幻想水滸伝 空の羽根〜15
「あれ?何方?」
 ラズロが振り返ると戸口に人が立っている。
「こちらはラズロさんのお家ですね」
「はい、そうですけど」
 良かった。間違って無かった。
 安堵の吐息とともにどっと力が抜けたらしい。
「お疲れのようですね。どうぞ」
「あ、すいません」
 椅子を勧められて、その人は「あ?」と、慌てて声を出す。
「すいません。自己紹介もしないで」
「お気になさらずに。今、お茶でも入れますから」
 共和国総司令官殿
「ご存じでしたか」
「ただの感ですよ」

「あらためて。トラン共和国総司令官 クワンダ=ロスマンです」
「ラズロです」
「貴方がグレンシールを負かしたと聞いていたのですが」
 意外でした。
「外見がですか?」
「いえ、雰囲気がです。武人には見えない」
「武人に見えたら、塾などやってられませんよ。フィルは今、ミルイヒ殿と出かけてますので、僕は貴方とは手合わせ出来ないんですよ」
 ラズロはにこりと笑う。
「は?はあ」
「フィルがいない間に手合わせなんかしたら、拗ねられて困るんですよ。ずるいってね」
「な、まさか、あの方がそのような子どもじみた事を言うとは・・・」
「意外ですか?」
 ええ・・・。
「僕は彼の子どもじみた望みを聞く為にここにいるんですよ」
 僕もそうでした。
 僕の子どもぽい我が儘をみんなが聞いてくれた。
 クワンダは話が見えないと面食らう。
「あ、すいません。勝手なお話をしてしまって。それだけじゃないですよね。ここに来られたのは」
「え、ええ」
 どうも、調子が狂いぱなしだ。この目の前の人が予想外過ぎるからだと、クワンダは頭を掻いた。
「鎧を着けてない姿は珍しいですね。ここに来る為に気を使ってくださったんですね。ありがとうございます」
 フィルの恋人?と言う噂だったので、どのような人だろか?と、思っていれば。
『成る程、如才無い人だな』
 おおっと、値踏みに来たのでは無かったのに。
「ラズロ殿は鉱山の話を聞いたのですか?」
 はあ?
 いぶかしげなラズロの顔だ。
「いえ、それは何でしょう?僕は廃嫡裁判が起こっていると聞いただけです。先日、僕の友人のキリルがフィルの元に行ったのですが、フィルからは何の連絡も無いですよ」
「・・・そうですか。実は・・・」
 クワンダの話を聞いたラズロは、暫し考えた後に、
「お話だけ聞いた事にしておきます。僕はこの国には介入出来ませんから。利害も廃嫡裁判も僕には口を挟む事じゃない」 群島なら・・・まだしも・・・。
「しかし、アップルさんが介入してたとは意外でしたね。事を大きくして注意をひきたかったと言う辺りですか?」
「らしいです。皇族関係のいざこざは今でも頭痛の種ですから。レパント殿は皇族の血をひいてませんし」
「だから、フィルは大総領を引き受けないと言う事ですよね」
「ご存じだったんですか?」
 これでも商人なんですよ。僕は。
「一応、交易商でね。商人には情報は大切なんです。フィルに皇族の血が流れている事は元より知ってますよ」
 まあ、重要なのはそこでは無いですけど。
「しかし、鉱山ねえ」
 利権を争って荒れるのが目に見えるようですね。
「ミルイヒ殿にしっかりと監視してもらわないと、混乱を呼びますね」
 情報漏れも心配ですしね。
「こう言う情報には賊が動き回りますから。で、もう、そう言う事態になったんですか?」
 クワンダは微かに額に皺を寄せる。
「ここまで話すつもりはなかったのですが、貴方は聡明だ。ええ、その通りなんです。ロリマーの地方がきな臭い」
「その辺りはフィルが上手くやるでしょう」
 アップルさんもいる事ですし。
「良いんでしょうか・・・」
 あの方を又・・・。
「良い所を見せたいんですよ。僕に」
 ラズロがくすりと笑う。
「まあ、今はあの子の希望で同居してるんですけど、穀潰しは嫌だそうですよ」
「・・・はあ」
「気にしなくても良いですよ。帰って来たら僕がうんと褒めてあげますから」
 クワンダは納得が行かないようだが、ラズロはさらりと流してしまう。
「そう言えば、貴方は何故僕に会いに来られたんですか?」
 わざわざ部外者の僕にそれを知らせる必要は無いのに?
 僕はただの同居人ですよ?
「いや、まあ、その好奇心と言うだけでは駄目ですか?」
 流石の彼もラズロにはどうも調子が狂うらしい。
「フィル殿が押しかけてまで同居したかった方と言うのが誰なのか知りたかっただけです」
「・・・知りたいですか?」
 僕の正体。
「全部知ると後悔しますよ。取り敢えずはテッドの昔なじみだったと知っていただければ」
 ラズロは悪戯っぽく笑う。
「他にも色々あるんですけどね。ありすぎて困るんですよね。いちいち紹介も出来ないし」
 ご大層な肩書きなんかもあるのがあって・・・。
「知りたいですか?」
 にこりん。
 これは聞くなと言う事だろう。と、クワンダは解釈してそれを伝えると、
「いえ、そんな事ないですよ。貴方は口が硬いでしょうから。そうですね。僕の本名ですけど、ラズロ=フレイル=エン=クルデスと言います。群島諸国連合の名誉議長なんて肩書きもありますね」
 何を言われても覚悟していたとは言え、クワンダはかなり驚いた。
「まあ、最大の秘密は」
 ここですけどね。と、左手の甲を指さすと、手袋を取った
 そこには見たこともない紋章が浮かび上がっている。
「・・・真の紋章?」
「罰と言います。償いと許しを司る紋章ですよ。この紋章は使う度に宿主の命を削る寄生虫のような紋章なんです」
 え?
「あ、でも、今は僕の命は削らないですよ。僕は紋章の化身のような存在なんで。まあ、その辺りの事情は詳しくは話せないんですが。まあ、その他にも色々あるんですが、一番大きなものはこの4つだけですね」
「貴方は星の司だったのですか」
「そんな時もありましたね。でも、僕は最初はただの孤児だったんです。船の事故・・・オベルの哨戒船ですが。その事故でラズリルと言う島に流れ着いた、ただの孤児だったんですよ。だから、肩書きなどあっても無くても同じなんです」
 一応、本当の血縁関係ではあるんですけどね。オベル王家とは。

 クワンダが帰った後、ラズロはマクドール家にと足を向けた。
「おや、ラズロさん」
 こんにちわ。グレミオさん。
「どうしたんです?あ、今、お茶いれますから」
「お構いなく。フィルから連絡ありました?」
 グレミオは首をふる。
「それが全然。あ、何かお聞きになったんですか?」
「さほど大した話では無いんですけど、グレミオさんが心配してるんじゃないかな?と、思って」
 僕の所にもフィルからの連絡は無いんですけど、クワンダ殿が先程いらして。
「はあ。クワンダ殿が?」
「あちらでアップルさんに会ったと言う事ですよ」
 グレミオはため息をつく。
「と、言う事は、坊ちゃんは厄介事に首を突っ込んでるんですよね。そう言うの好きですから」
「僕の友人のキリルがフィルの所に行ってくれてますから、何かあれば知らせてくれるはずですけど」
「そうですか。わざわざありがとうございます。あ、夕食でもご一緒に。今、パーンもクレオもいません。だから、寂しいんですよ」
「ではお言葉に甘えて」
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