幻想水滸伝 | 碧の行方〜2 |
テッド、ラズロから追い出されたよ。 フィルは自室のテッドの肖像画を見ながらぼやく。 「・・・貞操固い人なのか?俺が焦りすぎなのか?それともこの前テッドにあったからなのか?」 どれだよ? 知るか!とテッドなら言いたかったが、紋章から突っ込みは無い。 「はあ、何でかなあ?」 「それはラズロさんが坊ちゃんの事を大切に思っているからでしょ?」 振り返るとグレミオがいた。 「そりゃあ坊ちゃんが実力行使してもラズロさんは怒らないでしょうけど。坊ちゃんは本当に吹っ切れたわけでは無いでしょ?」 「・・・何が言いたい?」 「テッド君を呼んだでしょ?」 あの時自分はラズロでは無く、テッドを呼んだ。 「うん・・・呼んだ」 ああ、何時も俺を助けてくれるのはテッドだったから・・・。 「そっか。俺が不甲斐ないからか」 「そう思うならそうですね。坊ちゃんにはまだまだ時間が足りないと言う事ですよ」 グレミオの言葉は辛い。 「例え不老でも坊ちゃんはまだ、二十年そこそこしか生きてないんですよ。到底、ラズロさんにもテッド君にも及びません。ラズロさんも坊ちゃんと同じ年の時は、同じように感じたと思いますよ」 「あの人が?」 「ええ」 そうかなあ? 無人島で巨大カニ相手に晩ご飯狩りしてた人だけど?とは、グレミオの手前言わなかった。 ラズロの傷はテッドしか知らない。 小姑は教えてくれるだろうか? 「え?ラズロの若い頃?」 キリルは首を傾げるが、ちょいおいでとフィルを手招きした。クレアスは取り敢えずはラズロの私塾で過ごしている。 早速、ラズロに懐いて後を付いて回っている。 キリルはフィルを外へと連れ出すと、大路に向かった。 「ええと、グレミオが言うには・・・俺が悩んでいるようにラズロも昔悩んでいたはずだと言うんだ。俺のアプローチに答えないのも俺の事を大切に思っているからだと」 キリルは肩を竦める。 「大した都合良い解釈だよね」 でも、当たってる。 「ラズロは多分、君の事が凄く大切だよ。テッドから託された輝ける魂だからね」 「・・・だから、恋人じゃ駄目なのかな?」 さあねえ。 「僕は人じゃないから何とも言えないけど、欲はあるはずだよ。まあ、そっからとっかかりたいなら簡単だよ。夜ばいでもすれば良いから」 どう?やりたいなら、家を空けるよ。 「・・・良いの?」 任せなさい。 「そう言えば、ラズロの友人のスノウの事は知ってる?」 フィルは頷く。 「・・・ラズロの初めての人だよね」 道端で言える言葉では無いので、罵詈雑言を排除した言葉だけを返す。 「まあね。僕も知ってる人だけど、僕が知り合った時は良い意味で変わっていたよ。ラズロを労れる人だった。ちょっとラズロとは距離を置いてたけどね」 きっとテッドの事があってラズロに立ち入らないようにしてたんだろうね。 「何だかテッドに釘さされたみたいだったよ」 さぞ凄んだんだろうなあと、フィルは呟く。テッドは羊の皮を被った狼だ。後にラズロに聞く所によると、 『え、スノウにテッドが何を言ったか?う〜ん、ええとねえ・・・あのねえ・・・』 非常に言い辛そうなラズロに、フィルはしまったなあとは思ったのだが、好奇心が勝った。 『・・・こいつをよがらせられるのは俺だけだって・・・』 一瞬、返す言葉が無かったフィルだ。 『それは・・・男として辛いな』 それにラズロは苦笑する。 『まあねえ。でも、事実でもあったから』 「ラズロの若い頃・・・まあ見た目は今でも若いけどね。わりと早くから達観してたみたいだよ。周りが言うには」 孤児だったし、下働きだったし。 「何よりスノウ君の付き人だったからね」 僕にも世話をしてくれる人はいたんだけど、かなり年上だった。ラズロは年下だったでしょ?スノウ君より。 「親のように慕っていた団長が亡くなった時はどん底だったらしいよ。流刑船で放心したように座り込んでたらしいから」 これも聞いた話だから、僕本人は知らないけど。 