幻想水滸伝 | 碧の行方〜3 |
「フィルが僕を欲しいと言うなら、僕はそれに答えるよ」 「え、いや、その・・・。もう少し考えるよ」 だって、もったいないから。 「ぷ、何それ?」 僕の事、バージンだとでも思ってるの? ラズロは愉快そうに笑う。 「いや、天使さまでしょ?一人で子どもを産んだ」 「まあ、堕天使ですけど」 「でも、一つだけ今日はお願い。一緒に寝てください」 一緒に寝るだけで良いから。 「じゃあ、一緒に寝よう。寝相悪かったら追い出すけどね」 「ねえ、ラズロはテッドの事が好きなの?彼は恋人?」 スノウの言葉にラズロは躊躇無く答えた。 「そんな事では言い表せないくらいに好きだよ」 「そう。僕は本当に君の事が好きだった。でも、君は僕の事を好きじゃ無かったんだよね。あ、解ってるんだ・・・」 そう自分はスノウの事を好きでは無かった。 愛情はあった。でも、それは手を伸ばして結ばれたいと言う感情では無い。 「僕はスノウの事は好きだよ。スノウの思いやりは本心からだったでしょ?」 そう、それだけは本当。 すれ違うばかりだったけど、それだけは本当だった。 「父さんが君を流刑にした時・・・僕は自分のしでかした事の大きさに目を背けていた。僕はラズリルの次期領主だから、島に害をもたらすものは排除して当然だと思っていたんだ」 結果、君がくれた愛情も思いやりの心も捨ててしまった。 「君がいて僕を守ってくれたから、僕は僕自身が振る舞うままに立てていられたんだ。君がいなくなって初めて僕は僕自身には力など無い事に気がついた」 愛情も無い人間と寝れるわけない事にもね。 それがどんなに辛い事か知らなかった。 「・・・僕はスノウの事好きだよ。でも、全てを失った時、僕は想った。逃げるだけでは何も始まりはしないと。だから、リノ王の申し出を受け入れたんだ」 どれだけ生きる事が出来るか解らないけど、死ぬ時は満足して死にたい。 「だから、恋もしたい」 「ばあか、素直に言えば良いじゃないか?お前はヘタだからやだって」 気配を殺してぴたりとテッドが横から割り込んだ。 「何時の間に・・・」と、言うスノウの言葉に、 「そりゃあ、元彼がラズロを口説いてるように見えるのに、恋人の俺がほっとくわけ無いだろ?」 行くぞ。ラズロ。 「あ、そうそう。言い忘れた」 こいつをよがらせられるのは俺だけだから、脳みそに刻んでおけよ。 スノウの顔が一瞬で蒼白になった。 「根性悪かったなあ」 フィルと枕を並べたラズロが零す。 「え?何の事?」 「テッドの事。根性悪かった。まあ、根はとても良い人なんだけど、僕が市場でナンパされる度に相手をぼこぼこにしてたよ。で、僕が一人でテッドがいない時はどうするの?って聞いたら、 それはそれで知らないから良いんだ。 って言うの。呆れるでしょ?」 おい、テッド・・・。 お前はそんなに嫉妬深かったのか? 「俺、紋章に呪い殺されかねない?テッドの呪いで」 フィルの思ってもいない軽口にラズロがぶっと吹き出した。 「恋も150年もすればいい加減飽きるよ。ねえ、テッド」 150年。いや、飽きないだろう。 「もう、ここに刻んだからね。彼の愛は」 ラズロは左手の紋章を右手で撫でる。 「ねえ、ラズロの話をしてよ」 「約束だからね」 昔、ラズルリと言う街で・・・。 「クールーク海軍を倒したのラズリルの騎士団員だったお兄ちゃんなんだよ」 ラズリルの街は平和だ。紋章砲を追う一団について行ったスノウも久々に島に戻って来た。 「・・・テッドがいなかった」 タルがは?と、スノウを振り返る。 「あ、テッドかあ。そういやあ、あれ以来見てないよな」 あれとは、エルイール要塞を落とした時以来と言う事だ。 「でもラズロは何も言ってなかったな。テッドが何処にいるとか。知らないのかな?」 「知らないはずは無いと思うけど・・・」 だって、恋人だからとはスノウは言わなかった。 ラズロとテッドの間にちょっと複雑な経過があった事はスノウもタルも知らない。 その頃のオベル。 「帰って来ないな」 リノがため息を吐いている。 「良いじゃない。きっと無事よ。あの子は」 その親馬鹿な態度にフレアも愚痴りたいのに我慢する。 あまりにも情けないのを目のあたりにすると、自分の気分が萎える。 「まさか駆け落ちしたんじゃないだろうな」 「誰と?」 「あいつだよ!