幻想水滸伝 空の羽根〜7
 薔薇の騎士、もとい、群島諸国戦争史。
 原作者は元宿星。
 加筆、その他大勢。
 監修 元天魅星、ラズロ=フレイル=エン=クルデス。と、その相棒、ソウルイーターの元持ち主、テッド。

 その事実を知った時フィルは、人生色々あるよなと目の前の綺麗な人と今は亡き親友のテッドに拍手を送った。
 何か当たり前にありえそうな話に思ったのだ。ラズロとテッドでは。
 ある意味、これは二人の愛の話でもある。
 恋愛ものでは無いが。
 ラズロは自分の事は聞いてくれたら話すと言った。
 と、言う事は、この本の中の事を全て聞いても良いんだよな?と、フィルは解釈した。
 そう言うわけで、過去に遡る。
 150年前の群島諸国へ。

 群島諸国には人魚がいた。それはそれは綺麗な七色に光る鱗を持っていた彼らは、好事家達に剥製にと売られていたのだ。
 ラズロは流刑の身の間に人魚と知り合い、助けるにいたった。それは偶然では無く、必然の巡り合わせではあったのだが。
 ところで、ラズロは真珠と珊瑚の交易ルートを持っているのだが、その品物の出所は誰も知らない。
 大粒の真珠。色鮮やかな珊瑚。加えてそれらは美しい加工品となってラズロから交易に流される。
「どこから仕入れてるの?」
 そのフィルの問いにあっさりとラズロは答えてくれた。
「人魚から」と。
 あのね、僕は昔人魚を助けた・・・と言うより、人魚狩りでバラバラになった姉妹を引き合わせてあげたんだ。
「薔薇の騎士の中にも書いてあるでしょ?引き綱をしたら人魚がかかったって」
 あれも実話なのか?
「人魚は恩義に厚くてね。僕にしか行けない場所に一年に一度装飾品を届けてくれるんだ。今度フィルも行ってみない?綺麗な所だよ」
 ラズロ島って言うんだけどね。
「そこ、流刑の時に流れ着いた無人島でしょ?」
「うん、そう」
 戦後少しの間は、そこでチープーがお店を開いてたんだけど、ちょっとつまずいちゃってね。オベルの方で店をやらないか?って事になって又無人島になったんだ。
「元々巨大カニとか強いモンスターのいる島だから、そのうち誰も立ち寄らなくなったんだ。でも、そこ海底温泉があってね。僕はちょくちょく遊びに行ってたんだ。オベルからも近かったし」
 ある日・・・。

「ラズロ!」
 久しぶりに無人島に立ち寄ると、波間から人魚のリーリンが現れた。
「やあ、リーリン久しぶりだね」
「ラズロ、遊びに来たのか?」
「うん、遊びに来たんだ」
 この島もすっかり静かになったしね。モンスターはいるけど。
「うん、誰もいなくなったからリーリン達もここに帰って来た。人は苦手」
 でも、ラズロは好き。
「ありがとう。暫くいるよ」
「又、主が出た。ラズロ、倒してくれると嬉しい」
 何だか無理難題な話だが、ラズロはあっさりと引き受けた。
「おやすい御用だよ。しかし、一人でカニ鍋もなあ・・・」
 と、考えて気配に振り向くと、キリルが笑っている。
「二人だよ。リーリンの依頼は僕の手には余るから君が来るまで待ってもらったんだ」
「キリル、君、何で?」
「オベルに寄ったら、君がここに来てるって聞いた。何処かに寄ってたんだろ?僕はオベルから真っ直ぐに送ってもらったから」
 君よりも早く着いちゃったよ。
「よおし、カニ鍋にチャレンジするか」

