幻想水滸伝 太陽の国から
 王子がソルファレナを奪還した。
「なるほど、綺麗な都だな」
 呟くキリルに、ジーンが案内しましょうか?と、親切にも申し出てくれた。
「ええと、ジーンさんはここにいたの?」
「ええ。ちょっと色々あってね。黄昏の紋章を宿す手伝いもしたわね」
 へえ。
「ジーンさんはこれからどうするの?」
「さあ?ふふ」
 又、ここでも紋章師をするわ。
「じゃあ、少し居候しても良いかな?僕はちょっとここに残りたいんだ」
「ええ、大歓迎よ」
 キリルさんがいるなら頼みたい事も色々あるしね。
「僕に出来る事なら何でもするよ。まあ、その前に本当の意味で終わらせないといけないけどね」
 太陽の紋章は持ち出されちゃったんでしょ?
「そのようね」
「あんなもの持ち出してもしょうがないんだけど。これも太陽の紋章の影響かな」
 ラズロなら答えてくれるんだろうけど。
「罰の君?今、いるんでしょ?ここに」
「うん、まだいるよ。テッドと多分・・・地下神殿に行ったんじゃないかな?ジーンさんは何も無いって言ったけど、テッドが貴重な遺跡を見たいって言ってたし」
「あら。そうなの。あそこはまあ、本当にもう何も無いのよ。私が最後の鍵を取りに行ってしまったから」
「なるほど」
 最後の鍵ね。
「でも、エレッシュさんは?帰れないでしょ?」
「ああ、それは大丈夫よ。あの子はもう鍵を手に入れてるから」
 心配はいらないわ。
「なら良いんですけど」


「あら、キリル殿」
 呼び止めたのはルクレティアだ。
「ああ、軍師殿。僕に御用ですか?」
「用が無いと駄目ですか?」
 いいえ。光栄ですよと、キリルが微笑むとルクレィアは嬉しそうに笑う。
「あら、嬉しいです。貴方が王宮に来るなんてすごく珍しいので慌てて呼び止めてしまったんですよ」
「そう言えば、僕が王宮に来るのは珍しいですか」
「ご一緒にお茶でも如何ですか?」
「ええ、喜んで」

「オベルからルナスを調べに来た方がいたとか?」
「ああ、ラズロですよ。ラズロとテッド。彼らは真の紋章を持ってます」
「・・・私にそんな事を言って良いんですか?」
 ルクレティアは困ったように笑う。
「良いんですよ。貴方が彼らを使う事は無いですし、借りに貴方が使いたいと思っても彼らは御せませんよ」
 手強いんですね。
「いいえ。とんずらするのが上手いんですよ」
 あらあらとルクレティアは扇で顔を隠す。
「二人は完全に紋章を制御出来てますから。紋章の誘惑に抗えるんですよ」
「紋章の制御?」
 どうやって?
「知りたいですか?」
「貴方が教えて下さるなら。是非」
「ラズロは紋章が許しその身を削りその身を作ったんですよ。端的に言えば、彼は一度死にました」
「死んだ?のですか・・・」
「ええ。でも、紋章が108星の奇跡が彼を蘇らせたんですよ」
「じゃあもう一人の方は?」
 テッドは・・・。
「僕も詳しい事は知りませんけど。世の中はバランスで成り立っているが彼の口癖です。そのバランスが何か知ってるんでしょう」
 彼は追われる人なので。
「追われるとは?」
「貴方も名前くらいは知ってるのでは?門の紋章を持っている一族。その最後の二人。一人はレックナート。一人はウィンディ。彼はこの人に狙われています」
「・・・」
「何故、彼女がテッドの紋章を欲しいのか解りませんが。復讐か権力か、それとも・・・」
「それとも?」
「いえ、これは貴方には関わりない事ですよ」
 貴方は人です。だから、人以外の者が考える事に同意をしてはいけません。
「我ら人外の中には混沌を望むものもいます。永らく紋章を宿している者は既に人ではありません。狂気に支配され狂うものもいるのですよ」
 ファレナの女王のようにね。
「彼女は宿してほんの数年だったけど、狂気に支配されてしまったでしょ?」
「ええ」
「貴方にはそれが予測出来なかった。違います?」
「・・・そうです」
「僕は貴方を責めているのではありませんよ。紋章には人と生死も何も関係無いんです。嵐は人の生活の心配なんかしないんですよ」
「・・・そうですね」
 キリルは困ったと頭を掻く。
「僕がどんなに言っても貴方を傷つけてしまいますね」
「いえ、そんな事は無いですよ」
「・・・軍師と言えども後悔しないわけは無い。人、だからね。僕は少々と言うかかなり年寄りなんで、貴方の愚痴くらい聞き流せる。貴方が言いたい愚痴を言えば良い」
 キリルの言葉使いが少し変わる。対等から年長のものが年下に言い聞かせるようにと。
「・・・ええ、後悔してるんですよ。私は迂闊でした。ゴドウィン卿が太陽の紋章を調べていたので、人にも御せるのでは無いか?それが女王の血筋なら尚更と。結果は、あの通りでしたね。紋章は人を選ぶのですね」
「正確には王子は紋章に選ばれた人では無いかな。まあ、彼なら太陽の紋章を宿す事も可能かもしれないけど」
 え?と、ルクレティアは顔を上げる。
「王子が?」
「そう。でも、彼はそんな事はしないだろうね。彼の願いはみんなが笑える事だし、王になりたいわけでも無い。黎明はその本質を見抜いて王子を選んだんだろうね。彼には欲が無いからね」
「王子はあれで幸せなんでしょうか?」
「さあ、でも、彼は打たれ強い人だよ。寂しさの中にも温もりを見いだせるし、庇護されながらも人も守れる。何時でも前を向いて歩ける。だからこそ選ばれたんじゃないかな?」
 彼は似てるよ。
「誰にです?」
「許しを司る人にね」
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