あいつ!」 「馬鹿な事言わないの。駆け落ちならとっくに出て行ってるわ。わざわざお父さんの所に戻って来るわけないでしょ?」 しかしなあ。 「大丈夫よ。戻って来るわ」 へくしゅん。 「風邪かな?」 「誰ぞ、噂でもしておるのかのう?」 ラズロの入れたお茶を飲みながら、シメオンはにこやかに笑う。 ラズロはシメオンの所に居候を決め込んでいた。蔵書を見せて欲しいと言えば、快く許してくれたのだ。 「わしもちょい整理した方が良いと思ってな。手伝ってくれると嬉しい」 ラズロは二つ返事でそれを引き受けるとシメオンの部屋の居候になった。 「僕の友人が僕と同じ真の紋章を持っていて・・・その紋章は親しい人の魂を喰らうんです」 シメオンは静かに頷いた。 「ソウルイーターじゃな」 「はい。僕の宿星。天間星でした。どうやったらコントロール出来るようになるのか?彼は知りたいんだそうです」 ふむ。 「コントロールと言えるのかどうかは解らんが、お前さんといた間、そいつに命を削られた者はおったかな?宿星の中で」 そう言えば・・・ 「いません」 「うむ。ではそれが鍵なのかもしれんのう」 「鍵?」 「真の紋章。お前さんの罰の紋章じゃよ」 シメオンは暫く考えてから口に出した。 「真の紋章は二つ宿す事が出来ないらしい。噂で聞いた事じゃから、わしも真偽を確かめた事は無いが。と、言うよりそれほど稀少物にお目にかかったのはわしの人生でも3度目くらいの経験じゃからな」 ほれ、その罰の紋章。 「勧めるのはまあ嫌じゃが、ハルモニアの神殿に行けば、その辺りの謎も解けるかもしれん。あそこにはここには無い蔵書も揃っておるからな」 「ハルモニア・・・ですか」 神官長ヒクサクが建てた北の大国。 「ヒクサクは円の紋章を持っている。その力で調和と法を司っているそうじゃ。まあ、一般の神殿は巨大な図書館と変わりないからのう」 「老師も行った事があるのですか?」 「昔な」 「その言葉で僕はテッドと話し合って一緒にハルモニアに行く事にしたんだよ。その頃はまだテッドには会って無かったんだけど・・・」 準備に凄く時間をかけたよ。お金はもちろん、老師とジーンさんに頼んで紋章の気配の消し方とかを研究してね。 「用事でミドルポートに帰った時、丁度来てたタルから怒られた。何時まで顔出さないんだって。で、そこで一月過ごしたよ」 「ラズリルで?」 「うん。それから、又、クールークに戻って・・・老師とコルセリアに頼まれて歩き回ってたら、テッドに会った」 アルドの話はしたよね? 「山崩れで亡くなった人?」 「うん。落胆したテッドを連れて老師の所に帰ったんだ。テッドは老師が気に入ったみたいで良く議論してた」 そっか。 「テッドには支えてくれる人が沢山いたんだね。何か・・・俺の出番無かったみたいじゃない?」 拗ねるフィルにラズロはその右手を引き寄せる。 「違うよ。全ては・・・フィルから始まったんだ。フィルがテッドを救い出した。そこから始まったんだよ」 フィル、テッドは君に出会う為に幾星霜の日を過ごして来たんだ。 「・・・解ってる・・・」 「ところで、この話はおかしいだろ?テッドは君に会う為に生きてきた。でも、君は未来からやって来た」 うん。そうなんだ。おかしいんだ。 「辻褄が合わないよね」 「時を超える階段は何処にでも存在する。ビッキーはどうやら時の中の迷子みたいだね。で、考えたんだけど、紋章には過去も未来も関係無いんじゃないかな?と。僕らの不老は?」 「もしかして、紋章には時間が無い?」 それなら時を巻き戻す事も未来に飛ぶ事も可能だろう。 「うん。ただ、僕らや振星剣の剣自体はこの世の身体だ。この世の物は時の流れに逆らえない」 「だから俺はテッドとの邂逅で弾かれて元に戻って来た」 「色々ややこしくなるけど、真の紋はこの世の理を覆す事が出来るみたいだ。爆発的な力もこの世の理をねじ切る力だ。ただ・・・」 「ただ?」 「紋章はこの世には27存在する」 「うん。創世神話にはそう書いてある」 「真の紋章が分かたれても真の紋章は増えたりはしない。と、言う事はその反対もありえない」 反対? 「真の紋章が減る事もだよ・・・」 おやすみフィル。もう・・・寝よう。 |
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