幻想水滸伝 太陽の国から
 王子の隣に立つ人物を見て、この人が例の軍師かとキリルは思う。
 取り敢えずは、ヤールとネリスの上司と言う形で紹介をしてもらったが、どうみても10代の青年か少年にしか見えないので胡散臭い。
「船の墓場でのご英断に感謝いたします」
 優雅に礼をとるキリルに王子は困ったように視線を彷徨わせる。
「あ、いえ、そんな」
『これがフェリドの息子でスカルドの孫か』
 なるほど。天魁星の顔ではあるな。
 キリルは値踏みしているわけでは無いが、その姿を友人と重ね合わせる。
『ラズロとはかなり立場が違うよね』
 どちらも罪人。そして、王子。無冠。
 似ている要素は多々ある。だが、決定的に違うのが、国に反旗を翻すと言う事だ。
 ラズロは国を纏めた。今では群島と言う巨大な海を統べる国だ。
「お若い上司ですね」
 言いにくいだろう事をずばりと突っ込むのは軍師だ。
「はい。良く言われます」
「紋章砲弾のお話は私も少し聞いています。群島解放戦争の頃の船の武器だったとか?」
「ええ、そうですよ。でも、リスクが大きすぎるんで武器には、向かないですよ」
「まあ。リスクとは?」
 キリルは苦笑する。
 芝居かかってるなあと。
「この世界のものへの歪んだ干渉ですよ。あれは、異世界からの異物なので」
「興味深いですね」
「良かったらお教えしますよ。あなたはあれを使おうとは思わないでしょうから。それにもう探し回ってもあるかどうか」
「あら、まあ、嬉しいですわ。では、今宵にでも」
「ええ。良いですよ」
 軍議の間を出た後、ヤールは良いのか?と、言う顔をする。
「ヤール。知らないと言うよりは知ってる方が良いんだよ。特に使う側にはね。僕らはあの頃、無知だった」
「そうですか。でも、まあ、その・・・」
「心配無いよ」
「いえ、他の心配です」
 ?
「もし襲われたら逃げて来て下さいよ。ラズロさまに申し訳無いですから」
「・・・いや、それは無いと思うけど?」
 はああとヤールがため息をつく。
「あのお。キリル殿は見た目、十代半ばにしか見えないんですけど?」
「そう言えば、そうだね。でも、それと何の関係が?」
「美男でもありますよ」
 ああとキリルは笑う。
「そう言う事かあ。いやあ、僕にはそう言う欲は無いからね。心配いらないよ」
 男の人って不便だよね。
「どんなに色仕掛けで秘密を聞き出そうとしても無駄だから。大丈夫」
「いや、そう言う心配でも無いんですけど。まあ、当たらずとも遠からずな答えではありますが」
 ふふ。
「僕の思い人は生涯一人だから関係無いよ」
 その言葉に三人は意外だと言う顔をする。
「恋人いたんですか?まさか・・・」
 ラズロさまですか?と、言う言葉をぐいと飲み込む。
「あ、今、ラズロじゃないかとか思ったよね。残念ながら違うよ」
 でも、誰かは教えないよ。
「はあ・・・」
「ロリコンって言われちゃうからねえ」
 はあああ???
「じゃあね。僕は行く所あるから」
 ひらひらと手を振るとキリルは一人で廊下を進んで行ってしまう。
「ロリコンって・・・誰なのかしら?」
「さあ・・・ラズロさまに聞けば解るかもね」
 到底不可能だろうけどね。


「さてと、ここがシンダルの遺跡場所か」
 城の近くの遺跡の前でキリルがぶつぶつと呟いていると、中から声がする。
「遺跡に興味がおありかな?」
「ええ。シンダルの遺跡と言うのにね」
「残念ながら中には入れないよ。ここは王子の持っている紋章にしか反応しない場所が多い」
「黎明の紋章?」
「左様。まあ、それでも入れる場所はある案内しようか?」
 キリルは丁寧に頭を下げる。
「私の名はツヴァイク。シンダル遺跡の研究をしている」
「キリルです」
「群島から来られたらしいな。オベルの遺跡には詳しいかな?」
「まあ、少しは」
 なら、来られよ。

「ふうん、そうですか。ここは人工湖だったと。なるほどねえ」
 ツヴァイクの話を聞いて、キリルは興味深いと頷く。
「セラス湖の城が現れた時、直ぐにも使える状態だった。どう思う?」
「そうですね。城自体に大がかりな封印をかけていたら可能じゃないですか?」
「大がかりな封印など誰がするかね?」
「・・・時に干渉出来るのは真の紋章じゃないですか?僕らの間ではそう結論付けてますよ」
「実に興味深い」
 ツヴァイクは面白い人を見つけたと饒舌だ。
「君は何者かね?」
「さあ、僕自身も解らないですからね。何者と聞かれても」
 そも僕は人じゃないですし。
「そうなのか?」
 これを言ってひるまなかったものはいないのだが、ツヴァイクは別らしい。
「友人は精霊だと言ってますよ。まあ、半分くらいはそう言うものらしいですけど」
「なるほど。だから年をとらないと?」
「解ります?」
 ふむ、そう言う人種を見たのは初めてだがね。
「確かに僕の同類はいないですよ。僕はただ一人の存在なんで。人では無いし妖魔の類でも無いですよ」
「何故そんなに話してくれるんだね?」
 随分と込み入った事を話してくれる。
「まあ、シンダルの遺跡の事と言うか真の紋章の事も友人と調べてますから。何かお話が聞けたらありがたいと言うわけですよ」
 そうかね。
「北の大陸の遺跡の話も出来ますよ。交換条件に如何です?」
「それはありがたいね」 
幻水目次へ