幻想水滸伝 | 碧の行方〜13 |
シュウとの商談の後、ラズロとフィルは以前の予定通り、竜洞を目指した。 リオウとナナミを連れて。 「少し歩いてらっしゃい」 と、言うのがシュウの意見だ。 リオウは道々、クレアスの話を聞いた。 「ふうん、じゃあ、その子が皇王になる事もって事?」 フィルは苦い顔で吐き捨てる。 「そんな事、俺がさせない。もしあの子を利用なんてする輩がいたら、誰だろうと叩ききってやる」 本気だよ。 「まあまあ、その時は僕とキリルが連れて群島までとんずらこくから。そんなに心配しなくても良いよ」 フィルの言葉に固まっていたリオウやナナミに向かって、ラズロは軽い口調で話す。 「流石に群島までは誰も追って来ないよ。ファレナまで逃げても良いしね」 ファレナも綺麗な良い所だよ。 「二人とも暇が出来たら群島やファレナに行ってみたら良いよ。お国自慢だけど、魚が美味しいし、海が紺碧で綺麗だよ」 「貴方の瞳のようにですか?」 リオウの言葉にラズロは、 「それは自分で確かめたら良いよ」 さあ、今日の宿の町が見えたよ。 竜洞への道は比較的安全だった。 何故ならと、フィルは隣を見てため息を吐く。 「何でこうなるんだろうなあ?」 フィルの隣には、見慣れた二人組がいる。ただ、その二人組はリオウとナナミでは無い。 「おう、フィル、何ため息付いてるんだよ」 「それにしても、ラズロと一緒にいるとは驚いたな」 「・・・取るなよ」 ラズロは俺の恋人だ。 フィルの隣にいるのはビクトールとフリックだ。 「しかし、驚いたなあ。ラズロが真の紋章の持ち主だなんて。あの頃は微塵も知らなかったな」 「そりゃあ、知られないようにしてたからね」 言いふらす事でも無しね。 「そりゃあそうだ」 がははとビクトールは楽しそうにフリックの肩を叩いた。 所で何故この二人が一緒にいるのかと言えば、ちょっとしたハプニングの為だ。 竜洞までの道のりは長い。フィルとラズロだけなら強行で歩いただろうが、ナナミがいると言う事で、フィルは馬車を買った。 「ええ、そんな大丈夫だよ」 と、言うナナミに、ラズロは 「のんびりした旅も良いでしょ?僕らの旅はせっかちだったからね。たまにはフィルものんびりしたいんでしょ?」 それを聞いたリオウは、御者の役を引き受けてくれた。 「フィルさんがお金だしてくれたんですから、僕がします。これでも結構、上手いんですよ」 リオウはささっと乗り込むと「どうぞ」とフィルを招いた。 「まあ、良いじゃない。疲れたら交代すればね」 ラズロはそう言うと、早速乗り込んでナナミに手を貸す。 「流石、ラズロ。そつないね」 フィルがよっと一息で乗り込んだのを見て、リオウは馬車を出した。 フンパツして買った馬車の乗り心地はかなり良かった。馬も二頭立てだ。 外見上はちょっとした行商のごとき馬車に見える。 「あの馬車にはあんたらしか乗ってないのかね?」 街道の町の宿でそう声をかけられた。 「ええ、4人旅です」 「そりゃあ困ったな」 は? 「いや、この先にな、最近盗賊が出るらしくてな。商団はみんな傭兵を雇って行くんだよ」 宿屋の主は心配そうな顔を向ける。 「ご心配なく。俺達はこの女の子も戦士ですから」 少々の事、びくともありませんよ。 「いや、なら良いんだけど」 あんたら育ちが良さそうだから。 それにラズロは笑う。 「育ちが良いとか言われたのは始めてですよ。僕は孤児ですし、この二人もね。フィルは良い所の坊ちゃんだからそう見えるでしょうけど」 おいおい。 「じゃあ、あんたは付き人なのかね?その人の」 「まあ、そのような者です。で、ご主人、その賊の話を詳しく聞かせて下さい」 彼がにこりと笑えば、落ちない者はいないだろう。宿屋の主人は気持ちよくしゃべり始めた。 「賊が出る?」 ううむ。誰かに知らせを送るべきか?確かめてからが良いか? フィルの言葉にラズロは「もう送ったそうだ」と、答えを返す。 「まあ、出始めたと言うのもここ一月の間らしいしな。もう、誰か来て内偵をしてるかもしれないし」 そう言う面では割と優秀なのがトランだ。 以前はゲリラ戦には不慣れなトランだったが、フィル率いるテロリスト集団に所属した将軍達は、軍事を見直したらしい。 即ち、少数精鋭俊敏行動と。 「まあ、俺はテロリスト集団の親玉だったからね」 と、言うのがフィルの口癖だ。 「まあ、賊の方は心配ないけど、用心はした方が良いよね」 と建設的な意見が纏まった翌日の事だった。