幻想水滸伝 | 碧の行方〜9 |
「へえ、あの方がラズロさんですか」 フィルの言葉に、アップルは興味深々とラズロの側に行き、挨拶をする。 「はじめまして。アップルです」 「はじめまして。ラズロです。実は僕はあなたと初めてじゃ無いんですが、こうやって顔を合わせるのは初めてですね」 シュウの妹弟子殿。 「ま、シュウ兄さんをご存じなんですか」 「ええ、交易のお相手を。僕は珊瑚や真珠を扱っておりますので」 「それは知りませんでした」 「ええ、そうでしょう。実際、シュウ殿とも2回ほどしかあっておりませんし。僕の仕事はチープー商会が間に入っておりますので」 さて、シュウはと言うと宿屋の二階に我が君であるリオウと籠もってしまった。 「今までどちらに?」 シュウはすっかりと動転しているようだ。 「あちらこちらだよ。シュウ、元気そうだね」 にこりと笑う姿はあの頃より格段に背が高くなって、シュウよりぐっと視線も近くなった。 「背も高くなられて」 「うん、でも、もう伸びないな」 残念だけどね。 「そんな事は無いでしょ?」 と、言うシュウにリオウは、右手を見せる。 「これは・・・」 「うん、一月程前だったね。ジョウイが事故で亡くなってね。その時に分かたれた紋章は一つになった。シュウには知らせておかないとと思って」 でも、驚いたなあ。フィルさんも来てるなんて。 「事故?」 「うん、本当に事故。僕が側にいない時にね。あれだけ戦争して死ななかったのに、あっけ無いよね」 ナナミとジョウイと色々と旅してたんだ。キャロの村に帰ってからちょっとして・・・。 「逃げ出した事、怒ってる?シュウ」 シュウはリオウの前に跪くと、頭を垂れる。 「我が君。私は怒ってなどいないし、他の者もです。貴方には王になっていただきたかったが、それは我らの勝手な都合です。貴方を王にしたてて貴方に縋って・・・貴方を王にすえる事で我々は安心を得ようとしていた」 「うん、僕はただの子どもで重い物はいらなかった。紋章があったから戦争の時リーダーになったけど、本当は途中で逃げたくてたまらなかった。ルカが死んだ時、僕の戦争は終わったから逃げたかったんだ。でも、まだ終わったわけじゃなかった。ジョウイがいたからね。だから、全てが終わった時に逃げ出した。僕は王になりたかったわけじゃないからね」 幸せな時を取り戻したかっただけだったから。 「僕にとっての幸せはナナミがいて、ジョウイがいる。それだけだった」 「ええ、解っていますよ。我が君」 シュウは顔を上げてリオウを見る。 「立ってよシュウ。僕は王じゃない」 「でも、我が君です」 逃げ出したんだよ。僕は。 「我らは貴方に何もしてあげられなかった。貴方が自由を望むならそれだけは叶えてあげたかった」 リオウはシュウに手を伸ばし、引っ張る。 「ありがとう。シュウ。僕は幸せだったよ」 トランの英雄は祖国に何かあったら駆けつけると言ってる。僕に自由をくれたみんなにも僕の手が必要な時は駆けつけるよ。 「リオウ」 「それを言いたくて待ってたんだ」 「そうですか」 嬉しいです。 「ところで、もし貴方の王としての力が必要になったら、手を貸してくださるんですか?」 にこりとシュウが笑う。 意地悪な質問だが、リオウは迷う事無く返事を返した。 「もちろんだよ」 これにはシュウも驚いたようだが、次の瞬間には平伏してリオウを拝んだ。 「わわ、何、シュウ」 「貴方が王となられる時は、私も貴方の隣に立ちます。貴方は私のただ一人の我が君ですから」 あ〜もう、シュウはあ・・・。 えいしょとかけ声をかけるとリオウはシュウを抱き上げる。 「うわあ、ちょっとシュウ、痩せたんじゃない?」 軽々もてるよ。 