幻想水滸伝 碧の行方〜5
 シーナがシュウを連れてトランにやって来た。連絡をもらったラズロは早速シュウに会いにレパントの元にやって来たのだ。
「こんにちわ。シュウ殿」
 その言葉にレパントと歓談していたシュウが振り返った。
 くすんだ緋色の長衣を纏った人物を目にして首を傾げる。
「はて?何方ですか?」
 ラズロはくすりと笑った後、つかつかとシュウの元に寄りその手を握る。
「お忘れですか?私の事?」
 覗き込まれた蒼の瞳にシュウは驚くと手を放した。
「あ〜貴方はフレイル殿?!」
 何故ここに?どうして?その姿は?
「そう言えば、ここ4・5年程お会いして無かったですね。交易の真珠は流してましたが」
 シュウはラズロの姿を見てうなった。
「まさか・・・貴方も・・・ですか?」
「はい、真の紋章持ちです」
 ラズロはにこやかに笑うとシュウの手を再び取った。今度はシュウも振り払わなかったが、複雑な顔だ。
「なんだ、シュウは知らなかったのか?」
 フィルの言葉に、シュウは苦く頷いた。
「初めて知った。しかも・・・何だか以前会った時より・・・若い気がするような・・・」
「それは気のせいです。僕は変わってません。ちょっと髪が伸びたり着ている服が派手になってますが」
 今日はレパント殿にお呼ばれなんで、お洒落してきました。
「一張羅なんで今日は剣は揮えませんよ」
 ラズロはお茶目に片目をつぶるとレパントに見せる。
「ああそれはもう。折角、シュウ殿が来ておられるのですから、ごゆっくりお話して下さい」

 ええと、で、何でグレッグミンスターにいるんです?
 シュウの問いはフィルが答える。
「俺の恋人だからあ〜」
 は?今・・・何か聞いたような。年かな?
「だから、ラズロは俺の恋人。聞いてる?シュウ」
「はあ、聞いてます・・・」
 何でトランの英雄からこんな話を聞かないとならないんだ?       
「フィル、僕もシュウ殿と話しをさせてよ。交易の相談もあるんだから」
 そう言って、ラズロは脇に抱えていた帳簿をとりだす。
「今年の真珠相場はこれくらいです。如何です?珊瑚ならこれです。後、加工品のリストは以上です」
 検討して下さいね。
「それと、今度淡水真珠の養殖を考えてまして、シュウ殿も一枚噛みませんか?もちろん、ポケットマネーで」
 トラン湖の中州のお城。あそこを借り受けました。
「真珠の養殖?しかし、それでは、真珠の相場が崩れるのでは?」
「ご心配無く。海洋真珠と淡水真珠ではモノが違いますから。でも、あの城を遊ばせておくにはもったいないので、レパント殿に話を持ちかけたんですよ」
 ラズロは帳簿のページをめくると指さす。
「この金額投資で利益の一割です」
 さされた金額にシュウは顔を顰める。
「高い」
「おや?そうですか?今後のお国の産業の為にはなると思いますけど?それにこれは個人の支出です。私との貿易ルートの一つにもなりますよ」
「貴方の事だからもう技術者も手配してあるんだろう?」
「ええ、チープー商会から人材を確保してます」
 ふむ。
 シュウは暫し考えていたが、よかろうと頷いた。
「淡水真珠のサンプルはこちらにあります。見てください」
 ラズロは懐から小箱を出すとシュウに握らせた。
 中から小粒の真珠が現れる。
「・・・これが?」
「そうです。まあ、海洋真珠に比べると見劣りしますが、あ、加工品も見ますか?」
 ラズロが廊下に声をかけると四角い箱を持った青年が駆けつけた。
「サンプル品を出して」
 その言葉で青年が机にビロードを敷き、箱の中の製品を並べる。
「こちらが加工品です。まあ、軌道に乗るのは先ですが、人手の確保も出来ますし、さほど困難な事業では無いと思います」
 ようは先が明るいと言う事だ。
「フレイル殿は口が上手い。解りました。クラウスと相談して、進めます」
 返事は諾です。
「ラズロは交易ではフレイルって名乗ってるんだ?」
 フィルの言葉にああとラズロは目を大きくする。
「一応、フレイル=エン=クルデスで交易の方は通してあるんだよ。身元も保証されてるしね。フレイルの方は貿易関係の仕事で使ってるんだ」
「ラズロが交易する所を初めて見たよ」
 感心した。
「フィル殿。この人は交易ではかなりの有名人なんですよ。まあ、本人にあったと言う人はあまりお目にかかった事がなかったんですが・・・。まさか、こんな話だったとは知りませんでした。私も本人だとは思いませんでした。てっきり代理人の方だと思ってました」
 まさか、真の紋章を持っているなんて。
「暫くこちらにいるつもりです。シュウ殿には知っていてもらった方が良いだろうと思いまして。僕が争いの種になっては困りますし。ここにいる間に交易のルートの見直しも出来ますでしょ?」
 僕の代理は一応、チープー商会がしてくれますが。
「そう言えば、チープー商会ってラズロが話してくれたんじゃ潰れたんでしょ?」
 ラズロ島で商売してたって言うアレでしょ?
