幻想水滸伝 空の羽根〜10
 トラン建国戦争はオデッサ=シルバーバーグが起こしたレジスタンスから始まった。

 オデッサ亡き後、フィル=マクドールがオデッサの意思を継ぐ総大将として旗上げをし、オデッサの兄のマッシュ=シルバーバーグが彼の軍師として帝国に反乱するのろしを上げた。
 不正を打ち砕く剣をかざし、フィルは帝国の一掃に成功した。この中には帝国将軍や将校の離反が大きな力となったのだが)
 余人には知られていないが、紋章や魔法を知る人々の間では、「門の継承戦争」と言われている。
 それは、一人の真の紋章を持つ女性から始まった出来事だからだ。
 名をウィンディと言う。長き時を己の復讐に凝り固まって過ごして来た女性だった。彼女が、真の紋章の中でもっとも邪悪であると言われる魂喰いの紋章を欲した為に、沢山の人間の運命を狂わせる歴史は始まった。

 テッド。それは紋章を守り続けた者。
 フィル。それは新しい紋章の守り手。

 そして、この戦争はウィンディの敗北によって幕を降ろす。 フィルはトランの英雄と呼ばれ、人々の心に刻まれた。

「って、それ、俺の歴史でしょ?今、聞いてるのはビクトールとフリックの事なんだけど?ああ、そう、それとラズロ、貴方の事だよ」
「前振りが長くなったね。ま、おおむね、あの戦争はこんな感じだよね」
 で、僕はさっきも言ったように、ラダトの街辺りにいたんだ。ビクトールの出身はしってるよね。
 そんなわけで、
「どんなわけだよ」
「いや、ううん、まあ、偶然が重なった結果、僕はフリックとビクトールに会った。会った場所はラダトだ」
 ふうん、又、遠い所で会ったものだね。
「ハイランドの不穏さとか僕は知ってたから、出来るだけもめ事は避けてたんだけど・・・まあ、会っちゃった物はしょうがないよね」
 ビクトールがすられた財布って言うのが、実はね。
「・・・へえ・・・」
 あの野郎。まあ、転んでもただではおきなかったか。
 ビクトールの財布。そこには帝国の城からちょろまかした貴金属が入っていたらしい。
「紋章入りのもあってね。僕もそれを見た時、ちょっと引いたよ。何者なのかなあ?って。フィルが持ってたら、きっと何とも思わなかっただろうけど、見るからにぼろぼろの服で傭兵な彼が持ってたんだ。すりかえした後も、悩んだよ。返すべきか否か」
 まあ、返したけどね。
「彼、いたく感激してね。流石にヤバイものが入ってるからだと思うけど。で、何だか気に入られちゃって。懐かれた」
 その後はミューズに行ってね。
「ミューズの市長が、傭兵砦を作りたいと前々からビクトールに言ってたらしい。目的が無くなったビクトールはフリックと一緒にその任に当たる事になった」
 それって、焼き討ちにあった傭兵砦?
「うん。前々からあそこに建物はあったらしいよ。そこの責任者として赴任すると言う契約をもらったみたいだ」
 僕も詳しくは知らないんだけどね。まあ、ビクトールの事だから。
「成り行きで僕も付いていく事になってね。ちょっとだけそこにいたんだ。人が沢山集まって来てからは、僕は離れたけどね」
 星辰剣とちょっとだけ暇つぶしをしたりしたよ。
「ああ、それで、星辰剣の事も知ってたんだ」
 気むずかしい爺だよね。
「まあね。前の持ち主はよっぽど頑固な人だったらしい。星辰剣はその人がかなり好きだったらしいね。人格真似る程だから」
「そう言う事が出来るんだ」
「出来るよ。僕も正確に言うとそうだから。紋章が産んだラズロのコピー。ただ、以前の僕の記憶はちゃんとあるから、僕は僕なんだろうなあと思うよ」
「で、ピッキングって何?」
 これの方が今は紋章の話より気になるよ。
 フィルの言葉で、ラズロは頭を掻いた。
「いや、ほら、人が集まる前は人手とか無いから、何でも速攻で終わらせて被害を出さないようにしないとならなかったから。ビクトールとフリックと僕で、チーム組んで、資料とか証拠物件強奪に行ったり・・・。その時に鍵開けたりするのが、僕の仕事でね」
「・・・盗人・・・?だよね」
 そうとも言うね。
 ラズロはにこやかだ。
「最初の仕事は、ラダトの街の商人の家に、忍び込む事だったよ。ビクトールとフリックが囮になって、僕が忍び込むだったんだ。まあ、僕の方が身が軽いから」
 あの熊・・・。
「フィル、何か不穏な事考えてない?」
「え?そんな事ないよお。決して、熊をしめちゃおうなんてね」
 考えるわけ無いよ。