「いや、貴方が大きくなったんですよ」 「あ、そっか」 さて、もうそろそろ行きましょうか。皆を待たせてますし。 「お話は終わった?リオウ」 「うん、フィルさん」 「それ、ジョウイは亡くなったんだね」 やはり解る?と、リオウは紋章を見せる。 「うん、共鳴してるもの。ラズロの紋章とも合わせて痛いくらいだよ」 ねえ、ラズロ。 「そうだね。これは歓喜の声だね。紋章の」 え? 「紋章の声が聞こえるんですか?ええと」 「ラズロです。罰の紋章と言うのを持ってます」 「で、俺の恋人なの〜」 フィルの言葉にリオウは驚く。 「え〜恋人?フィルさんに?ええ〜嘘でしょお?」 真の紋章よりそちらの方が驚きだとリオウは騒ぐ。 恋人って恋人ですよ。 「本当なんですか?ラズロさん」 それにはラズロは笑って返すだけだ。 嘘か誠か。しかし、フィルを窘める事が無いのだから、どうやら本当らしい。 「シュウを送って行って色々見てまわってから、竜洞に行くんだ。リオウも来る?」 良いんですか?! 「どうぞ。あ、ナナミは何処にいるの?」 「ナナミは、ラダトの街にいます。やっぱりシュウには一人で会いに来た方が良いと思って。お家の人に情報を聞いて来たんですよ」 ふうん と、後ろから頷いたのはシーナだ。 「あ、シーナ。どう?僕、シーナより背が高くなったんじゃない?」 そう言われたシーナはまじまじとリオウを眺め、 「いんや、もうちょっとかなあ。フィルよりちょい高いんじゃない?」 どれどれ? フィルはリオウと背中合わせになるとシーナに計ってもらう。 「ううむ、どっこいどっこい。ちょいリオウの方が高いかな?」 「へえ、そうなんだ」 フィルは離れていた月日を思い、感慨深げにリオウを覗き込む。 「立派になったね」 「そうですか?えへへ。フィルさんも恋人なんか作ってて僕、驚きですよ」 確かにあの頃のフィルはあまり前向きに生きる気にはなれなかった。テッドの想いが支えていてくれたようなものだ。 「で、何処で捕まえたんですか?」 「いや、会いに来てくれたんだ・・・」 じつわね。 こしょり。 ラズロはテッドの恋人でね。僕に会いに来てくれたんだ。グレッグミンスターにね。 「で、一目惚れしたから、俺からプロポーズしたの」 ごく。 「それは情熱的です」 うわあ。いいなあ〜。あんな綺麗な人。 「で、OKもらえたんですか?」 「うん、直ぐにもらえたんだけど・・・」 「どうしたんです?何か不都合あるんですか?」 一緒にいるのだから仲が悪いわけでは無いだろう。 「いや、仲は悪くないよ。そのね・・・」 青春楽しみたいと思ってね。まだ、その清い仲・・・ きょとんとリオウはフィルを見つめた後、ああと頷く。 「そっか・・・良かったですね。フィルさん」 あ、ラズロさん〜。 フィルに背を向けてリオウは走って行く。その背を見ながら、フィルはすがしい気分で深呼吸をした。 『帰って来たんだリオウ』 リオウが戦後行方不明だと言うのは聞いていた。実はフィルはリオウが何処にいるのかも知っていた。 あちらこちらと放浪していたリオウ達だが、フィルの情報網にはかかっていたのだ。だが、フィルは都市同盟の誰にも伝えたりはしなかった。 都市同盟の方もあえて彼を捜してるわけでは無いようにフィルには見えた。本気で探していたら、それこそ直ぐに捕まえる事が出来たはずだ。 リオウもそれは解っていただろう。 リオウの声にアップルと話をしていたラズロが振り返る。 何やら楽しそうに話をしている。 『テッド・・・見てる?』 又、ライバル増えちゃったよ。 感動の再会なのに何抜かすと言う突っ込みが無いのは幸いだ。 |
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