 ぐつぐつと煮えるカニ鍋の前で、二人はカナカンの火酒を酌み交わしている。
「もう、5年だね。あれから」
「そうだね」
「ねえ、ラズロ。ラズロはこれからどうするの?」
「どうって?」
「だって・・・君も気が付いてるだろ?僕の姿が変わらない事に。君も変わらないし」
「うん、そうだね。僕には目標があるから、キリルにもあるでしょ?僕の目標は紋章の謎を探る事だから、旅暮らしになると思うよ」
 ハルモニアにも行くかもしれないし。
「そうだね。僕の目標は紋章砲を総ざらえする事だもの。この世界に散らばった、あちらの欠片を集める事。それが僕の目標だものね」
 ただね。聞いておきたかっただけ。
「考えたんだけど、キリルも僕と同じじゃないかな?と思うんだ。僕を再び産んだのは紋章だ。ヨーンは異界の人だから・・・紋章と同じじゃないのかな?と」
 あくまで仮設だけど。
「あちらの世界の人たちはとても長生きなのかもしれないよ。不老不死に見える程」
「・・・そうなのかもしれないね」
 深刻な話をしつつもカニ鍋は確実に減っているので、この二人は案外似たもの同士なのだ。
「この後、ガイエン公国に行ってみようと思ってるんだ」
「ガイエンかあ。クールークは大方片づいただろうから、ガイエンの方に僕も足を伸ばしてみるよ」
 あそこにも紋章砲は売りに出されていただろうから。
「そうだね。あの国はラズリルがクールークに侵略された時にも援軍を送る事がなかった」
 何故だと思う?
「・・・国が荒れてるからだろうね」
「うん。小競り合いが多いそうだよ。ちょっと一波乱ありそうなんだ」
 それでも行く?
「行くに決まってるよ。そう言う時だからこそ紋章砲も使われるだろうし」

 で、島を出る時にね、リーリンが言うんだよ。

「人間の生活、お金いる。人魚、みんなラズロに助けてもらった。だから、お礼したい。ここの島、初めてラズロと会った場所、そこに毎年、人魚達、綺麗なもの置く。ラズロ、それ使う。遠慮、いらない。リーリン達もお願いある」
 この島、主、直ぐに大きくなる。退治してくれると嬉しい。

 以来、もう百年超えちゃったけど、僕には良質の真珠と珊瑚と細工品がただでもらえちゃうんだ。
 あ、キリルとテッドは路銀の事があるだろうから、これは知ってたよ。使ってって言ってたからたまに使っていたと思う。

「今年は一緒に行かない?ねえ、フィル」
 ええと、それは婚前旅行って言う事?
 フィルは懸命にその言葉を頭の中だけにしまった。
「行って良いの?」
「もちろん。その変わりカニ退治とカニ鍋地獄が待ってるけど?」
 南の島・・・二人っきり・・・。
 テッド!これって、やっぱり新婚旅行ののりだよな。
 苦節数ヶ月、俺はがんばった。
 実際にはただの旅行だが、夢みたいお年頃のトランの英雄だ。

「あ、キリル!久しぶり」
「やあ、ラズロ」
 そちらは?誰?
「ソウルイーターの持ち主だよ。フィル、キリルだよ。僕のお兄さんって所かなあ?」
「ああ、トランの英雄だね。よろしく」
 小姑付きだった。
 出かける前にグレミオに言われた言葉を思い出す。
「ラズロさんは手強いし、ライバルも一杯いるようですね」と。
『グレミオ・・・新婚旅行なのに、小姑付きだよ』
 いや、新婚じゃねえだろ?そもそも。
 事ある事に紋章に話かけるフィルだが、テッドのツッコミは戻って来た事は無い・・・と言うのは平和な事だろう。
 あったら恐い。
 とうの本人達は、
「カニ鍋が三人になったね。楽だね」と、笑っている。
『キリルさんって・・・ラズロと同じ属性?』
 強かと言う言葉が頭を過ぎる。

 大丈夫、愛は障害がある程燃え上がる。
 がんばれ俺。負けるな俺。
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