幻想水滸伝 あの空の果て〜7
「ここだよ」
 フィルが隠し通路を開ける。
「ちょっと暗いから・・・ゆっくり歩いて」
 フィルは灯りをかかげるとその道を迷い無く進んで行く。
 小さな外からの光のあるそこにそれはあった。
「マッシュ。ラズロを連れて来たよ」
 そこにはフィルが置いたであろう花があった。
「本当はここには遺体なんて無いんだ。ここにあるのは俺がオデッサからもらったイヤリングなんだ」
「じゃあ、オデッサさんのお墓でもあるんだね」
 うん。
「でも、まあ、俺がそう思ってるだけだけどね」
 あんな土泥の中よりはここの方が良いかなと思って。
「小さいけど光が入るし。ここは僕らの城だったからね」
「うん。そうだね」
 ここね。
「俺しか知らないんだよ」
 この間、アスには教えてあげたんだけどね。
「アスに教えたんだ」
「うん、でも、お墓だとは言って無い。記念の場所だとしかね」
 それも間違いじゃないから。
「記念の場所か」
「誰にも知らせる事無いけどね。遠い未来にも僕が憶えていれば・・・」
「うん。きっとね」


「そう言えば、お前の双剣って誰に習ったんだ?」
 テッドは弓の手入れをしながらで、ラズロも剣を磨いている。
「僕?昔ね、騎士団に一時期いた傭兵の人に習った。って言っても子どもの頃の事だから、型だけだけどね。スノウの所で雑用をしてた時の事だから本当に昔だよね」
 騎士団に入ってからは片手剣が訓練の基本だったけど、たまに双剣の人もいたよ。
「ほら、キリル君の事話したでしょ?キリル君と会ったほんの少し前の事だから。僕がそれを習ったのは」
 スノウの護衛も兼ねてるから少々の武術は出来た方が良かったんだ。
「キカさんに聞いたら、エドガーも双剣だったって言うから。何か嬉しいよね」
 そう話すラズロはテッドに本当に嬉しそうに映った。
「エドガーは、海賊だったけど、義賊だったからオベル王とも何かあったらしいよ。色々とね」
 はあ、なるほど。
「あのおっさん、くせ者だからな。あの船な、1年やそこらじゃ出来ないぞ。5年はかかるだろ?」
「そうだね。大きな船だったからね」
 その割には小回りも利いたけど。
「一体、何時から気づいてたのかな?」
 クールークが南下してくるって。
「そうだよね。伊達や酔狂じゃああんな船作らないよね。お金もかかるし。僕が考えるには、多分、あの人は王都に行ったんだよ。グラスカにね」
 そりゃあ、暇人だな。
 テッドはぴゅーと口笛を鳴らす。
「だって、あの人が出かける時は必ず、ハルトさん連れて行ってるんだ。逃げ足だけは速いんだよ」
 分が悪くなったら逃げると言うわけ。
「皇王の権利が失墜している事を知って、危惧を覚えたんじゃない?」
 実際、理由は聞いてないけど。


「理由、聞いてないの?」
 フィルがラズロの顔を覗く。
「まあ、ろくでもない事言われたら嫌だからね」
 ラズロはくすくすと笑う。
「あの人の事だから、それもありかもね」
 趣味だからとか言われたら情けないからね。
「趣味・・・」
 フィルは実際にその船を見た事は無いが、ラズロの言い分からするとかなりな大きさらしい。
「トランにも水軍はあるけど、規模は小さいね。ファレナの水軍は河を渡るからかなり大きな船を持ってるよ」
 まあ、外洋では無いから、それなりな大きさだけどね。
「ああ、そうそう。ゴードン商会から連絡が来たから何時でも出られるよ」
 そろそろ帰らないとならないしね。
「キリルが旅に出たいって言うんだ」
「小姑が?」
「うん、アスも連れてね」
「ハイランド?」
「うん。ハイランド。今なら丁度良いんじゃない?」
 うん。そうだね。
「アスね、ほら、最近、良く笑うでしょ?だから行かせてあげたいんだ」
 と、言う事は当面二人なのかと、フィルは幸せな気分になる。ナナミの存在は忘れているらしい。
「ナナミさんにも予定より長く留守番させてしまってるし。明日、朝一で出ようかなと思ってるんだ」
 ・・・フィル?
「え?あ、いや、何でも無いよ」
 うわあ、忘れる所だった。うん、ナナミはクレオに任せよう。そうだそうだ。


「え?この服は何処で?」
 ラズロはテッドに渡された服を見て、首を傾げる。
「ああ、赤月を通った時に買った」
 女物ぽく見えるだろ?
「細めのズボンにスリットがある長衣だ。色はちょっと大人しめにしておいた。着てみろ、動き易いか確かめてみろ」
「ありがとう。でも、何で黙ってたの?」
 テッドは急に顔を背ける。
「いや、驚かせたかっただけだから。それに・・・女装用の服を俺が用意するなんて怒られると困る」
 へ?
「何で僕が怒るの?」
 だって、テッドは僕に似合うと思って買ってくれたんでしょ?
「いや、そのなあ。服を送ると言うのは男の間では、まあ、変な意味もあるからな」
「変な意味?」
 ラズロは首を傾げる。
「え?お前、知らないの?」
「はあ、何が?」
 テッドは盛大にため息を吐くと、ラズロの頭をぽんぽんと叩く。
「あのなあ。服を送ると言うのは着せて脱がせたいと言う意味があるんだよ。お前、割と疎いよな」
 その手の話題に。
「それって、女性にでしょ?」
 僕は女性じゃ無いもの。
「気、回しすぎだったか」
「今更でしょ?」
 じゃあ、着換えて来るね。


「で、その時の服が、このデザイン?」
 フィルはラズロの手元を覗き込む。
「うん、当時の流行だね。色は若草色にブルーの花模様があしらってあった」
「じゃあ、俺がこれ、ラズロにプレゼントするよ」
 又、着てよ。
 フィルが持って来たのは、テッドが買ってくれた物とは天と地ほども差がある上等なものだ。
「こんな上等なの・・・」
「良いじゃない。これを来て、レパントの夜会にでも行けばね。もちろん、その時は俺も行くよ」
 後日、このデザインがトランの今年の流行となった事は、又、別の話。
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