幻想水滸伝 太陽の国から
 キャザリーとキリルはエストライズの宿屋で食事をした後に別れた。
 キリルは湖の城の情報を知っていたので、彼女も当然そこに行くと思っていたのだが、行き先は違うらしい。
「ソルファレナに行きます。友人が今、どこにいるのか解らないので」
 ファレナとハルモニアは遠い。彼女は単独でやって来たのだろう。情報に疎いらしい。
『もし、彼女が星ならルクレティアには何時か会えるだろう』


「キリルからの報告?」
 オベルに戻ったラズロは早便で来た手紙を開ける。
「どうした?」
 今朝オベルについたテッドは、その顔を見て問う。
「船の墓場に行って欲しいと言う事だよ」
 読んでと、ラズロはテッドに手紙を渡す。
「・・・なるほど」
「まあ、折角、息抜き出来る場所にいるんだからもう少しだけオベルに滞在しようよ」
 ラズロがテッドの疲れを思って言った言葉だ。
 彼はここでしか安全とは言えない。が、オベルに害が及ぶ事をさけて、テッドは滅多にここには寄らない。
 その滞在にしても、せいぜいが3日くらいだ。
「まあ、気にするな。明日には出よう。船の墓場に近づく者はいないだろうが、俺としても紋章砲の事は気になる」
 洋上会議の方にはこれは書かれてないんだろうな?
「まあ、そう思う。僕宛の手紙を開ける人はいないからね」
 よっぽどで無いと。
「群島の守護神の手紙なんか開ける馬鹿はいないだろうよ」
「あ〜嫌味」
「違うぞ。嫉妬だな。敢えて言えば」
 お前が戻って来てると浮かれてる輩が多いからな。
「はいはい。じゃあ、明日出かけましょう」
「俺はお前の手料理だけで十分だからな」
 それ以外はここに来る目的は無い。出来るだけ・・・お前の手料理は食べていたいんだ。


「ヤールと言う人を呼んでくれないかな?ベルナデットでも良いんだけど」
 遺跡の城で名前を伝えると程なく、転がるようにベルナデットとヤール、ネリスが飛んで来た。
「キリル殿!」
「やあ、報告ありがとう。ちょっと寄って見たんだ」
 もちろんそれだけでここに来るわけは無いので、三人は顔を見合わせる。
「取り敢えずはこちらへ」
「気を使わなくても良いよ」
 今が大変な時は解ってるからね。

 あてがわれている一室でお茶を出してもらったキリルは、ここに来るまでに聞いた噂話などを三人に聞かせた。
 が、三人はそわそわと落ち着かない。
 肝心の話が聞けて無い。
「キリル殿、そろそろお話を」
 ん?と、今更気がついたと言う素振りで、キリルがああと頷く。
「・・・そうだなあ。まあ、言ってもしょうがないんだけど・・・ラズロに後始末を頼んで来たから解決済みではあるよ」
 ???
「ええと、何かしたんですか?俺達」
「いや、それは不可抗力な事だから。それに君らにそれは出来ない事だし」
「一体、何があったんですよ。教えて下さいよ。旦那」
 ヤールが焦るのは珍しい。
「船の墓場の話だよ」
「ええ、紋章砲弾の方は沈めました」
 そのついででここに居座ってますけど。それが悪いんすか?
「いや、それは良いんだ。表だっては介入出来ないからね。ベルの護衛もいるしね」
「じゃあ、何なんです?」
「あそこでばかすか紋章砲弾を撃ったね。それが原因で、色々歪みが生じてる。まあ、歪みは僕にしか解らないものだからそれに責任を感じる必要は無いよ。僕は報告に来ただけだし。後はラズロが後始末をしてくれるだろうから」
 ラズロと聞いてヤールは苦い顔、ベルとネリスは青ざめる。
「何て顔してるの。僕らはその為にいるんだから。丁度、オベルに帰って来てたからね。これも巡り合わせと言うんだろうね」
「申し訳ありません」
 ベルナデットの言葉に、キリルは苦笑する。
「それは僕の言葉だよ。何時もありがとう。歪みについては紋章砲を撃ったからと言って起こるわけでも無かったんだ。事実、あの頃、すごく沢山の紋章砲を撃ったけど、歪みは出来なかった。まあ、本体がいたからかもしれないけどね。あちらの方が歪みが強かったし」
「歪みとは何です?」
 ネリスの言葉にキリルは「ああ、そうだねえ」と、一人で納得していた事を詫びる。
「歪みと言うのは色々あるんだけど、今回のは力の拮抗だね。一点に力が集まりすぎて解放されない。そこにモンスターが迷いこむとその力をもろに受けて凶暴化するんだ。たまに次元の歪みもあるけど、本当に小指の先ほどの歪みなんで影響が出る前に四散してたんだけどね」
 水竜に心あたりあるだろ?
「あのタゴンですか?!」
「うん。まあ、紋章砲弾の間は封印されてるんだけどね。一度解放されるとそう言うケースにもなる・・・事もある」
 僕もどれくらいその紋章砲弾が作られたのか知らないから詳しい事は解らないんだけど、今回は見つかった数が多かったから。
「過去に見つかったと言ってもせいぜいが一度に3個くらいだったからね」
 僕は、大がかりな魔法は出来ないんだよ。
「今までなら僕の手で浄化出来る範囲だったんだけど、手に余るのは初めてだよ。大手柄だ。ありがとう」
 特にヤール。ありがとう。
「おや、俺はそんなに何もしてませんよ」
 隣ではそうそうとネリスが頷く。
「そう?あの船のあたりをつけてたんでしょ?あちこちから貿易船の資料を集めたってラズロに聞いてるよ」
 あわわ。ご存じだったんですかあ。
「もうかなり壊したから現在するものは殆ど無いだろうけど。あれを研究して疑似紋章砲弾を作る輩がいては困るからね」
 後は僕らがするから君らは王子さまを手伝ってあげてね。
「良いんですか?」
 その言葉にキリルは笑う。
「これは元々僕の仕事だからね」
 あ、でも、僕もちょっとこのお城にいて良い?
「王子さまに会ってみたいんだよね」
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