幻想水滸伝 | 空の羽根〜16 |
「ふうん。まったく、何処にでもこう言う輩はいるね」 ロリマーの山間部に人が集まっていると言う情報を受け、フィルはキリルと偵察に向かった。 「山賊夜盗の類だな」 まだ、中央に話も通してないのに気の早い事だと、フィルは呆れる。 「鬱陶しいなあ」 キリル、君、何か紋章持ってる? 「今は燕だけ」 君は? 「物騒なのと、烈火と流水」 烈火と流水は物騒じゃないのか?と、突っ込みを入れると、「紋章屋でたまに売ってる物を物騒とは言わないだろ?」 違いない。魂喰いは売って無いもの。 「あいつらの背後関係とかの裏づけはいるだろうか?」 フィルの言葉に、 「今は特に必要無いだろ?」 と、キリルが答える。 「じゃあ、一発、派手に散らしておくか」 一二の三! 「出でよ、劫火の中に棲む火竜。その力を示せ!」 っていきなり最後の焔を放つか! 頭痛い! いきなりの焔の出現に、賊は散り散りになり逃げる。そりゃあそうだろう。 「ってこのままじゃあ、森が燃えるじゃないか。おい」 「解ってる。だから、流水の紋章だ」 フィルはうにうにと何だか唱えた後、凄まじい冷気を放出した。 「馬鹿に何とかを持たせるのはどうかと思うよ」 キリルの皮肉に、 「ゲリラ戦法にはお役立ちだろ?まあ、俺はテロリストの親玉やってたから、その辺の賊とは格が違う」 凶悪さが違うと言いたいらしい。 「こういう所は、天魁星は似てるよね」 「え、ラズロに似てるの?」 「思い切りの良さだけね」 さて、どうする? 「どうしようかなあ?一応、証拠品集めでもしてと。あいつら又、来ると思う?キリル」 「そうだね。特にあちらには被害はなかったみたいだし。でも、ミルイヒ将軍の援軍が来るまでは大丈夫と思うな」 「しかし・・・こう、実入りがあるか無いかと言う鉱山によくもまあ集まるもんだ」 「実入りの事だけど、ここ、本当に銀山だけなのかな?」 ん? キリルの疑問にフィルも頷く。 「金銀ダイヤモンドプラチナ以外の希少価値ってなあんだ」 二人は顔を見合わせる。 「だよな」 「そうだよね」 それしかないな。 さて、フィルが憂さ晴らしに暴れていた頃、シーナは援軍と供に村に着いていた。 山間部から凄まじい焔と氷柱が上がるのを見て、 「・・・溜まってるんだな」と、呟いた。 「あれ、シーナ来てたんだ」 お仕事してるんだねえ。 「当たり前だ。お前こそ、アレなんだよ。山火事なんかになったら大変じゃないか」 「その為に消火の方の紋章もつけてる」 「あ、そ」 「ところで、そちらの方はどうなったんだ?廃嫡裁判の方の段取りは出来たのか?」 「ああ、フィルも戻って来てくれ。村の警備には俺が連れてきた護衛を置いてゆくからな」 大丈夫か? 「それは聞き捨てなりませんよ。フィルさま」 顔を出した人物にフィルは唖然と驚いた。 「何でいるんだ?パーン」 「そりゃあ、フィルさまがここにいるからですよ。グレミオの変わりです」 いや、それは嬉しいけど。 「パーンがいるなら安心だな」 「俺もいるんですけど?」 「あれ?グレンシール・・・って何でグレンシールが来てるんだ?」 「フィルさまが飛び出して行ったきり、連絡しないからですよ。レパント大総領が俺を寄越しました」 うぬぬ。目付役を寄越すとは・・・。 「解った解った。ちゃんとやる」 「何をです?」 「・・・ええと・・・ちゃんと・・・ラズロに嫌われないようにやるよ!」 はああと、パーンがため息を吐いた。 「坊ちゃんがやると言うなら信用は出来るんですけど、ラズロさんも引き合いに出されると迷惑と言うものですよ」 「だて、しょうがないだろ?ラズロ以上に色々出来る人はいないと思うしい、テッドが惚れた理由解るよなあ」 なあ、テッド。 「あの・・・フィルさま・・・」 「何?」 「何でもありません・・・」 何だか意外なものを見たと、一同は胸の中だけで思う。 『紋章って答えをくれるのか?』と。 さて、シーナはアップルを伴ってミルイヒの元に戻った。 フィルはキリルと供に、別行動だが、後に続いた。 「ねえ、キリル」 「何?」 「クレアス=クラウスの事をどう思う?病死だって聞いたけど?」 「病死だね。村の医者に確かめたよ。肺炎で亡くなったそうだよ。持病があったらしいけど、死にいたる病では無かった」 彼の死亡原因は、雨の中を歩き回った事が原因らしい。 彼は何かを調べてたらしいんだよ。 「アレか?」 「だろうね」 「彼はその才能があったのかな?だったら、納得が行くよね」 「この話、何か変じゃない?話がころころ変わり過ぎる。まずは整理して見る事が大切だ。互いに知る情報を出そう」 キリルはフィルを見て、頷く。 クラウス家元当主は2年前に死亡。息子ソリアスが家督を継ぐ。(現8才) 元当主の甥(ソリアスの従兄弟) クレアス ソリアスの後継。元当主の兄の息子。 同じく クレイス クレアスの弟。で、クラウス家の家督相続を申し立てている。 「で、ソリアスは元当主の血の繋がった息子では無い」 「じゃあ、何で元当主は彼を育ててたんだろう?」 