幻想水滸伝 碧の行方〜12
 シュウの家は商用を兼ねているので、宿泊用の部屋もある。一行はその部屋を利用させてもらっていた。
 離れにあるその棟には一行が滞在できるだけの部屋があった。
「と言っても少し手狭じゃない?」
 ラズロの言葉に、フィルは思案する。
「そうだね。ご夫人方を床に寝かすわけにはいかないし」
 近くに宿を取る?
 ラズロの提案にフィルは賛成を出した。二人でも減れば一部屋は空くと。
「シュウ、僕らは店の外に宿を取るから」
 前置きしてフィルが宿の予約に出ようとすると、リオウが慌てて引き留める。
「ええ、そんな。フィルさんとラズロさんだけ外に取るんですか?」
 それは気の毒だと思っての言葉だが、フィルはさら〜と、言い流す。
「野暮な事は言わないでよ。リオウ」
 ばこっとラズロがどこに隠していたのか解らないが、件の分厚い本でフィルを殴る。
「!愛が痛い」
「馬鹿な事言ってないで。あ、リオウ君、この本上げますよ。楽しいですから読んで見て下さい」
 暇つぶしには最適ですから。
「そう言うわけで、シュウさん、僕らは外に宿を取らせてもらいます。打ち合わせは誰か使いの人を寄越して下さい」
「すまないな。じゃあ、そのように」
 シュウも部屋数が足りないとは思っていた所だったので、フィルの申し出はありがたかった。

 そんなわけでラダトの宿。
「う〜ん、気持ち良い〜」
 で、商談の方は?
「まあ、最初はシュウさんの財源を転がすだけだから」
 何の許可もいらないよ。
「ただ、トラン共和国の国営事業と言う事があるから筋を通しておかないとね」
 ラズロは賢いよね。
「何が?」
「私塾の教師より、チープー商会の代理人の方がよっぽどトランにいる理由になるからね」
 ラズロはぱちぱちと目をしばたたかせる。
「ふむ、フィルも言うようになったねえ。まあ、私的には私塾の先生の方が嬉しいんだけど。これはまあ、成り行きだよ」
 意図したわけでも無いんだけど?
「そうかな?まあ、都市同盟は表面平和だけど、一癖あるのがここの特徴だからね。テレーズやクラウスがどうこうと言うわけでは無いけど」
「そうだね。平和は難しいよ。大陸は繋がっているから。群島ならこんな体型でも自国の利益を優先出来るからね。海が間にあるから」
 現に群島諸国連合は自国の利益を優先しても良い事になっているし。
「どうして?」
「海は恵みもあるけど、大いなる被害ももたらす。海に囲まれた島国では時には、他からの援助はもらないと考えないとならないからね。自国の利益をある程度蓄えておかないと、いざと言う時に困る」
 まあ、あまりに突出しすぎて喧嘩しても困るから、仲介役に群島諸国連合があるんだけど。
「もし何らかの災害とかで被害があったら助けられるようにと言う事もあるんだけどね」
 基本は自分の国の利益が優先だよ。
「それだけ島々が離れすぎてるんだよ」
「なるほどね。何かあっても駆けつけられるのは遅いと言う事か」
「まあ、そう言う事。自然災害に関してはね」
 以外だった?
「まあ、商人の集まりだからここと一緒だよ。腹の探り合いは少ないけどね。どの島も補給基地と言う事があるから」
 ある程度の情報はいつもオープンに流してるし。
「交易の為にね」
「何か平和そのもののような話に聞こえるけど?」
「でもないよ。何処にでも不満はあるしね」
 そんな話をしていてつらつらとお茶を飲んでいた二人にお客さんが訪れる。
「あれ?クラウスさん」
「すいません。おくつろぎの所」
 いえいえ、どうぞ中へ。
 ラズロはクラウスにお茶をいれる。
「どうしました?」
「・・・どうと言うわけでも無いのですが、少しアドバイスを頂きたいと」
「シュウでは駄目なの?」
「そう言うわけでは無いんですが・・・」
 OK。聞くだけで良ければ。

「ふうん、成る程」
 どこにでも文句を垂れる輩はいるよね。
 フィルはふんと口を尖らせる。
「先の戦いから数年、それなりに潤っている所は潤ってますから。関税の公平性が」
「そうだね。焼き討ちにあった村なんかそれ程関税をかけるわけにはいかないしな」
 あれからまだ3年ですから。
「表面上は平和ですが、何時不満が吹き出してもおかしく無いとは思います」
 難民が多いですから。
「テレーズは難民の受け入れには積極的です。同盟の城を避難所にあててます。ですが、それにも容量に限界がありますから」
 入れない人もいますし、故郷に帰りたい人もいますし。
「戦後の処理は10年単位だ。まだ、序盤だ」
 フィルは腕を組むと壁に凭れた。
「ええ、ですが、リオウが戻ってきてくれた」
「引き締めには丁度良い材料ではあるね」
 ええ。リオウは希望ですから。
「リオウは自分に出来る事なら何でもするつもりらしいよ。もし、トップに立てと言われたらそのつもりらしいよ」
 俺には到底まね出来ないけどね。
「フィル、それはリオウが決める事僕らには何も出来ないよ」
 それはそうだ。と、フィルは肩をすくめた。
 自分はトップに立つなど微塵も思っていない。
 ただ、故郷のために力を貸すだけだ。
「クラウス、あなたの思いは解ります。郷愁は・・・あるでしょう」
「ラズロさん」
「リオウがトップに立てば、故郷に帰りたいでしょうね」
 今まで言えなかったことをラズロに言われて、クラウスは頷く。
「私は平和を望みたいのです。もし、故郷に不穏な火種があるならそれを鎮火したい」
 なるほどとフィルは頷いた。トランは良くも悪くも軍事の国だ。火種がおきた時は、レパントの元にそれを防ぐ人材がいる。
 だが、この国はその分野では弱い。
 クラウスは故郷に帰り、故郷の政治の安定に努めたいのだ。
「僕らは聞くだけだからね。クラウスはもう決めてるんでしょ?」
「と、言うわけでも無いんですけど
 クラウスは照れくさそうに首筋に手をやった。
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