幻想水滸伝 碧の行方〜20
 結局、リオウはナナミを残し、一人で都市同盟に帰って行った。
 曰く、
「もう少し、観光してから帰れば良いよ」と。
 フィルはリオウの真意を確かめる事はしなかった。ラズロがナナミに手伝いに来て欲しいと懇願したので、ナナミは現在、ラズロの私塾にいる。
 可愛いお姉さんが来たので、アスも大喜びだ。
 一見、のどかに見えるが、ラズロの日常は忙しい。最近、朝と言い昼と言い夜まで訊ねて来る人にへきへきしたラズロは、近くに事務所を構えた。
 働いているのはラズロのチープー商店での部下だ。
 予約無しでは誰にも会わないと全て突っぱねる事にしたのだ。
 それについては、フィルが多いに不満たらたらで咎めたせいだ。
「何で他人の為に俺とラズロとの時間を削らないとならないんだ!」
 癇癪爆発だ。
「そうだよねえ。僕も隠遁生活な爺だったのにね。お若い方にがんばってもらわないとね」
 喰えない笑顔を浮かべると、さっさと予約リストから除外するものを選び、
「こちらには丁寧な詫び状を送って下さい」
と、部下に言い付ける。
 ラズロの部下であるリノは優秀だ。それ以来、ラズロの元には妙な客人はいなくなった。
 さて、そんな忙しい日常なラズロだが、湖の城にフィルを誘った。
「キリルも来てくれる?」
 どうやら、ナナミに留守番を頼んだらしい。
「アスはどうするんだ?」
 フィルの言葉に、ラズロは頷くとアスの手を握り、軽く引っ張った。
「英雄の城を見ておくのも良いよね」
 途端、アスは嬉しそうに手を叩くと、キリルの手を引き早く早くと急かしだした。
「じゃあ、ナナミちゃん、5日間ほど留守番お願いね」
 ラズロの知恵か否かは謎だが、みんながいない間、何故か代わる代わる独身男性がナナミを訪ねて来た。
 遊びに来たグレミオは、そんなナナミに「もてもてですね」と笑った。
「ナナミさんの好みは誰ですか?」
 手作りの茶菓子の差し入れの前で、穏やかな顔をしてずばりと聞いて来る。この辺りもラズロの差し金かもしれない。
「ええ〜。う〜ん。どうかなあ?グレミオさんは誰か好きな人いるの?」
「私ですか?まあ、腐れ縁な人が一人いますけど。押しかけですからねえ。好きかと言われると何と言うか・・・ですね」
 どうもねえ。甘やかし過ぎてるかもと思うんですよね。
「グレミオさんはそう言うの好きなんだ」
「いやいや。私も面倒臭いのは嫌いですよ。ただね・・・」
「ただ?」
「いえ、何でも無いですよ」
 グレミオはにこやかに笑う。
 好きでいてくれるなら一番で無くても良いって言うのは、何か凄い言葉ですよね。

 その頃のパーン。
「へぐしょい!」
「風邪か?しかし、馬鹿は風邪を引かないと言うしな」
 クレオの容赦ない一言に、
「いや、何か・・・非常に虚しい事を言われたような・・・」
「それはグレミオだな。お前、又、何かやらかしたんだろう?」
 ぐっと答えに詰まるパーンだ。
「やらかしたんだな」
 にやにやと笑うクレオは「弟をいたわるのは当然」と、うそぶいている。
「何もしてねえ・・・と、思う」
 その姿を見て、クレオは投げナイフを抜く。
「ちょっと私の的になりな。頭冷やしてやるよ」
「ちょ、待って、クレオ〜」

「ラズロはカレリアに行った事あるんだよね」
 旅の宿で、フィルはラズロに聞く。
「え?ああ、カレリアか。うん、そうだね。キリルと行ったよ」
「カレリアってどんな所?」
 アスは興味深々だ。
「カレリアは城塞都市だよ。ハルモニアの辺境警備基地だ」
 まあ、ただ、それだけでも無いんだけどね。
「それだけじゃない?」
 フィルの言葉にラズロは頷く。
「あそこはハルモニアだけど、ハルモニアじゃ無いんだよ。甘くみると手痛いしっぺ返しをくらうね。ハルモニアは」
 色んな人種が混じって、混在して混沌として、存在している。
「グラスランドや都市同盟に警戒を敷く前線だけど、胡散臭いが正解な街だよ」
 ラズロがにやりと笑う。
「損得で動くのはやりやすいんだよ」
 ああ、成る程とフィルは頷くが、アスには良く解らない事だ。
 それに気がついたラズロは、アスにカレリアの街を説明してくれるようにキリルに頼むと、フィルを手招きで呼んだ。
「まあ、座って飲みながら話そうか」
 珍しいと思いつつもフィルはその提案に乗った。