「ラズロ、じゃあ、これで良いな」
 ビクトールの言葉にラズロは頷く。
「二人が騒ぎを起こした後にだね。で、どうなの?その商人ってのは?」
「まあ、間違いないな。盗賊の資金源には。しかし、繋がりが解らなくてな。証書でもあれば、繋がりを追えるんだけど。ま、俺もフリックもこの手の事は苦手でな」
「手伝うって言ったから、良いよ。泥棒は慣れてるから」
 おいおいと、フリックはラズロに目を向ける。
「お前さん、そんな風で慣れてるって・・・」
「人は見かけによらないものだよ。もちろん、僕は人様の家に忍び込んで金品を奪うのはしてないよ」
 お金には困ってないからね。
「だから、お財布も返したでしょ?」
 そりゃあそうだと、ビクトールは頷く。
「と、言う事はどっかの間者とかか?」
 お前さんの身元を探った事は無いけど。
「僕の身元は、君の相棒にでも聞いてよ。まあ、答えてくれたらだけど」
「相棒?こいつじゃないなら、ああ、星辰剣か」
 ぐったりとビクトールは肩を落とす。
「答えるわけ無いだろ?あの爺が」
「気が向いたら答えてくれるかも・・・ね」
 僕にも解らないけどね。
 傭兵砦は人手が少ない為、何故かラズロが食事番兼事務をしていたりする。
 おかげでビクトールとフリックが飛び回っていても、経営は上手く行っていた。ラズロも何人かの人材を選び出すと、後継にと砦の事務作業などを教えて行った。

「って、ちょっと待って、傭兵砦の実質を作ったのはラズロなの?」
「まあ、そう言う事になるかな?」

「ラズロは実動部隊でも動いてくれるから、楽だ」
 のうのうとビクトールは言うのだが、
「僕は気まぐれだから、直ぐにいなくなるよ。それまで色んなノウハウを学んでね。それに僕には出来ない事もあるから、そこの所、間違わないで」
 はて?ラズロに出来ない事って何だ?
 あまりにも鮮やかな能力を見て、舌を巻いていたフリックは疑問の顔を向ける。
「ラズロに出来ない事があるのか?」
「あるよ。僕だって万能じゃないし」
「何が出来ないんだ?」
 ってストレートに聞いて答えてくれるわけ無いだろ?あの阿呆。←フリック。
 が、あっさりとラズロは答えてくれた。
「僕は戦争に出る事は出来ない」
 はあ?
「とある事情があって、戦争には出られない」
 特に国を左右するような戦争にはね。
「それだけか?」
「ビクトールはこれをそれだけ?ですますんだ。腰抜けとか言わないの?」
「いや、俺も・・・事情ある人は知ってるしな。戦いを嫌いな者もいるし」
 ぽりぽりと頭を掻くと、そうだろ?フリック?と、話を振る。
「ああ、そうだな」
「平和な時には何でも手を貸せるんだけどね」
 そう言う星の下にいるんだよ。

「ビクトールはどうも僕がいなくなってから星辰剣に問い詰めたらしいね。で、大げんかをしでかしたらしいよ」
 直接聞いたわけじゃないから、知らないけど。どっかに封印しちゃったらしいからね。
 ああ、それでか・・・。
「しかし、聞けば聞くほど、ラズロって凄い人だよね」
「まあ、長生きだからね」
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