幻想水滸伝 太陽の国から
「お帰りなさい。珍しい人がいらしてるわよ」
 キリルがジーンの元に帰ると、テッドがいた。
「・・・君・・・ラズロは?何処?」
 慌てて周りを見渡しがラズロの姿は見えない。
「ああ、あいつは一足先に軍艦が迎えに来た」
「洋上会議で何かあったのか?」
 いや〜。別に。
「お前さんのアレで、洋上会議の方に顔を出すと伝えたら、迎えを寄越すとな。ただそれだけだ。どうせ、スカルド提督もばっくれるんだろうし。それも洋上会議には暗黙の了解だろうし。向こうもファレナが不安定なのは困るわけだし」
「君は帰らなかったのか?」
「まあな」
「じゃあ、何処か食事にでも行くかい?」
「ああ、頼む」
 いってらっしゃい〜と、言うジーンの言葉に送られ、キリルは近くの酒場にテッドを案内する。
「ジーンさんは相変わらずだな」
「そうだね。まあ、ちょっと違うみたいだけど中身は同じだし」
「中身は同じか・・・」
 まるで紋章みたいだな。
「宿主で変わる」
「まあ、そう言う解釈は正解だよ。変わらないけど変わる」
 あのな・・・。
「何、テッド」
「もしかしたら、俺はもう長く無いかもしれない」
 言ってくすりとテッドは笑う。
「長くないなんてお笑いな言葉だな。いや、まあ、そんな気がするんだよ。だから、俺がいなくなったらラズロの事、頼むな」
「頼むと言われても、あの子はそんな事、はなから覚悟してるよ」
「まあ、解ってる」
 テッドはぽりぽりと鼻の上を掻くと照れくさそうに苦笑する。
「うん、まあ、これはほら、常套句と言うかほら、何だ、アレだよ」
 アレ。
「解ってるよ。ラズロも人である事には変わらない。いささかも動揺しないなんて事は出来ないだろうからね。君がそう・・・君の存在が生きてると解ってても」
「!何か見えるのか?」
「さあ、君は紋章との融合が強いからね。魂の半分が・・・既に紋章化してる・・・」
 って言ったら信じる?
 にこりと笑うキリルに、テッドがたち悪いと零す。
「でも、まあ。そうかもしれない。この頃、こいつは魂喰いをしないしな。俺のを喰ってるんだろう」
「君が喰ってるんだろ?」
「・・・まったく、お前は・・・。言いにくい事をずばり言うな」
 それが僕だからね。
「ところで、戦争の方はどうなんだ?」
「この間、けりはついたよ。ソルファレナには平和が戻ったと言うわけさ」
「お前さんはどうするね?」
「さあ、どうしようかなあ?暫くはここに居座るって決めてるけど・・・」
「お前さんもお節介だよな」
「それが僕なんで」
 テッドはやってきた、酒のグラスを乾杯と付き合わせるとぐいっと空けた。
「王子さんにはお前さんがいた方が良いんだろうな」
「あの子はラズロにそっくりだからね。流石、血だよね」
 へえ。
「オベル王家の血は特別に濃いと言うわけか」


「で、王子はどうするって決めたんだい?」
 キリルの前にいるのはゲオルグだ。
「さあな。あいつの望みは適ったからな。俺はあいつが何処かに行きたいと言えば連れて行ってやるよ」
「・・・何処かにか・・・。彼がここにいたくないなら、オベルに連れて行ってあげてよ」
「オベルに?」
「スカルドにも会わせてあげたいし、ラズロにもね。彼は王子の力になってくれるよ」
「群島の英雄殿か」
「ゲオルグさんも会った事あるでしょ?」
「ああ、まあなあ。凄く昔だけどな。まだ、こんなに小さな頃だ」
と、ゲオルグは親指と人差し指をちょいと伸ばす。
「以来、会って無い」
「じゃあ、君がオベルに届けてあげてよ。フェリドと女王のこれを」
 そう言って取りだしたのは、小さな小瓶が二つ。
「それは?」
「ああ、これは二人が使ってた化粧入れの一つだよ。これくらい無くなっても平気だろ?沢山あるんだから」
 王宮からちょろまかして来た。
「・・・犯罪だぞ」
「そう?」
 でもね。
「ラズロが二人を海に還してあげたいそうだよ」
「・・・解った・・・」
「これでオベルに行く名目も出来たでしょ。王子にも言ってあげてよ。行こうって」
 オベルの空は青いよ。
「ああ、そうだな」

 王子がキリルに手を伸ばす。その手を取って、キリルは笑った。
「行っておいで。僕はここで待ってるからね。君はあの子が気になって何処にも行けないだろうけど、君の父上の故郷を見ておいで。きっと、今後の力になってくれるよ」
「・・・・」
「願いは叶ったでしょ?」
 弾かれたように王子は顔を上げた。
「何故、解るんです?私は誰にも・・・」
「解るよ。君は星を集めたからね」
 この先は星は緩やかに離れて行く。それぞれの行き着く先に向かってね。



「・・・ってちょっと待ってよ。ラズロ」
 はい?
 ラズロはにこやかにフィルに笑う。
「て、言う事は小姑って女王騎士なの?」
 さあ?と、ラズロは人差し指を口元に寄せると首を傾げる。
「いや、そんなご大層な事はしてないと思うよ。ううん、でも、それらしい事も聞いたような聞いてないような・・・」
 まあ、良いじゃない。
「って、何で小姑はここにいないんだよ。いたら、今すぐにでも問いただしてやるのに!しかも、ゲオルグ将軍だって?!あ〜なんだよ」
 憤懣やるせない気分のフィルに、ラズロはおっとりとまあまあと諫める。
「ハイランドから帰ってきてから聞けば?」
「おおし!絶対、聞き出してやる!」
幻水目次へ 12→13