件の賊に出会ったのは。 しかし、フィル達が襲われたわけではなく、フィル達の前を進んでいただろう商隊だ。街道の端、遠目にその様子を見たフィルは、 「どうする?」と、問いかける。 「じゃあ、馬車はナナミに任せて、行きますか。フィルさん」 OK。 「ラズロは?」 「ううん、後方支援にまわるよ」 商隊の人の。 「じゃあ、そう言う事で」 ラズロが後方支援で救出を始めた頃、街道隅に土埃が上がる。 「新手か?」 と、フィルが身構えた時、 「トラン辺境警備隊だ!大人しくしろ!」 と、聞き慣れた声が響いた。 「ビクトール!遅いぞ!」 フィルの大声が辺りに響き渡る。 「もう、粗方片づいたぞ」 そんなこんなで感動の再会である。 「うん?ああ、盗賊が出るって事でな。レパントのおっさんに雇われた」 しかし、よりにもよってこの面子かね? 「凶悪極まりないな」 ビクトールのため息に、フィルは「じゃあ報酬よこせ」と、むくれる。 「あの商隊は傭兵を雇って無かったのかね?」 「いや、そいつらが元凶さ」 後の始末は将軍殿が面倒を見てくれるさ。 「あいつら引き渡したら俺等の仕事は終わりなんだ。お前等は何処に行くんだ?」 「竜洞へ。ヨシュアに会いにね」 ラズロの言葉にビクトールやフリックは首を傾げる。 「知り合いか?」 「昔ね。竜に乗せてくれたんだ」 「へえ、なるほどねえ」 ビクトールもフリックもラズロがテッドの知り合いだと言う事を知らない。実年齢も知りはしない。 「良し、俺も付いてく。竜洞まで」 明日になれば将軍が来るしな。 「・・・何で?」 フィルは嫌そうな顔になる。 「面白そうだから」 「まあ、良いじゃないフィル。僕も話があるしね」 ラズロが良いなら良いけど・・・。 そんなわけで同行者が二人増えたのだ。 「じゃあん、ナナミの料理です〜一杯食べてね」 フリックさんやビクトールさんとの再会を祝って、腕を奮いました。 あ、お肉料理はラズロさんが作ったの。 「味見させてもらったんだけど、凄く美味しいんだ」 目の前に置かれた鍋を見つつ、フィルはそっとリオウの耳に問いかける。 宿の厨房を貸してもらったご馳走だ。 「ナナミの腕は上がったのか?」と。 それにリオウは無表情で首を振る。 「そうか・・・」 躊躇している面々の中、真っ先にお玉に掬って口を付けたのはラズロだ。 「・・・」 確かラズロはナナミの料理の腕が破壊的な事を知らなかったはずだ。しばし、考え込んだ後、 「僕にはちょっと合わないから調味料を足しても良い?」 ラズロに言われたナナミは頷く。 「ラズロさん、群島の出身だもんね」 そっかあ、ごめんなさい。 「うん。ちょっと味付け変えるね」 ラズロは荷物の袋を漁ると一つの小袋を出し、ぱらぱらと鍋に振りかけた。 「これでちょっと煮て、後、もう一つ」 サイコロのようなものも鍋に落とす。 たちまち、かぐわしい臭いが漂う。 「わあ、良い匂いですね」 「南国の香辛料だよ。フィル、ちょっと味見をして」 自信満々に言われて、フィルも半信半疑だがお玉を口にする。 「美味しい」 そう、それは良かったと皿を回す。 「ねえ、ラズロさん、それ私も使いたいな」 「ごめんね。これは貴重品なんでほんの少ししか無いんだ。本当にちょっとしか取れない香辛料でね」 そっか。ならしょうがないよね。 ナナミはがっかりしたが、珍しい南国の料理を食べる事が嬉しいらしい。 「ねえ、あれ、何なの?」 後で、フィルとリオウがそっとラズロに聞いてくる。 「あんなものだけでナナミの料理が美味しくなるなんて、便利だよね」 フィルの意見はもっともだ。リオウも頷く。 「あ、でも、あれ、そんなに何時もは使えないんだよ。癖になるんだ」 麻薬作用のようなものがあってね。本来は薬に使ってるんだけど。料理にも使えるから。 「へえ、何なんです?」 「聞いてさっきの料理を吐かないでよ」 「そんなにゲテモノから作る薬なんですか?」 ナナミ料理以上の破壊力なんだろうか? 「あれは、カズラーの根だよ。で、香り付けにいれたのはカズラーの花の乾燥したのと香料を混ぜたもの。ナナミに言ったのは嘘じゃないよ。あれは高級品なんだ」 あ!と、フィルが手を口に当てる。 「聞いた事ある。カズラーの根と花。何でも1万ポッチはするんだって。小瓶一個で」 「いちまん〜!それは超高級品だ」 「まあ、滅多に出回らないからね」 |
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