幻想水滸伝 | あの空の果て〜8 |
「お帰りなさい」 ナナミが満面の笑顔で出迎えてくれる。 「留守をありがとうございます」 丁寧に頭を下げるラズロにナナミがとんでもないと手を振る。 「リノさんが色々してくれたんで。私なんか殆ど何にもしてないですよお」 へえ、それはそれは。 「リノはなかなか良い子なんですよ」 ラズロはナナミに微笑む。 「所でリノは何処ですか?」 「あ、リノさんは、事務所の方ですよ」 そうですか。なら、後で寄って見ますね。 キリルがハイランドに行くと知って、ナナミは一緒に行く事を申し出た。 「私、リオウの所に行きたいの」 駄目かな? 「それは良いんだけど、う〜ん。そうだなあ。じゃあ、そちらの方からまわろうかな?アスにも色々見せてあげたいし」 じゃあ、ナナミちゃんを送って行くね。 キリルはそれから暫くすると旅だって行った。 「多分、一月半の旅路だよ」 その言葉を聞いたラズロは、キリルに路銀を用意する。 「いらないよ」 「でも、アスがいるからね。ナナミちゃんも」 それにビクトールとフリックに都市同盟まで行ってもらうから。 「大所帯だね」 キリルは暫し思案すると、 「じゃあ、借りておくよ」と、それを受け取った。 キリル達が旅だってしまって、何だか寂しいとフィルは思う。 「寂しい?」 にこりと笑うラズロにフィルは慌てて首を振る。 「そんなわけ無いよ。でも、アスもナナミもいないのは寂しいな」 「気になるなら一緒に行っても良かったんだよ?」 リオウに会いに行っても良かったのに。 「今はまだ行かないよ。俺はプータローだけど、リオウは忙しいからね。でも、そのうちに会いに行くよ」 そうとラズロはにこやかに笑う。 「僕ももうレパントさんの事からは手を引くよ。あんまり出しゃばるのも悪いからね」 私塾の先生に戻るからフィルも宜しくね。 フィルの本名は、実はフィル=リート=マクドールと言う。 「ミドルネームあったんだ」 「うん、誰も呼ばないけどね」 でも、時々、使ってる。 「もしかしてそれ使って都市同盟とか行ってるの?」 「まあね。でも、ラズロもテッドとの旅の間、偽名を使ってたんでしょ?」 「そうだね。でも、僕はフレイルを使ってたから偽名と言うわけでも無いんだけど」 じゃあ、 「テッドは?何て名前だったの?」 「アルド」 その名を口に乗せたラズロは遠い目を空に向ける。 「それって、、崖崩れで亡くなった人だったよね」 そうだよ。 「僕を・・・育ててくれた人だよ。テッドと一緒にね。僕はアルドの事が大好きだった」 そう、あれはまだ、僕の背がアルドの半分も無い頃だったな。 「僕の記憶はね、成長とともに戻って来たんだ。いきなり戻ったわけじゃないんだ」 だから、あの頃はスノウやお屋敷で働いていた記憶が戻った頃だったかな? 「どういうわけか、朝起きる度に記憶が戻るんだよ。でも、その事に違和感を感じないんだ。何故、今の自分と違うかとかね。だから、アルドは朝起きたら、最初に挨拶とともに何処まで記憶が戻ったか聞いてきたよ」 「楽しい記憶ばっかりってわけでも無いでしょ」 辛い事もあっただろ。 「う〜ん、でも、何故かすんなりと受け入れられた。元々、空っぽの器だったからかもね」 アルドはね、ガイエンから来たんだって。 「僕はその頃はガイエンに行った事は無かった。ラズリルの騎士団は一応、ガイエンに属していたんだけどね。団長と副団長くらいしかガイエンには行った事がなかったんじゃないかな?」 「でも、その後には行ったんでしょ?」 うん。 「流石に群島とは全然違ったよ」 森が豊な国だったよ。 「ああ、トランも森林豊な国だよね。緑がとても美しい国だ」 故郷を褒めてもらってフィルははにかんで笑う。 「うん、綺麗な国だと俺も思うよ」 「アルドが、どういうわけで故郷を出て来たのかは知らないんだけど、もしかしたら戦争で追われたのかもしれないね。住んでた森を無くしたのかもしれない」 昔ね。 「帰りたいの?と聞いた事が一度だけあったよ。アルドが時々遠くを見る目をするから」 でも、 「アルドは帰りたいとは言わなかった。故郷が懐かしくないわけは無いとは思うけどね。でも、故郷は自分の胸の中にあるから良いんだって言ってた」 「だから、テッドと一緒に行ったのか・・・」 故郷は胸の中にあるか。 「だから、テッドはアルドと名乗ったんだと思うよ。アルドは崖崩れで亡くなったんだけど・・・テッドが彼を呼んだから・・・ソウルイーターは彼を食べた」 「ねえ、ラズロ。亡くなった人の魂でも食べる事って出来るのかな?キリルが言うには、魂は四散しやすいらしいし」 ラズロは暫し考えていたが、自分なりの結論だと話しだした。 「キリルが言うには、確かに魂は四散しやすいらしいね。僕も何度かキリルが魂と話すのを聞いた事があるけど、遺言を残すと何処かに流れて行ってしまったよ。多分、キリルが言葉を聞く事で何らかの解放の鍵があるんじゃないかな?と、思う」 「じゃあ、鍵が無いと言うか解放のきっかけが無い魂は彷徨い続けるのかな?」 「そうかもしれないしそうでないかもしれない。魂同士で寄り添う形で別のものになる事もあるのかもしれないし」 別のもの? 「うん、まあ、僕とキリルはそう言う人達にも会った事があるから」 僕はね、 「ソウルイーターも同じじゃ無いかな?と、思ってる。それは一つの星、幾千もの魂を一つに込めた星じゃないかなとね」 結論は早いんだけど。 「テッドはそれに気がついたから紋章の制御が出来るようになったんじゃないかな?とも思ってる。あ、でも、これはあくまで僕の推測だけで、テッドは何も言わなかったからね」 「これが星?」 「そう。生と死を司る紋章と言われている意味はそこにあるのかもしれない。僕の紋章は償いと許しだと言われている。その意味は、人の心に住む善と悪だと思う。誰にでも悪は住むけど、それは善と表裏一体だ。許しと言うのは僕の先人達がこうありたかったと言う心。僕はこの紋章の中で何人かの人を切ったけど、彼らが口にするのは・・・祈りだったよ」 彼らは僕に祈ったんだよ。 「償いと許し。僕は団長やブランドを切ったけど、一人だけ僕に何も求めなかった人がいる」 「それは誰?」 にこりとラズロは笑う。 「僕の母親だよ」 確かに母親が息子に許しは求めないよね。 |
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