「カレリアの街は赤茶けた山肌にそびえ立つ要塞都市だよ。この要塞が実は迷路でね。簡単に街に入るには山脈の山の中を通るんだ。直にハルモニアの辺境警備基地の近くに出る。でも、まあ、あまりお勧め出来ないけどね」
「何で?」
「モンスターがいるから」
 ラズロはくすくすと笑う。
「ツインスネークだよ」
 キリルが横から口を出し補足してくれる。
「山ほどもある二つ首の亀」
「そう。グラスランドとの間道にはこのモンスターの塒があってね、よく襲われている」
 ってそんな危ない道、誰も使わないだろ?
「どっこい、そう言うわけでも無いんだ。カレリアの傭兵部隊はこの道を通って、他の国に出入りしている」
「そこを通れない者に用は無いって事だよな」
「商人は傭兵隊の護衛を雇ってるからね。まあ、安全だね」
「ハルモニアの辺境警備隊は少数精鋭な傭兵なんだよ。金次第で動いてくれる。商人の護衛もその一つだよ。情報集めして売りさばく輩もいるしね」
 辺境と言えど中央には無い情報も転がってる。
「へえ、それでラズロは何でカレリアに行ったの?」
「まあ、フィルに隠してもしょうがないから・・・。フィルは炎の運び手って知ってる?」
「・・・まあ、ちょっとだけ。ハルモニアに反抗してた盗賊集団と聞いてる」
「その盗賊団がハルモニアからグラスランドへの不可侵条約50年を取り付けたって知ってた?」
 え?
「うん、以外と知られてないんだよね。でも、事実だ。ハルモニアはそれを飲んだんだよ」
 だから、火種は起こっても燃え上がる事は無いんだ。今はね。
「ヒクサクの政策は否かは僕には解らないけどね。カレリアに行ったのはその辺の事を調べようと思ったから」
「で、調べて来たの?」
 もちろん。
「得意のやつでね」
「って、ピッキング!辺境警備基地の中に?!」
 無謀な人だ。と、フィルは呆れる。
「いや、それもしたけど、主には鼻薬でだよ。半日だけ書庫の鍵を開けてもらった。まあ、書庫にあるのは通常記録と管理用書類だけで重要なのは、鍵のついた部屋にあるけど。まあ、そんなものはね」
 それに群島からの商人と言うのは珍しいから。
「黒蝶貝2枚で手を打ってくれたよ。あれ、カレリアではすごい高いからね」
 グラスランドにはそう言う記録を残すと言う習慣は薄いからてっとり早く、カレリアに行ったんだ。
「ハルモニアが不可侵条約を飲む条件は何だったんだ?」
 そのフィルの言葉にラズロは察しが良いと頷く。
「流石に鋭いね。まあ、紋章絡みだったって事だけだね。グラスランドの何処かに真の紋章があるんだよ。火の七日間と言う伝説がある。グラスランドを貫いた火柱の事だ。これは、実は伝説じゃなくて現実に起こった事だ」
 フィルは顔色を変える。
「そ、それって紋章の暴走じゃあ・・・」
「そうだね。紋章の暴走だよ。その時、グラスランドのみならず、ハルモニアも大変な痛手を被った。それが不可侵条約のきっかけだよ」
 文献を読んで確かめたからまあ、おおむね正確な話だよ。
「昔・・・と言ってもそれほど昔じゃ無いんだけど、ファレナにグラスランドの火を見たと言う人がいてね。多分、火の紋章だと思うな」
「火の紋章?」
「うん。ところで、風の紋章って知ってる?」
 フィルは首を傾げる。
「真の風の紋章・・・」
「うん。解る?」
「・・・何となく・・・俺もソウルイーターを持ってるから・・・」
 その返事にラズロは頷いた。
「みなまで言わなくても良いよ。カレリアに行きたかったら、竜騎士団に頼んで見たら良いよ。もちろん、僕も一緒に行くし」
 でも、まずは湖の城だね。
「行くんでしょ?レナンカンプへ」
 フィルはゆっくりと頷いた。
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