幻想水滸伝 | 碧の行方〜14 |
ビクトールとフリックは懐かしそうにラズロの顔を見る。 「何でフィルの恋人なんてしてるんだ?」 ビクトールの言葉に、 「悪い?」と、ラズロは首を傾げる。 「いや、悪いわけじゃないけど。理由がなあ?」 考えられないだけ。 「そうでもないよ。わりと因縁深いんだ」 「何が?」 ここっとラズロは右手の甲を指さす。 「ソウルイーターとは因縁深いんだ」 と、言われてもなあ。 「次の街で教えてあげるよ。補給しないとならないから、ちょっと滞在するからね。フィルにも話しておかないとならないし」 フィルにラズロは、次の街で補給する事とビクトールとフリックが話をしたいと手短に告げる。 「ソウルイーターについて聞きたいんだそうだ。僕との因縁を」 「一緒に聞いてても良いか?」 「もちろん。フィルには聞く権利があるしね」 リオウとナナミに買い出しを任せ、4人は宿に先に入った。 「ごめんね。ビクトールとフリックが僕について聞きたいんだって。買い出しのお金はこれだから。二人でゆっくりと好きな物食べて帰ってきて」 ラズロは財布を渡すと、二人が心配しないように正直に答える。 「フィルさんも残るんですよね」 ナナミの顔が心配そうだ。 「別に喧嘩するわけじゃないんだよ。ただね。僕にも知られて欲しくない事があるから。色んな秘密があるの」 そう言うとラズロは茶目っ気よろしくウインクを投げる。 「うん、あるよね。女の子だけの秘密だって私にもあったもの」 じゃあ、美味しい物食べてゆっくり戻ってくるね〜。 行こう、リオウ〜。 リオウはまだ残りたそうな顔だったが、ナナミに引きずられるようにして街中に消えていった。 「で、何処から話せば良いのかなあ?」 そう言えばと、フィルはリオウがおいて行った、「薔薇の騎士完全版」をくいっと親指で指す。 「ビクトール、あれ、知ってるだろ?」 「あ?ああ。あ、これ、完全版じゃないか。稀少なんだぜ」 本をとってビクトールはぱらぱらとページを捲る。 「それはラズロがリオウに上げたものだ」 「リオウの持ち物か。後で読ませてもらおう」 ほくほく顔のビクトールだが、次の言葉でフリックも度肝を抜かれた。 「それの監修はテッドとラズロだ」 はあ? 「え?フィル、今なんて?」 「だから、監修がテッドとラズロだよ。聞こえただろ?」 にわかには信じがたいらしく、ビクトールとフリックは顔を見合わせる。 「・・・本当か?」 「うん、本当だよ。それが最終版。それ以上の手直しは僕はしてないし、テッドもしてないはずだ」 「・・・これ、160年以上前の話だろ?」 「そうだよ」 僕は群島戦争の天魁星だったからね。 「で、テッドが天間星だった」 もしもし?聞きたいって言ったのお二人でしょ? 何固まってるの? フィルは容赦なく、棍の端で二人の頭を叩く。 「え、ええ。ラズロはじゃあ、テッドはじゃあ・・・」 混乱しているらしい。 「まあね。で、テッドは僕の恋人だったし」 恋人ですと? 「その本に霧の船に乗っていた青年の話があるよ。それがテッド。彼は一時期紋章を外して、その船の中にいた。霧の船はこの世ならぬ世界からやって来た導者が作ったものだった」 その船に呼ばれたのが僕とテッドの邂逅。 「本当に?」 「嘘をついてどうするの?どうして僕がヨシュアを知っていたと?」 「だって、お前、そんな事、微塵も言わなかったじゃないか?俺達に。傭兵砦にいた時」 そりゃあ、そうだよ。 「でも、ヒント出したでしょ?戦争に参加出来ないって」 天魁星は星の巡りがあるからね。 「あ、喉乾いたね。お茶もらってくるね」 ぱたんとドアが閉まると、フリックがずるずると椅子の上に崩れた。 「まさかなあ」 「本当にな。しかし、フィル、テッドの恋人だったって言うんなら、お前の望みは薄いんじゃないか?」 ビクトールの言葉におあいにくさまと、フィルは口を突き出す。 