幻想水滸伝 | 太陽の国から |
キリルは船の墓場に降りると、当たりを注意深く見渡した。 キリルを運んでくれた船には離れてもらっている。 「さて、久々の情報だ。しっかりと見せてもらいましょう」 そろりと船の中を確認する。 「ヤールの情報によるとあのあたりなんだけどな」 紋章砲弾は沈めたと言うけど・・・。 「・・・なるほどね」 これは骨が折れそうだね。 「・・・水竜か・・・」 その呟きにざばりと海面が割れ黒い影が躍り出る。 キリルは両刃の剣を構えた。 「しかし、良く育ったよね。紋章砲の影響か・・・」 当たりを見渡してキリルは眉をしかめる。 「・・・これは・・・」 ニルバ島の灯台は船を航行するものにはありがたい代物だ。 広い海に浮かぶ宝石のような灯りは、船乗りにとってファレナに近づいた事を示す。 そのニルバ島の宿の一室でキリルは手紙を書いていた。 一通は、洋上会議にあてた報告書で、もう一通はラズロにだ。 「しかし・・・どうしたものかなあ?まあ、ラズロかテッドが見てくれたら解るだろうけど」 僕はこのままファレナに行って、ヤールに会う事にしよう。「来なくて良いと言ったその口から助力を乞うのは何かだらしないんだけどね」 キリルは自分を送ってくれた連絡船に手紙を渡すと、通常の連絡船でエストライズを目指す事を伝えた。 「良いのですか?」 「うん。ファレナの動向も知っておかないとね」 これでも死にたくないから。と、笑ったキリルに船長はえ?と、以外な顔だ。 「僕は長生きだけど不死じゃないんだよ。もちろんラズロもね」 身体が無くても生きてると言うなら生きてるんだろうけどとは心の中で思うだけだ。 エストライズへの海路は思ったより穏やかだった。魔物も殆ど出ないし、海の荒れも無かった。 「穏やかな海だね」 そうは思っていても慣れた身にだけだ。上下に揺すられる船だ。船酔いするものもいる。 キリルはその一人と知り合った。 青白い顔で甲板に出ている青年を見て、声をかけたのだ。 「大丈夫ですか?」 「え?ああ、大丈夫です。船には慣れているつもりだったのですが・・・長旅の疲れだと思います」 「薬、いりますか?」 「いえ、持ってますから・・・」 あれ?と、キリルが首を傾げる。 『女の人?』 深いフードのマントで解らなかったが、確かに女性だ。 「変わった武器ですね」 青白い顔を上げた女性は、キリルの傍らにある大ぶりの両刃の剣を見て指摘する。 ダブルブレードには通常は刃にカバーをかけて背中に背負っているのだが、彼女にはそれが興味を引いたらしい。 「ああ、これですか。そうですね、今は珍しい部類に入ると思いますね。ダブルブレードと言うのは」 「ファレナの方では無い?」 女性の探るような目にキリルは正直に答える。これは隠す事でも無い。 「産まれは赤月ですが、生活は群島が長いですね。物心ついた頃から旅の生活でしたから」 「赤月の武器ですか?」 キリルは暫し考えていたが、さあと首を振る。 「これも物心ついた時から持っていたものなので、何処の武器とも言えませんね。まあ、赤月に関係あるんしょうけど、僕にはもう血縁はいないので確かめようが無いですね」 「見せてもらっても良いですか?」 きらりと光る目にキリルは頷く。だが、 「そちらの武器を見せてもらうと言うのであれば良いですよ」 これ?と、女性は細長い包みを叩く。 「良くこれが武器と解りますね」 「貴方が離さないから直ぐに解りますよ。それに貴方、気配が薄いですから」 それが本音。いずれかの間者では無いかと当たりをつけたと言うのがキリルの本音だ。言葉には出さないが。 「良いですよ」 あっさりと頷くと、包みを解く。 「ガンと言います」 「・・・へえ、これも珍しい。では、僕も」 キリルはダブルブレードを女性に握らせる。 「重いですね」 「ええ。僕は見かけよりは力持ちなんで。これは遠心力でぶった切ると言う感じかなあ?まあ、正面に構えたら盾にも使えますが」 「面白いですね」 二人とも穏やかな顔での会話であるが、腹の底では驚いている。 『この人・・・ハルモニアのガンナーか』 『群島の工作員?いや、赤月の?』 と、言うわけだ。 当たりをつけて声をかけたキリルだが、ハルモニアのガンナーとは思わなかった。 「ファレナには何故?」 「貴方は?」 「人に会いに行くんですよ。一足先にファレナに行ってしまたので」 「そうですか。私もです。古い友人に会いに行くんです」 キリルは真偽をかぎ分けるが、嘘と言うわけではなさそうだ。 『古い友人ねえ・・・そう言えば・・・』 商人で情報通である友人の言葉が浮かぶ。 「ファレナにルクレティアと言う軍師がいるんだよ。アゲイト監獄と言う所にぶち込まれてるらしいんだけど。彼女はハルモニアで戦略を学んだそうだよ。カラヤの族長の妹でね、まあ、人質変わりだったんだけど。ファレナの貴族に軍師として引き取られたんだ。ハルモニアも恩を売りたいからそう言うのは積極的だね。まあ、戦略に失敗したと言う名目で監獄行きになってるけどね。あちらも恩なんか知らないと言うわけだよ。あざといね」 『彼女の事か?』 ラズロは群島でルクレティアを遠目に見た事があるらしい。 その時の情報だ。 「そう言えば名前を名乗ってませんでしたね。キリルと言います」 「キャザリーです。久々に会う友人なんですよ」 ふと、キャザリーは視線を外すと水平線を見つめる。懐かしそうな横顔だ。 それを見たキリルは、直感で信用出来ると踏んだ。 『悪いようにはしない人だな。まあ、自分が出来る範囲でだろうけど』 軍師の友人だと言うのだ。頭も回るだろう。 |
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