「経過は細密には解らないんだけど、あの子はハイランド皇家の血筋らしい。ルカなら年なんか関係なく遺恨を残す者はつみ取ったと思うけどね。・・・それとも、わざと見逃したのか?彼の良心が残っている間に」 でも、これが公になっては困るんだよ。 「ここは、トランなんだよ。隣国とは仲良くいたい」 「・・・だよね。ここはトランの英雄が出ざるえないんだろうな」 キリルの皮肉めいた言葉にフィルは頭を掻いた。 「だよなあ。あちらも十分平和だと確認したばかりだ。穏便に済ませたいものではあるよね」 どうも嵌められたみたいだよ? 「誰に?」 「死人に。クレアスにだ」 フィルは苦々しくため息を吐いた。 「彼は自分が死んだ時の為に用意をしたんだ」 大体、クレアスはソリアスの後見人をしていたんだから、容易にその実権を握る事は出来たんだよ。お飾りの当主のね。 たまたま、クレアスの死が早く来てしまったのが、クレイスの悩みになってしまったんだろう。 クレアスはなかなかの軍師な人だったようだから。 「流石、マッシュの知恵をもらっているだけの事はある。まったく、シルバーバーグの血は恐い」 英才には英才が集まるみたいだね。 「こうなるとアップルがここに来たのは偶然では無く、必然だ。紋章に呼ばれたと思ったのはこう言うわけか・・・」 「どう言うわけ?」 「うん、この紋章の今の性質だと思う。ここにはオデッサと父上、テッドの魂がある。テッドはどうか解らないけど、オデッサと父上は、この国の未来に尽くす人だった。だから、不穏を感じて俺に知らせたんだと思うよ。まだ、新米なんでそれくらいしか解らないけどな」 「ううん、しかしハイランドの血筋かあ。ハルモニアに知れたらどうなるかな?ヤバイよね」 あの国はハルモニアには属国扱いだから。 「クレイスがびびるのは解るな。彼は彼なりにこの平和な村を守りたいんだろうさ。で、某かの利益を上げたい。策士では無いがね。俺には歓迎出来る人物だよ。無くなった兄より」 「フィルは頭が良いから僕がここに来る必要は無かったような気がするね」 キリルはいささか脱力したと笑う。 「でもない。小姑が来てくれて嬉しい。ラズロはわざとここに来なかったんだと思うんだ。ラズロはしっかりとした人だったでしょ?戦後も」 「無人島で巨大カニ相手に晩ご飯って狩りしてる人だったよ。初めて会った時は。いや、驚いたなあ。一体、何をしてるんだって思った」 「ははは・・・。ラズロの過去はちょっとだけ聞いたよ。凄くテッドの事・・・愛してるだとか・・・」 くうう。言ってて悔しい〜。 「ははは。悲惨な人生だったわりには、150年間の間は結構幸せだったんじゃないかな?と、思うよ。ラズロがいたし、僕も・・・まあ、及ばずながら」 「で、あ、そうだ。何でテッドは俺の事を親友って。初めての友達だって言ったんだろう?」 そりゃあ・・・。と、キリルが視線を外す。 「ううん、それは当たりだと思う。ラズロは友人じゃなくて恋人だよ。僕はまあ、人外なんで。テッドはね、僕の事、精霊とか思ってたらしい。何せ、二人の事後に顔出しても、何とも思って無かったらしいから」 いや、ねえ、テッド。それは不味いんじゃない?突っ込みくらい入れろよ・・・って、いや、事後だからつっこんだ後・・・ごほぐおほお・・・。 いや、その前にこの小姑・・・そんな事してたのか?! と、フィルは遠い想いに浸る。 「ノックしたら、どうぞとか平気で言うんだよ。部屋に入っちゃったよ。流石にラズロには悪いから、次からは気を付けたけどね」 あの子、蒼白な顔してたし。 「で、その後、何だかテッドの顔に傷がついてたから、痴話喧嘩だよね」 はははと、キリルは愉快に笑う。 さぞやラズロもいたたまれなかっただろうなあと、フィルは遠い空の人を思った。 その頃。 「・・・なんですよ。で、これがその時にもらったレシピです」 ラズロはグレミオ相手にレシピ交換をしていた。 「そう言えば、テッド君は料理しなかったんですか?」 「まあ、ざっぱな料理しか出来なかったかな?野宿ではトリは焼くだけ。魚も焼くだけ。流石に街中に住んでる時は某か作ったみたいですけど、僕といる時は僕が何か作りますし」 レパートリーと言う程は何も無かったですね。 「そう言えば、坊ちゃんにも料理はさせた事無かったですね。美味しいって言ってくれるだけで嬉しかったので」 「まあ、今から憶えれば良いんですよ」 幸い、グレミオさんの美味しいレシピがあるし。 「はあ、早く帰って来ないですかね。坊ちゃん」 帰って来たら、早速特訓して差し上げます。 「フィル、どうしたんだ?何か?」 ぶるりと震えたフィルにキリルが首を傾げる。 「何だか嫌な気分になった。風邪かもしれない」 「風邪?それは気の迷いだよ」 何とかは風邪引かないから。 「小姑!」 「現に僕はひいた事無いからね。秀才は風邪引かないんだよ」 やっぱこの人、小姑だとフィルは心から想った。 |
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