「一目惚れだからね。それに、ラズロはかまわないと言ってくれてるよ。まあ、まだ、本当の恋人じゃないけどね」 「へえ、奥手なんだな」 「青春楽しみたいだけだよ。ラズロは何時でもOKだって。そう言えば、ラズロの本名も知らなかったでしょ?」 あ?ああ。 「ラズロ=フレイル=エン=クルデスだよ。ちなみに、群島諸国連合の名誉議長でもあるし、名前聞けば解ると思うけど、オベルの王族だよ」 まじかよ〜と、ビクトールは頭を抱える。 「まあ、ラズロは僕の為に色んなものを捨ててくれたんだ。それを知ったら惚れないと言うのは男じゃないと思う」 色んなもの? 「ラズロはね、トランの戦争を全部知ってるんだ。あの時、魔術師の塔にいたんだって。でも、自分の力が巨大過ぎる為に自制を強いて自分を塔に幽閉したそうだよ」 そう言えば、あの紋章は何だったけ? 「罰と言うんだ。償いと許しを司る紋章だよ。ラズロが全部の力を解放したらグレッグミンスターは吹き飛んでたそうだよ」 「本当かよ?」 「じゃあ、何故その紋章も狙われ無かったんだ?それも真の紋章なんだろう?」 フリックの呟きはもっともだ。 「罰はね、使う度に命を削る紋章だからだよ。自分の命をね」 そう言えば、リオウとナナミは今頃どうしてるだろう?と、フィルは思いを馳せた。 「じゃあ、ラズロは?」 「罰の紋章はあまりにも効率が悪すぎるので、次々と宿主を変えてさまよっていたそうだよ。160年前までは。でも、本当の主であるラズロの元に帰って来て、命を削らなくなったそうだ」 でも、ラズロは一度亡くなったらしいよ。 「亡くなった?」 「紋章が手放したくなかったから、紋章が彼を新たに作ったらしいよ。108星の祈りと言えば良いかな?」 解り安く言えば、生き返っただね。 「で、今、正統な持ち主のラズロが持っている限り、命は削らない」 ビクトールもフリックも沈黙する。 聞かせろと言ったが、これは予想外だった。しかも、あのラズロがそんな人物だったなど。 「ビクトール・・・」 「何だ?」 「惚れるなよ」 何を言われるかと身構えたビクトールはがっくりと頭を垂れる。 「入るよ」 軽い音と供にラズロが顔を出し、ビクトールとフリックを見て苦笑する。 「フィルに何か聞いたらしいね。顔が恐いよ」 まあ、僕の正体は色々謎があるけど、群島戦争の天魁星が正解だよ。 「僕の星がテッドで、テッドとはあれからずっと旅をしたよ。色んな場所を」 ファレナにガイエンにハルモニア。 「ラプソディアって本を知らない?昔の赤月の士官だった人が出した本で、最近じゃあ、おとぎ話だと言われてるけど。その本が薔薇の騎士の後のお話だよ。でも、キリルの話は本人から聞いた方が良いから、その気があるなら後でグレッグミンスターに来れば会えるよ」 キリル?って誰だ? 「俺の小姑」 「僕の兄のようなもの。ほんの1ヶ月だけどね」 今は留守番してくれてる。グレッグミンスターでね。 「しかし、テッドの恋人ねえ」 マジか? 「本当だよ」 テッドはねえ、群島戦争の頃も魔力は勿論、弓も上手くてねえ、博識だし、いやあ、本当に格好良かった。 「でも、背はラズロの方が高かったよね」 「身長で男を計るなんて僕はしないよ。男はね。ここだからね。ここの器で決まるんだよ」 ラズロは胸を指さす。 「ううむ、ここにいるのは身長な男達だからな」 何が言いたい?と、フリックはげっそりだ。 今更、若かりし頃の狭量を攻められるとは。 「後、ほら、あれだね。男の価値は」 アレ?ってとフィルはどきりとラズロを見る。 『やっぱりテッドはアレが上手かったのか?そうなのか?テッド!』 うう、ラズロもあれが上手い方が良いのか? 「やっぱり男は度胸だよね。ね、フィル」 にこりん。フィルは爽やかに笑う。 「だね。度胸だよね」 |
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