幻想水滸伝 太陽の国から
 サイアリーズが寝返ってしまった事、リオンの怪我。
 遠征の失敗が、湖の城の雰囲気を下げている。
「まあ、仕方ありません」と、ルクレティアは肩を竦める。
「キリル殿は知ってたんでしょ?」
「君も想定内だったでしょ?」
 起こるべきして起こった事ではある。
「色々言えない事はあるけど、王子はもっと自分の力を安定させるべきだよ」
「それが最優先事項なんですか?」
 う〜ん、そう言われたら困るけど・・・。
「どれを最優先にするかは、僕には何も言えないね。時は動くし事態は流動的だし。それは貴方に任せるしかないね。ただ、ゼラセも言うように選ばれた星なら紋章の力は使いこなせないと・・・」
「紋章が暴走するとかですか?」
「いや、違うよ。彼は選ばれた星だから使いこなせないわけは無いんだ。真の紋章も真の紋章の眷属も決して、魔法の才能があるから使いこなせるわけでは無いんだよ。紋章が選ぶんだよ。黎明は王子を選んだんだ。それは才能や王子と言う立場では無いんだ」
 強いて言うなら魂の問題だね。
「なるほど。しかし、時間も無い事ですしこちらはこちらで動かないとなりません」
 手助けしてくれます?
「うん、良いよ」
 無駄飯食いも飽きたしね。


「アーメスって国はどんな所?」
 ラズロの言葉にテッドは本の知識だと前置く。
「テッドは行った事ないの?」
「端までならある。あそこは部族長の意見が強くて、まあ、小さな国が集まったと考えれば良い。部族長事態は身内支配だがな。親戚関係だよ」
「その当たりが群島とは違うか」
「そうだな」
 テッドとラズロは道々の情報で、内乱に乗じてアーメスが侵略に手を出して来るかもしれないと確信していた。
「ゴドウィン家が内通して援助を頼むかもしれないね。どうも、アーメスは買収に直ぐに乗りそうな国のようだ」
「私兵を持っているんだから、勝手にそれを使うのは許されるだろうからな」
 あれは本意では無く、部族長の独断だったで済まされる。
「その辺りの裁量は何処まで許されてるのか謎だが・・・。やりにくい国ではあるな。内も外も」
「キリルは何をしてるかな?」
「今頃、スパイ活動にでも走ってるんじゃないか?嬉々として」


 テッドの読み通り、キリルは西に東にとヤールとネリスを連れて奔走していた。
「国境と海の封鎖か。しかし、海の方は下手したら群島も敵にまわしかねないからな」
 エストライズは群島への入り口だ。交易船も多々往来する。
 それを妨害するのは良策では無い。
「と、なると、山沿いの国境ですか」
 ネリスの言葉にキリルは頷く。
「今はこちらの軍も手薄だしね、丁度良い時期だ」
 ヤール。
「ゲオルグは他に手を取られているから出来るだけ僕らで正確な情報を掴んでおこう」
「わかりました」

「シュラ=ヴァルヤ?」
「ご存じですか?」
「あ、うん。まあ、一度、オベルに来た事があるね。隠密にだけど。ラズロに会いに来たとか何とか聞いたけどね。生憎、その時は彼はいなかったけど。まあ、群島と事を構えるのは上策では無いからエストライズの守りはいらないと見て良いね」
 どんな御仁かは知らないけど、群島を敵に回すのは不味いと解ってる人だろうね。
「はあ、何故そう思うんです?」
「個人的にラズロに会いに来たからだよ」
 なるほど。
 しかし、後日、キリルもジョセフィーヌと言う女性がシュラの妹だった事には驚かされた。
「世間を知ってると言うか・・・微妙な女性だな。いざの切り札に使うつもりだったのだろうか?」
 キリルの中では彼女の評価は何故か高かった。
「旦那は女性に甘いんじゃないすか」
 ヤールに呆れられるキリルだ。
「王族ってのはわりと自分の使い方を知ってる人が多いんだよ」
「そんなもんですかねえ。俺にはただのキテレツな女性にしか見えないですけど」


 戦時下だと言うのにハウド村は何故かのどかだった。
「芸術って人を癒すよね」
 のほほんと宿でお茶を飲んでなごんでいるのはラズロとテッドだ。
「まあ、見ようによっては芸術だよな」
「そうそう。気の持ちようだよ」
 二人はここから山越えをしてルナスに入るつもりだったが、ルナスの斎主がソルファレナから帰っていないと言う事で長逗留をしていた。
 こんな田舎でも出入りの商人たちからは色々な話が伝わって来る。情報収集に長けた二人には十分だった。
「ひとんちの内乱の口を出すつもりは無いけど、こんな裕福な国で何をやってるんだろうねえ」
 ラズロからしてみれば、ファレナはとても裕福な国だ。
「裕福だから腐ってるんだろうよ。過剰過ぎて」
「なるほどねえ」
 そう言えば、闘技奴隷なんて制度もあったね。
「代々の女王騎士長を闘技大会で決めると言うからそう言うのもありなんだろうけど。奴隷と言う言い方があれだね」
「人身売買なんだから奴隷だろう」
 名前が変わっても中身は変わらないぜ。
「まあ、そうだけどね。事実、扱いが悪いみたいだし」
 僕なら優秀な剣士や武闘家は粗末には扱えないね。
「いざの戦力を粗雑には扱えないよ」
「まあな。奴隷は戦士では無いと言うのが考えなんだろうよ」
 身一つで生き抜ける力は、それだけで尊敬に値するがねえ。
「まあ、俺等が言ってもしょうがない。まんじゅうの追加頼むか。そろそろ飯の時間だしな」
「って、朝も食べて無かった?昼までまんじゅうじゃなくても良いんじゃない?」
「おまえらしくない言い方だな。と言うか、まんじゅう以外で美味しい物はここには無いのが正解だけどな」
 あ、そうだね。
「食料事情が悪いわけでは無いのにねえ」
「味の芸術を追究するやつがいないだけじゃねえか?」
 実際、まんじゅうだけはここの宿で作ってるからな。
 まんじゅうがうまいと言うだけで決めた宿だ。そのあたりは正解だった。
 他の宿屋で食事もしてみたが、あまり旨いとは言えない。
「後で厨房を借りるよ」
 その後、ラズロの作った食事に宿屋の主人が感激して、レシピを求めたのだ。聞けば、彼は群島出身だと言う。
「どうりでまんじゅうが旨いと思った」と、すっかりと感激してしまったラズロは、秘密のレシピまで伝授してやった。
「おいしいまんじゅうのお礼だよ」と。
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