「うん、そうだよ。実はチープー商会を一度潰しちゃったのは僕でね」
 はあ?何で?
「僕の島、無人島にお店出したから。あそこはそっとしておきたかったんだ。だから、追い出した。変わりにオベルにお店援助したけどね」
 なるほど。人魚の島から追い出したと言うわけか・・・。
 フィルは口には出さずに内心で頷く。あの島は確かに綺麗な島だった。(ハードだったが)
「で、今でもチープー商会は僕の代理をしてくれてるんだけど、代理人として顔を出すのは僕だからどっちが代理だかだね」
 儲けの一割還元で間借りしてるんだ。
「自分でやって一割払うのは割に合わないんじゃない?」
「でもないよ。表だって色々してもらってるし。2割でも安いと思ってる。でも、最初の契約が一割だったんだ。初代の会長がそれを守るようにって言ってるから」
 側で聞いていたシュウは成る程と思った。
 チープ商会はラズロ(フレイル)の隠れ蓑と言うわけだ。
「で、養殖真珠の話は今後何処に連絡すれば良いんです?」
「あ、これは失礼。その事はレパント殿に任せてあるのでそちらにお願いします。養殖を始めたら技術者と利益計算はチープ商会に問い合わせてください。湖の城に事務所を置きますので」
 お国からの視察も受けますよ。
「勉強代と言う事ですか」
「ご自由な解釈で」
 フィルはこのやり取りを見ていて、ラズロにも意外な面がある事を知った。
『へえ、ラズロはこんな顔もするんだ』
 何時もおっとりとしていて、華美ではないが街を歩くと、10人中9人が「今、何だか綺麗な人が通った?」とか感じさせる人なのに。
『小狡そうな笑みだよな』
 それを後で告げると、ラズロは困ったような顔になった。
「シュウ殿に僕の事、恋人とか言っちゃったでしょ?」
 そう言えば、堂々宣言だった。
 それが?
「だって、トランの英雄に真の紋章を持ってる僕が付くとなると、警戒しないわけ無いでしょ?」
「挑発したわけ?」
 あの不敵な笑みは。
「まあ、そう。それに一応、僕とシュウ殿は商売仲でもあるから。ビジネス的な関係の方が上手く行くからね」
 金銭で解決出来る事が多いからね。
「僕の存在が両国の亀裂になるのは困るし」
 そんな事はさせないよ。俺の名前にかけて。
 フィルは焦ったようにラズロをフォローする。
「うん。解ってる。でも、僕も一応、クルデスを名乗ってるからね。これは僕の問題でもある。ああ、さっきの青年はオベルから来てくれてる外交官兼僕の秘書的な人なんだ。ここに長居すると言ったら寄越してくれた」
 名前だけど、リノ=イーガンって言うんだ。
「僕の遠い親戚・・・」
 つまりは王家に縁と言う事か。
「ラズロはオベルと縁を切らなかったんだ」
「祖国だからね。僕が生きてる間は、某かの形で守りたい。フィルもでしょ?だから・・・隣国に手を貸した」
 それは・・・。
「俺のは感傷のようなモノだと思う。確かに国の為でもあったけど・・・」
 フィルの戸惑う姿はばんと開け放たれた扉に消された。
「フィル殿、食事の用意が出来ましたよ。ささ、ラズロ殿も。シュウ殿が待ってますよ」
 レパント自らの出迎えで、フィルはどっと疲れが出るのが解った。
 ああ、まあ、自分もラズロと同じなのかもなあと。
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