幻想水滸伝 | 空の羽根〜9 |
「僕の初恋?」 フィルの言葉にラズロはどうしようかなあ?と、迷う。 「テッドなの?」 そうなんだろうなあ?と、何となく口に出した言葉だが、否定されたのは驚いた。 「いや、違うよ。恋人と言うのであればテッドが最初だけど・・・初恋は・・・違う・・・と言うかあれが何だったか僕にも解らないんだ」 そう言うラズロの瞳は遠くを映しているように見える。 目の前に見える幻の波間を追っている。 「一緒に来て欲しかった事は確かなんだけどなあ。でも、あれは何だったのかな?恋と言うにはあまりにもかけ離れた感情だから・・・」 「テッドも知ってる人?」 「名前だけなら。でも、本人を見たのはただ一度だけだと思うよ」 「僕もそんなには会った事が無い。敵将だったからね」 名前はトロイと言ったよ。クールーク第一艦隊の将だった。 「なあ、ラズロ。あの時、何故トロイは俺達を見逃してくれたのかな?」 無人島の星空の下、ケネスは過去を振り返る。 「・・・あの人は無用な殺生が嫌だったのでしょう。あの隣の男の方は私達を殺す気満々でしたけど」 だよな。 「海の事は海が決めると言う事かもな」 ケネスとポーラの言葉を聞きながら、最後に絡んだ視線をラズロは思い出す。 生きるなら生きろと言う目だった。 その目には哀れみもさげすみもなかった。 ただ・・・静かだ。 「トロイと言う人は聞いていたより、軍人らしく無い人でしたね」 「だな。戦争で無い殺しはしないのかもな」 ラズロはぼんやりと思う。 海の事は海が決めると言うのは、流刑の身になった時も同じだった。 しかし、船上から見下ろす瞳。カタリナとトロイの違いを考える。 『カタリナさんは・・・僕に償えと言った。それは死をもって償えと言う事だったんだろうな。トロイのあの目は・・・。僕には生きろと見えた・・・』 何も持たずに命からがら逃げだした僕らなのに、何故か生きれると思った。 あの瞳が生きろと言ったから。 「又、会う事はあるんだろうか?」 「そうですね。海が決めたなら」 ポーラの言葉は、如何にも海の民の言葉だ。 死も生も海が決める。ここは群島なのだから。 「それがトロイだったんだ」 「うん、どう言えば良いのか今でも解らないけどね。あの時にトロイの瞳に感じた力は僕に勇気をくれた。だから、僕は最後に彼にも勇気を持って欲しかった。最後に一緒に行かないかと語りかけたけど、首を振られた」 艦長は船とともに沈む。 「僕には解ったよ。僕も命を賭けてたから。あの人の気持ちがね。テッドはトロイの事が羨ましかったらしいね。あっさり死ねるんだから。僕もちょっと羨ましかったな。あの人の潔さが」 トロイは今でも僕に忘れられない感情を残して行った人だよ。 「もどかしい悲しさ寂しさ憧れ・・・」 「それって初恋って言えるの?」 「君だって、オデッサにそう思わなかった?」 フィルは振り返って見る。 確かにオデッサにはラズロが言ったような感情を持った。 フリックのような愛を囁くような感情では無いが。 「恋でも無いし愛でも無いね。でも僕はあえて言うなら初恋と言いたいよ。テッドは、彼には素直に好きだと言える人だよ」 オデッサにそんな事言えた?フィルは。 「・・・言えない」 「スノウはどんな姿になっても死を選ばなかった。それを臆病と取るか勇気ある行動と取るかは人それぞれだけど。僕はスノウが生きていてくれて嬉しかったよ。確かに、色々あった。彼と僕の間には」 愛じゃなかったけどね。 彼と肌を合わせるのは苦痛だった。彼は一方的に求めるだけだったし。足りないとばかり言っていたし。 「嫌いじゃなかったよ。スノウの事は。彼はどこか不安定で誰かがついてなければ直ぐにつまずく人だった。不器用で。 良かれと思った事が全て裏目に出て。そんな彼を受け止めた事もあったけど、彼は僕を舟に乗せ、流した。彼は僕の得体のしれない力に怯えたんだよ」 動物的な本能だったんだろうね。 「あの時は理不尽だなあと思ったけど、この紋章のやばさを考えるとそうでも無いね」 フィルは黙って肩を竦める。 「まあ、使わないと命を削る事は無かったんだけど、使わないと駄目な状況は多かったからね。宿星の祈りが僕を生かしてくれた。多分、僕の身体は紋章の力でぼろぼろだったんだろうね。だから、紋章も僕の身体を作った」 「トロイは人生を変えた人と言うわけだ」 俺は確かにオデッサから人生を変える何かを学んだ。 「ま、僕の環境から甘酸っぱい初恋なんて・・・考えれないけどね」 甘酸っぱい恋・・・。 「でも、俺はラズロに恋してる。甘酸っぱい恋だな」 フィルは真顔だ。こう言うあたりがフィルがフィルたる所以だろう。 「うん、ありがとう。フィルが恋を楽しめるようになって嬉しいよ」 又、スルーか。 でも、話を振ったのはフィルの方からだから、これはしょうがない。 「フィルの初恋って誰?僕の事聞いたんだから、フィルも教えてくれないの?」 「ううん、誰だろう?解らないなあ。あ、惚れたと言うならビクトールかも」 いやあ、あれには惚れたよ。 食い逃げ、放火、スリ。よくもまあ、あんなに色々してくれたよ。 おまけに人が死んでしまったんだと傷心だった時、飄々と生きて再会するなんてね。 まったく、いつも期待の斜め上を行くよ。ビクトールは。 「だから惚れたね。周りにはいない大人だったよ。で、グレミオがね、マクドール家の嫡男に何をさせるかと言って大げんかしてたね」 結局、国をひっくり返すような真似した僕だけど。 「マクドール家の嫡男と言うより、トランの英雄と言った方が今は通りやすいな」 「ああ、ビクトールね。僕は結構好きだよ。彼の事」 「知り合い?」 「ううん、まあ、フィルと同じような・・・まあ、その色々な関係。食い逃げと放火はやってないけど、スリはやった。後、ピッキングとか」 ラズロも色々やって来たらしい。 「スリはね、ビクトールの財布すった奴から僕がスリ返した。で、器用だって言うんで、仕事手伝ってピッキングしたり」 ・・・それ、何時の事? 「ええと、トラン国建国戦争が終わって直ぐだったよ」 その頃、僕はラダトの辺りでぶらぶらしててね。湖の周辺の村を廻っていたんだ。その前にはハイランドの首都、ルルノイエに行ってた。その時に出会ったんだ。 「俺、知らないよ」 何があったの? 「あれ、聞いた事無い?まあ、ビクトールだからしょうがないかあ」 実はね。 |
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