幻想水滸伝 太陽の国から
 ルクレティアの部屋に入るとレレイが椅子を勧めてくれた。
 一人では無い事にほっとしながら、キリルはそれを受ける。
「じゃあ、レレイさんはもう休んで下さいな」
ルクレティアの言葉にレレイは、毅然と首を振る。
「いいえ、私はルクレティアさまの護衛ですから。ここに供にいさせていただきます」
 あらあ?
「野暮ですねえ」
 ねえと首を傾げキリルを見る顔に、キリル自身が吹き出しそうだ。
「僕は一緒にいて下さると助かります。でも、僕、人間じゃ無いんで。色欲なんか無いんですよ」
「あら。そうですか」
 ルクレティアはさらりと流すが、レレイは顔色を変える。剣に手をかけた姿にキリルは笑う。
「でも、この方を害するなんて無いですから安心して下さい。僕からしてみたら、あなた方は孫以上離れた年なんで」
 見かけ若いですけど、結構な年寄りなんですよ。
「ま、それは素敵」
「・・・え?」
 幾つに見えます?と、キリルはレレイに問う。
「ええと・・・失礼ながら16.7かと」
「そう見えますよね。でも、そんな子どもがあの二人とベルの上官なわけないですよね。正確に言えば、上官は僕では無くて僕の友人なんですけど」
「群島の英雄・・・ですか」
 流石とキリルはルクレティアに笑う。
「そうですよ。ざっと150歳です」
 レレイは「おとぎ話でしょ?」と、ルクレティアに首を傾げる。
「さあ、それはどうか。現に目の前にいる人は?」
「嘘と言うのもあると思いますが」
 なるほど。
「まあ、疑うのは当たり前ですから。ちなみに僕は真の紋章なんて持ってませんから」
「?」
「真の紋章を持ってる人は不老らしいですよ。ハルモニアのヒクサク殿は真の紋章を持ってるから不老だと言う話ですし」
「僕は人外なんでまあ、もの凄く長生きな種族なのかもしれないですし、身体は付属物なんで見かけ変わらないだけかもしれないですし」
 実は自分でも良く解らないんですよ。人じゃないのは確かなんですが。
「友人は精霊と呼んでましたけど」
「あら。そうですの。精霊じゃあ年をとらないのは当たり前ですね」
「信じるんですか?」
「私はグラスランドの生まれですから」
 精霊の守護は信じますよ。
「実際精霊か否かは僕には解らないですよ。ただ、僕が死者の声を聞く事が出来るので、精霊だと言われただけです」
「あら、それはますます精霊ですね。口寄せが出来るなんて」
 二人の会話にレレイはぽかんとしている。
 生まれがファレナな彼女は、精霊云々がどうもぴんと来ないらしい。
「じゃあ、僕の事をお話しましょう。これは紋章砲とも関わり合いのある事なので。でも、他言無用でお願いしますね」
 時は群島解放戦争より前に遡ります。


「これは・・・」
 船の墓場でラズロとテッドは唖然とする。
「流石にキリルの手には負えないか」
 テッドも苦笑すると当たりを見渡す。
「しかし、広範囲だな。まあ、俺とお前がいれば大丈夫だがな」
 護送の船を退け、今は二人っきりだ。
「危ないから離れてもらったのは正解だね。しかし、よくまあこれだけ集めたものだね」
「ああ、あれから100年越えなのにまあ、残ってたのが驚いたがな」
 では、始めるか?
 そう言い、テッドはラズロの手を握った。
 二人の手から青白い光と赤い光りが交互に放たれるとまるで生きているように海面を滑る。
 右に左に上に下にと船の墓場を取り囲む。
「そろそろ良いか?」
「OK」
 その相図で、光が弾ける。
 きらきらと周囲の海を覆うように光が広がり、海面に降りそそぐ。
「まあ、これで良いとしますか?後は、自然に浄化されるのを待つと」
 ラズロはん〜と背伸びをするとテッドを見る。
「これからどうする?」
「ファレナに行きたいんだろ?」
「ん、まあねえ。噂くらいは仕入れたいなとは思うけど」
「遠慮するな。お前らしくない」
「ちょ、それ、僕が遠慮無い人みたいじゃない?ひどおい」
 テッドは笑うとラズロに手を出した。
「!これでご機嫌直ると思ったら、間違いだからね。もう・・・」
「いや、まあ、二人で旅がしたいだけだ。気にするな」
 ラズロは遥か水平線の向こうにぽつんとある方向に風を送る。
 風はたちまち一羽の鳩となって空に舞い上がった。
 程なく沖合の船が近づいて来る。
「さて、船に乗せてもらおうか」
 ファレナまでな。
幻水目次へ