幻想水滸伝 碧の行方〜8
 テッドがキリルを精霊と見ていたには訳がある。

「え?ああ、僕の両親の事?」
 そうだねえ。父さんは普通の人間だけど、母さんは異界の人?
「で、どうやって僕が出来たのか謎でしょ?僕も実はそう思ってたんだ」
 これはキリルとラズロが再び出会った頃の事だ。
「異界の扉が開いた時、父さんが僕の血の半分はヨーンの血だと言ってた」
 これそのまんまの意味だよ。
「父さんの魂の一部とヨーンの魂の一部を混ぜて僕の精神は出来た。父さんの血とヨーンの血を混ぜて、僕の肉体が出来た」
 後は母さんの愛情が培養床だね。
 それを聞いたテッドは、
「ふむ、まるで人と違うんだ。でも、キリルは人と変わらなく見えるけど?」
「うん、それは父さんを模したからだよ。この世界では僕の姿は人に見える」
「模した?」
「まあ、人に見える必要があったからだと思う」
 あ、そうか。
「そう言えば、俺を霧の船に乗せた船長は、どう見ても人には見えなかったな。うん、あれを人と言うのはなあ。何せ顔が五つあったから」
 そう言えばそうだったかな?
と、ずれた事を言ったのはラズロだ。どうやら霧の船の記憶は曖昧らしい。
「まあ、俺達もある種、人とは違うからな。真の紋章を宿してるんだから。これは世界の根源の力だ。この世の理をねじ伏せる力を身体に宿せると言うのは、人では無いんだろう」
 あ、精神体が本体だと言うならまるで、精霊みたいじゃん?
「え?精霊?」
 そう言われたキリルは明らかに狼狽したように見えたが、テッドは一人納得をしていた。

「と言うわけで、テッドはキリルの事を精霊と思ってたらしいよ」
 ラズロからキリルの事を聞かされたフィルは成る程と頷いた。
 本日は二人で夜番である。シュウとシーナを寝かせて二人で色々と話していた時に出た話だ。
「精神体が本体かあ。成る程ねえ」
 テッドが精霊言うわけだ。
「そうだねえ、テッドは割とざっぱな人だったから。必要な事とどうでも良い事の分類しか無い人だからね」
 まあ、必要な事の範囲は広かったけどね。
「考えても解らないから精霊だったんだな」
「その通りだよ。でも、人の生活はしてるんだから、僕としては人と見てたよ」
 フィルにはぴんと来た。小姑寝室乱入事件を言ってるのだろう。
「まあ、テッドは長生きだったから、中身親父だったな・・・・フィルもそう思うだろ?」
 まあ・・・。
「・・・思うな」
 すっぽんぽんの寝室に人呼ぶなんぞ親父としか言いようが無い。キリルに聞いた所、気をつけていてもそれから何度かあったらしい。
「いや、ラズロは寝てたから知らないかもね」だった。
 って知ってるのか?や、知ってるんだろうなあ。ラズロだもんなあ。
「ふうん、あ、霧の船って薔薇の騎士にも出て来たよね」
「ああ、テッドが乗ってた船だね。
『彼の船は霧の彼方より来たり、船に囚われしは己を偽る星の一人、薔薇の騎士はその軛を解く為に船に降りる。危険を顧みず』
と」
 すらすらとラズロの語りに、流石監修だと舌を巻く。
「実は僕は霧の船の記憶は曖昧なんだ。テッドと会話した事と船長と戦った事くらいしか憶えてない。船長の記憶も曖昧なんだ。どうやら、あそこでは記憶や視覚や五感が曖昧になるらしい。時がたゆとう場所ってテッドは言ってたから」
 あるようで無いような時間の流れらしいよ。
「霧の船の船長は異界から来た存在で、この世界を憎んでいたらしい。何故かは知らないけど・・・テッドも知らないって。船長は紋章でこの世界に復讐しようとしてたらしいんだけど・・・。紋章を集めてたんだよ」
 復讐なんて考えるにはそれなりに理由はあるんだろうけどね。
「ヨーンみたいに異界から呼び出されたのかな?」
「さあ、良く解らない。でも、船長はレックナートさまに送り返されたみたいだから・・・今は、自分の世界にいると思うな」
「で、テッドをゲットしたんだ。ラズロは」
「そうだよ」
 いや、あの頃は大変だった。
「何せテッドは紋章のせいで人嫌いだし、話かけてもろくに返事もくれないし」
 うん、困ったよ。
「テッドの魔力はあてにしてたから。魔法なんて凄く早いし、弓も早い。借りは返すとか言って戦闘に出てくれたけど、そっけない」
 世話焼きのアルドがほとほと困ったって僕に零してた。
「アルドってラズロの事、テッドと育ててくれた人だよね」
 そうだよ。
「あのさあ、もしかして・・・アルドってテッドの事好きだったの?」
「うん。何かね、小動物系は彼の心にはクリーンヒットするらしい」
「・・・じゃあ、アルドってラズロの事好きだったの?」
 そりゃあ、僕は天魁星だったから。
「嘘だね」
 敵わないなあとラズロは笑う。
「そんな尻軽みたいに言わないでよ。君だって、108星集めたんだろ?」
「嘘でしょ?」
「・・・そうかもしれない。でも、確かめた事無かったから何とも言えないよ。僕は何時死ぬか解らなかったからみんな出来るだけ負担にならないように考えてくれてた。お金の事とか作戦とかそう言うのはちゃんと教えてくれてたけど、恋愛とかに関しては誰も何も言わなかったよ」
 手を伸ばせば誰かが直ぐにとってくれたかもしれないけどね。
「テッドが言うには、崩れそうに脆く見えて、触れてはいけないものに見えたそうだよ。まあ、僕は打たれ強いから実際には頑丈なんだけどね」
 いや、脆く見えたなんてテッドに聞いて初めて知ったよ。
「ふふ、わりとちゃっかりしてると自分では思ってたんだよ。運はまあそこそこ崖っぷちで命拾いって感じだったね。何時も」
 それはまあ、天魁星だからしょうがないかな。
「やっぱり俺、ラズロの事好きだなあ」
 しみじみとフィルが零す。
「僕も好きだよ。フィルの事」
 嘘じゃないよ。

 バナーの村にシュウの迎えの船が着いていた。
 その船から手を振る人がいる。
「シュウ兄さん〜」
 おう、シュウは手を上げると可愛い妹分の顔を仰ぐ。
「先に着いてたのか?」
「ええ、シュウ兄さんがグレッグミンスターに行ってくれたんで、私が行く必要は無くなったから」
 一足先にこちらに。
 この二人は兄弟子と妹弟子だけの関係で血の繋がりも無いのに、何故かとても良く似ているのだ。
「あ、ここに珍しい方もおられますよ」
 アップルは嬉しそうにシュウの元に駆け寄る。
「シュウ兄さん、早く早く」
 アップルに引っ張られるままにシュウは宿屋の扉を開けて、唖然となる。
「・・・我が君」
と。
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