幻想水滸伝 | 碧の行方〜15 |
「まあ、フィルさま。お久しぶりです」 知らせを受けたミリアが走り寄って来る。 「フィルさま、あ、リオウさま」 後ろから走って来るのはフッチだ。 「やあ、久しぶり。賑やかな顔ぶれで遊びに来たよ」 と、後ろを指さした。 「あの、あの方は何方です?」 ただ一人の見慣れない顔を見て、フッチは口にする。 「ま、まさか。ラズロさま?!」 そう叫んだのはミリアだ。 「はい、そうですけど。何故僕の名を?」 ラズロも驚いて、ミリアを眺める。 「ヨシュアさまからお聞きしてます。あの方が私に紋章を託す前に、テッドさんの友人と言う方が何時かここに来るはずだと」 「ミリア、彼は南海の蒼い瞳の持ち主だ。会えば直ぐに解る。とても綺麗な瞳だ。ああ、彼とテッドと空を飛んだ頃が懐かしいな」 「ヨシュアさま・・・」 「ミリア、これを頼むよ」 竜騎士団にも新しい風が必要だ。 「さあ、新しい風を吹かせておくれ」 「そうですか。ヨシュア殿から聞かれたんですか」 ラズロは懐かしそうに笑うと空を仰いだ。 「ヨシュア殿の所に連れて行ってくれる?」 「はい」 ミリアが連れて行ってくれたのは城の外れの墓地だ。石碑にヨシュアの名が刻まれている。そこは歴代の竜騎士団団長の墓なのだろう。 ヨシュアは一番新しい傷で名を刻まれていた。 「真の紋章の持ち主には骸は残らない」 墓を前にしてラズロは跪いた。 「でも、ここで話をさせて下さいね。ヨシュア」 ラズロは指を組むと長い間、沈黙し動かない。 その場には一緒に来た全員がいたのだが、ラズロの祈りがあまりに長いので一旦、外す事になった。 「何を話してるんだろうな」 ビクトールの言葉に、フリックも頷く。 「あの人なりに長い話があるんだろうよ。俺達の誰より年上なんだから」 ヨシュア、僕が来ましたよ。フィルに会いました。テッドは幸せでした。貴方はどうでした?この地より出た事がない貴方の一生を思うと寂しいのですが、追われる事の無かった貴男と僕らとどちらが幸せだったのでしょうね。いや、こんな事を言いに来たのではありませんでした。 貴方が紋章を手放したのは、テッドが亡くなったからですか? 『何時かテッドが本当に終着点を見つけたら・・・私もこの地から離れるかも・・・。長く生きるのは喜びも多い分、悲しみも多い』 僕にそっと聞かせてくれましたよね。その言葉。 貴方は解ってたんですよね。 テッドとフィルの事を。 だから、あの戦争が始まるのが解った。動乱の時代に入るのが。 僕は貴方の嘆きを聞き、許した。 それがきっかけでしょ? 「ねえ、ヨシュア。お疲れ様」 顔を上げたラズロは立ち上がると一息肺を満たす。かぐわしい草の香りが胸に入ってくる。 「気を利かせてくれたのか」 辺りを見回すと誰もいない。 「この前テッドと会った時も出なかったのにな」 熱いと思う。目が痛い。 あの頃、僕らはこの空を飛んだ。それは星に手が届き、地を支配出来る程広く見渡せた。 『ヨシュア・・・貴方が竜に乗せてくれた』 羽根を持たない自分が鳥のようにあの空を。 『ねえ、ヨシュア。フィルが僕の恋人になりたいんだって』 僕は彼にあげたいんだ。今まで手を伸ばす事が出来なかったものを。 「さあ、もう、行くよ。又・・・そのうちにね」 「ラズロ、もう終わったの?」 フィルが駈け寄って来て、ラズロを抱きしめる。 「あ、ごめんね。心配かけちゃって」 「良いよ。積もる話があったんでしょ?」 「うん」 ぐすんとラズロが鼻を啜ったのに、フィルは慌てる。 「悲しいわけじゃないんだけど、ここでヨシュアと空を飛んだ事を思い出して」 ヨシュア自ら僕らを乗せてくれたんだ。 「団長自ら?」 ミリアの驚きはもっともだ。彼女が知る限り、ヨシュアは自ら竜を操って人を乗せた事など無い。 「うん、あの感動は今思い出しても素晴らしい」 うっとりとラズロは目を閉じる。その目に又じんわりと泪が浮かんで来る。 「ラズロ」 「うん。大丈夫だよ」 その夜、一行は竜騎士団の城に泊めてもらった。 「ナナミがびっくりしてたよ。ラズロが泣いてるから」 はは、悪い事したね。心配かけちゃった。 「・・・長い祈りだったね」 隣のベッドにいるラズロにフィルは静かに語りかける。 「うん。フィルには話しておくよ」 何? 「ヨシュアが亡くなったのは僕のせいだよ」 フィルは疑問な顔を投げる。ヨシュアは紋章を譲ったから亡くなったんだろう? 何故、ラズロのせいなの? 「・・・昔・・・ヨシュアが言ったんだ。僕だけに。テッドが終着点に付いたら、自分も紋章を譲るとね。僕はその祈りを聞いた」 「・・・許し・・・のつもりだったのか」 「と思う。誰かに許してもらいたかったんだと思うよ。僕が罰の紋章を持ってると言う事があったと思うけど」 ヨシュアはテッドが亡くなるとき、動乱の時代になると思っていた。団長である彼は同胞を戦場に送り出さなければならない。 「竜に魔法をかけられた事は思わない誤算だっただろうね。その責もあったのだと思う。だから、何時か僕が来るとミリアに教えたんだろう」 懺悔を僕が拾いに来るとね。 「成る程」 「まあ、僕は懺悔を拾いに来たんじゃないけどね」 「じゃあ、何を?」 「そりゃあ、フィルの事を告げにだよ。新しい恋人が出来ましたってね」 ええと、ラズロさあん。 「そっちで寝ても良い?」 寝るだけだから。 「どうぞ」 |
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