
「まったく。何が昔の男だよ。ああ、確かにあの人のおかげで命拾いした事もあるけど」
 まったく。
「ねえ、キリル」
 何?
「ソルファレナに行ったら、フェリドの物を一つ持って帰って来てくれない。小さなもので良いんだ」
 うん。解った。
「海に還してあげたいからね」
 群島の民は海に還ると決まっている。でも、フェリドはこの地に眠る事を選んだ。
「女王のものも何かもらってくるよ。一緒が良いだろ」
 そうだね。
「彼女にも群島の海を見て欲しいから」
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