幻想水滸伝 太陽の国から
  エストライズの港で、テッドとラズロは風車を見上げていた。
「凄いね。よくまあこんな大きなものを作ったなあ」
 見とれる二人に船乗りから声がかかる。
「ラズロさま、宿は広場の方にあるそうですよ」
 ああと、ラズロは頷くと、片手を振る。
「ありがとう。帰りは連絡船で帰るから、報告の方をよろしく」
「は!無事のご帰還をお待ちしております」

「さて、五月蠅い輩もいなくなったし、宿でも行く?」
 その言葉にテッドは苦笑を零す。
「その言い方は可哀想だぞ」
「テッドだってそう思ってたでしょ?」
 お互いさまだよ。
「あ、その前に路銀を用意しようか。交易所に寄るよ」
 ラズロが持っている真珠はかなりな額で売れた。人魚からもらったものなのでさもありなんだが。
 が、宿への帰り道で早速目を付けられる事になる。
 もちろん、手加減無くのしたが。
「俺からかつあげしようなんて、100年早いぞ」
 テッドの後ろで何もしなかったラズロはぱちぱちと手を叩いている。
「お〜流石あ」
「お前は何で加勢しないんだよ?」
 お前の金だろ。
「いや、テッドだけで十分かなあと思って。僕はこれでも平和主義者なんで」
 ぶぼっとテッドが吹き出す。
「新手の冗談だな」
「それを言われると傷つくよ。極力もめ事は避けてるんだから」
「へえ、初耳だ」

 テッドの意見で最終的にはルナスに行く事になった。
「ルナスは聖地と言われる場所だからな。何か新しい発見があるかもしれない」
と、言うわけだ。
「まあ、戦争に首を突っ込むわけにはいかないから、噂の湖の城へは行けないがな」
「その当たりはキリルが調べてくれてるよ。ソルファレナにも行きたいけど、戦争が終わってからだね」


「あら、珍しい顔。貴方も来たのね」
 ジーンはキリルの顔を見て、妖艶に微笑む。
「あ、やっぱりいたんだ。でも・・・ちょっと違うね」
「うふふ、解る?」
「まあ、どちらもジーンさんには変わりないんでしょ?」
「ええそうよ」
 意味不明の会話に周りのものは首を傾げるが、二人はにこやかだ。
「何故、ここへ?」
「ラズロの代わり。と、紋章砲が見つかってね。ヤールとネリスが見つけてくれたから、その報告がてら」
「あら、それは懐かしい言葉ね」
「ジーンさんこそ、南方大陸に来てたなんて」
「そうねえ。巡り合わせと言うものね」
 ちょっと行かないといけない所が出来てね。
「ラズロとテッドもファレナに来てるよ。ここには来ないけどね」
「そうね。それが賢明だわ」
 後で、ジーンさんが元気だって言っておくよ。
「ふふ、宜しくね」

「旦那、ジーンさんと知り合いなんですか?」
 キリルの事を多少知っているヤールは驚いた風では無いが、好奇心に負けて聞いて来た。
「え?ああ、昔の知り合い。世話になったの」
「へえ」
「僕がまだ子どもだった頃だよ。ラズロもね」
「え?じゃあ、あの人も・・・」
「さあ、それはどうかなあ?僕にも解らないから。どちらかと言うと僕に似てると思うんだけどね」
「精霊ですか?」
「ううん、何かなあ。まあ、僕と一緒で人に見えるだけと言うのは当たりだね。これ以上は何も言えないし解らないからねえ」
「キリル殿は人でしょ?少なくとも俺は人だと思ってますけど?」
「ありがとう。まあ、人に見えるだけだよ。この世界ではこの姿の方が過ごしやすいからね。あ、いや、僕は元々この姿ではあったんだけどね」
「良く解らないですよ」
「そうだねえ。まあ、解らなくても良いよ。僕もジーンさんも君らに害を及ぼす存在では無いよ」
 とんでもないとヤールは大げさに手を振り上げる。
「そんな事、微塵もおもいやせんぜ。ただね・・・」
 何?
「・・・変わらないと言うのは・・・こんな風に歴史にかかわっていくものなのかと思って」
 ヤールがキリルを見る目には多少の憐憫が含まれている。
 それを力強く振り払いキリルは笑う。
「しょうがないよ。これも僕の巡り合わせだもの。ラズロもテッドもジーンさんも同じだよ」
 不老や不死、巨大な力を持ってても誰も世界には抗えないんだ。

「あんたがキリルって言う人?」
「ええそうです。妹姫さま」
「サイアリーズだよ」
「では、サイアリーズさま」
 さまなんかいらないけどね。
「僕に何か用ですか?」
「用が無いと話かけちゃ駄目なの?」
 サイアリーズは悪戯そうに笑っている。
「いいえ。ただ、王族の方が僕に話しかける時は、結構深刻な話が多いものでね」
 場所を変えましょうか。
「何処かに」
 キリルはこっちにとサイアリーズに背を向ける。彼女は黙ってその後を付いて行った。
 案内されたのは遺跡の入り口だ。
「学者先生以外誰も来ない所なんでね」
 視線の先にはセラス湖の遺跡の城が輝いている。
「あんたってゲオルグの知り合い?」
「そんなに詳しくは知らないよ。顔見知りくらいかなあ。僕はあちこち旅してるんで」
「どんな所に行ったの?」
 クールーク。赤月、群島、無名諸国、ガイエンとまあ色々。
「ファレナに来たのは初めてだよ」
 いいなとサイアリーズは空を見上げる。
「あたしはここから何処にも行けない」
「何処かに行きたい?」
 う〜ん、まあ、前はね。
「今は何処に行っても・・・もう、遅いよ」
 大好きだった姉さんは死んでしまったし、フェリド兄さんも。
「私が何処かに行けるわけないよ。たった一人で何処かに行って、何が待ってると言うのさ。もう、何も残って無いのに」
「残っているよ」
 キリルの声にサイアリーズは顔を上げる。
「え?」
「残っているだろう?君の中には君の誇りが」
 穏やかなキリルの顔をサイアリーズは虚を突かれたように見つめた。
 この人は解るんだ。
「クールークの最後の皇女を僕は知ってる。彼女の中には国が瓦解しても何時も、皇女としての誇りがあった。国を良くしたいと言う誇りがね」
 君はもう決めてしまったんだろ?
「だから、僕に声をかけた」
 今にも泣き出しそうなサイアリーズだ。
「誰が許さなくても僕は君を許すよ。君の決断をね。世の中はきれい事だけではやっていけない」
 王子は良い子だね。
「一つだけ貴方に持って行って欲しいものがあるんだ」
「?」
「王子の言葉」
 あの子の?
「王子の望む願いはね、みんなが笑っている姿なんだ。彼はその願いを叶える為に空の星を回す。その奇跡が起こるように祈って欲しい」
「あたしが祈っても良いのかな?」
「祈りは力になる。そして、空を満たす」
 サイアリーズは空を見上げる。
「ねえ、キリル。私の事も憶えていてよ。ファレナの王女としての私を」
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