「でも、ラズロについて来てくれる人もいたし、無実を信じてくれた人もいた。それからみたいだね」 「自由に行動するようになったのが?」 いや。 「自分を信じてくれた人の為に自分を使おうと思ったらしいよ。テッドが言うには余命限られてるからそれまで走り続けると見えたらしい」 たった一人で全ての人を支え続けるように見えたそうだ。 テッドにはね。 「死ぬ気になれば何でも出来ると思ってたんだろうね。実際、何度も死にかけてるし」 「・・・ちょっと重すぎるんだけど。この話」 フィルはがくりと頭を垂れる。 「まあね。今のラズロは飄々としてるからね。君も150年も経てばラズロみたいになれるんじゃないかなあ?・・・君には重いだろ?まだ」 テッドの事は僕は群島戦争とクールーク内乱の後にしか知らないけど・・・。 「テッドはどちらかと言えば、斜めに構えた人だったけど、ラズロを見る目はすごく優しかったな。でも、よく喧嘩してた。すごくくだらない事で」 ねえ、フィル。 「ラズロはね、もう自分の為には沢山の時間を使ったと思ってるんだと思うんだ。だから、君の為に自分の時間を使うつもりなんだよ」 「テッドの為に?」 「それもあるけど・・・いや、これは本人に聞いて見た方が良いね。僕からは何も言えないよ」 そろそろ帰ろうか?アス達の授業も終わったと思うから。 「ねえ、アスとマクドール家に泊まりに来ないかと言われてるんだ。行っても良い?」 ラズロの声はどうぞだ。 「アスも大分落ち着いてきたし、あちこちに行くのは良い刺激になるからね」 「師匠も行かない?」 アスの言葉に、ラズロは首を振る。 「今日は大人の人が夜に来るから。夜は空いてないんだよ」 二人で行って来てよ。皆さんに宜しく。 アスは寂しそうだったが、しょうがないやと頷いた。 「こんばんわ」 コンコンと教室のドアを叩く音がする。ラズロが振り返るとフィルが立っている。 「夜食を持って来たんだ。もう、みんなは帰ったみたいだな」 教室は綺麗に纏められて、黒板の文字も消えている。 「ワインも持ってきた」 「それは嬉しいな」 と、ラズロが笑う。 「じゃあ、戸締まりをして上で一杯、飲もう。先に行ってる」 「キリル、僕をひっかけたんだ」 ワインを傾けながらのラズロの言葉に、 「そうだよ。俺が頼んだんだ」 「ふうん。あ、そう言えば、キリルにはあんまりじらすと往来で襲われかねないとか言われたっけ」 それが今日? 「だったら嬉しいんだけど、ラズロと二人だけで話がしたかったのが第一」 僕と? 「ねえ、ラズロが俺の事を大切にしてくれるのは何故?テッドの為?」 ラズロは暫し考えた後に、フィルの右手に手を伸ばす。 「確かに。それもある。シーナに君の事を同情で好きなのかと言われた」 あのガキとフィルは内心で罵った。 「で、僕は同情じゃあ駄目かと答えた。紋章への憐憫じゃ駄目なのかと答えたんだ」 怒った?フィル。 「いや、憐憫でもラズロに言われると腹は立たない。だってラズロは・・・天魁星だから」 「僕はね、もう何もかもテッドからもらったんだ。そしてテッドに安らぎをくれた君にそれを返したいんだ。君が安らげるように。こんな言い方はずるいし気持ちの良いものでも無いだろうけど。僕は・・・君の側にいたいんだ」 愛とか恋とかそんな言葉では言えないんだけど。 「フィルの側にいたい」 駄目かな? 「・・・あの時、俺はテッドを呼んだよ。ラズロでは無くテッドを」 フィルは視線を外し、右手を撫でた。 「それが俺の答えだったんだよな」 「そうだね。彼は何時も・・・ここにいる。僕に同情と憐憫を示してくれたのはテッドだけだったよ。もちろん、みんなは僕に優しくしてくれた。でも・・・」 素をさらけ出せたのは彼だけだ。 「誰かに頼れるのは嬉しい。僕だってそんなに強くは無い。ぎりぎりの所で踏ん張ってきたんだ。刹那的な毎日の中、飾らないと言うのは嬉しい事だった」 |
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