幻想水滸伝 太陽の国から
 ルナスへの道はエルフの封印がかかっているらしいが、テッドもラズロも封印など意味が無いと歩く。
「まあ、僕らには意味は無いよね」
 テッドの左手から伸びる光は行き先を示してくれる。
「ここはループしてるな」
 その脇に足を踏み入れて正しい道に踏むこむ。
 そこは小川になっていた。そこでラズロは何かを見つけた。
「何?」
「・・・これ、砂金?」
「へえ。エルフの結界で守られてるんだからそんなものがあっても不思議じゃないな」
「だねえ」

「誰だ!」
 小道、おそらくルナスの裏側の道だろう。神官姿の青年が誰何する。
「賊だ」の声にたちまち周りを取り囲まれる。
「僕らは妖しい者ではありません」
 そう言うラズロは、懐から一通の書簡を取りだした。
「斎主さまにお渡し下さい」
 程なく、ラズロとテッドは斎主の元へと通された。

「ようこそいらっしゃいました。ここも不穏を抱えている場所ですけど、出来るだけお力にはならせてもらいます」
「ありがとうございます。ハスワール殿」
 ラズロは丁寧に頭を下げる。
 テッドは黙っている。交渉事はラズロの得手だ。
 彼はどうやら、オベルからの紹介状をもらっていたらしい。用意周到な事だ。
 ハスワールはフェリドの出身を知っているらしく、直ぐに信用してくれた。
「遺跡を調べるお許しをいただけたら僕らはお邪魔はしません。聖地と呼ばれるからにはここも遺跡の一部だったんでしょう?」
「え?ああ、そう聞いてます。でも、太古の文献は殆ど失われてしまって。そうですね・・・。清めの泉。女性の王族が成人の儀式に使う泉には始祖に繋がる何かがあるらしいのですが、私も良くは知らないのです。実際に泉事態には何もありませんし」
「斎主さま・・・」
 隣で聞いていたイサトが咎めるが、ハスワールは首を振る。
「知らないより知っていてもらった方が良いと思うのよ。私が亡くなったりしたらあの子に伝えてもらわないと」
「私がお守りしますから、そんな事を言わないで下さい」
 ありがとう。
「でも、万一な事もあるでしょう。だから、この方達に調べてもらいましょうよ。私が知らない事も発見出来るかもしれないわ」
「・・・そうですね」


 群島からの紋章に詳しい客人と言う触れ込みで、二人はルナスの図書館や泉を調べさせてもらった。
 実際、二人の知識は豊富だったので、質問されても返事に困る事は無かった。それが、専門家だと言う信憑を増したのも事実だ。
 外見はともかくだが、知識が豊富で人当たりが良いので、ルナスでも不信を招く事は無かった。
 三週間の間にすっかりとルナスにとけ込んだ二人だ。
「どうですか」
 泉を調べていたテッドの元に、ハスワールが顔を出す。
「ああ、斎主さま」
「実はそろそろここも・・・かなり危うくなってきました。あなた方もそろそろ引き上げないと」
 テッドは視線を上に向け考えていたが、頷いた。
「そうですね。では、斎主さまに結論だけ」
 この泉にある女神像にはある種類の封印が施してあります。
「封印?」
「太陽の紋章と関係があるんでしょう」
 残念ながら俺の力では開ける事は出来ませんけど、太陽の紋章に関係あるものなら開けられると思いますよ。
「黎明の紋章かしら?」
「そうですね。正しい所有者なら開けられるでしょう」
 そう言ったのは後ろから話かけるラズロだ。
「正しい?」
「紋章は誰でも宿す事は出来るけど、主を選ぶのは紋章の方です。選ばれた正統な主は全ての力が使える」
「全ての力?」
 破戒や殺戮だけでは無いですよ。紋章の力は。
「では何?」
「これは人には理解出来ないでしょうが、紋章は紋章なりに同族に働きかける力があるんです。ただ、そこには人間は存在しないのです。紋章は人の争いに何も思う事は無いのですよ。ただ、紋章を使うのは人ですね」
「つまりは使う人が正しければ良いのね」
 にこりと笑うハスワールに、ラズロは苦笑する。
「貴方は強いですね」
「そうかしら?」
 私って何にも出来ない人だけど?
「そんな事は無いですよ。貴方のような人が歴史を伝えて行くんですよ」
 ありがとう。とても元気になる褒め言葉だわ。
「でも、今夜にでもここを出て下さい」
 解りました。
「お世話になりました」
 テッドとラズロは深々と頭を下げる。
 ハスワールも頭を下げた。
「いつか・・・群島にいらして下さい。とても綺麗な国ですよ。貴方にも見せたい。あの青い海を」
「ええ。ありがとう」


「お前ってなにげに女性の口説きが上手いよな」
 夜逃げするテッドがぽつりと呟く。
「ええ〜。僕はそんな意味じゃなかったし向こうもそのつもりだよ。ただ、あの人が沈んでるから励ますつもりで言ったんだよ」
「まあなあ」
 でも、妬けるぞ。
「今更、何を言ってるんだか?」
「ここには目新しいものは無かったな。きっと始祖の地と言われる場所にも何もなさそうだけど、行ってみるか」
「始祖の地?」
 あの封印の向こうだ。
「あれは高速路だと思う。グラスランドで見た事がある。シンダルの遺跡を中心に編み目のように廻らされている」
「始祖の地の位置は解ったの?」
「ああ、文献から推測してみた。まあ、取り敢えずはハウド村まで戻ろう。色々補給しないとならないしな。きな臭くなって来たから街の方には寄れないし」
「確かにね」
 ハウド村に戻った二人はかなり状況が切羽詰まった事を知った。
「アーメスの進軍があったって?」
 そうなんですよと、まんじゅうの旨い宿屋の主人も思案顔だ。
「これでも一応、ここは観光地なんですよ」とのぼやきだ。
 まあ、一度は見てみたいとは思うかもしれない所でもある。
 あくまで話のネタ的にだが。
「キリル、大丈夫かな?」
「まあ、あいつの事だから大丈夫なんじゃないか?」
 くしゅん。
「どうしたんです?旦那」
「誰か僕の噂してるんじゃないかな?」
 まあ、テッドとラズロだね。
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