幻想水滸伝 | あの空の果て〜6 |
「暇だな」 テッドにしては珍しい言葉を出す。 「おや、珍しいね」 目の前には彼の恋人がいる。 「いや、お金があるって言う旅はした事無いんで。常に路銀の心配ばかりしてたからな」 珍しい薬草を採ったり、狩りで獲物仕留めたり、金になりそうな事ばっかりしてたからな。 「ううん。そう言えば、僕もだなあ」 今回、路銀もあるしそう考えれば暇だね。 「暇って何をして良いか解らないよな」 「同じく」 「何かしたいか?」 「ううん・・・。だって、旅に出たら家事とか出来ないし・・・何をしたいと言われたら・・・」 何にも無いなあ。 「ハルモニアに行くまで旅は長いんだ。何か楽しみがあった方が良い・・・」 あ、そう言えば。 「お前、料理好きだよな」 「うん。まあ、普通に出来るくらいだけど」 「じゃあ、決まった」 「何?」 「美味しい物食べて、作り方憶えて俺に喰わしてくれ」 「僕がテッドに?」 うん。俺に。 「それ、良いね」 うん。そうしよう。 「それでラズロは色んな料理が作れるんだ」 フィルの言葉にラズロは頷く。 「うん、色んな料理を食べたよ。ゲテモノもあるけどね」 珍味だって普通は食べない物もあったなあ。 「バッタじゃないよね」 「バッタじゃないよ」 ラズロはにこりと笑う。 「うん、バッタより悪食かな」 「・・・えと・・・何を食べたの?」 グレッグミンスターを出たテッドとラズロはデュナン湖方面を目指す。 「都市同盟が出来た頃の事だよ」 と、言っても当時はまだそんなに何処も大きな街と言うわけでは無かったけどね。 「ミューズくらいだったかな?大きな街は」 もちろん、サウスウィンドウは古い街だから大きいけど、内乱があったり色々あったからね。 フィルは歴史書を頭で紐解くと成る程と頷く。 「都市同盟が出来た頃かあ」 「当時は王国が無くなって経済的にも軍事的にも不安定だったから形だけでも体裁を整えておく必要があったけど、新しい都市の形で活気づいていた事は確かだね」 「ハルモニアの警戒もあったでしょ?」 「ま、それは何処にいてもだから」 ラズロは苦笑するとフィルの頭を撫でた。 「饅頭?」 テッドは首を傾げる。 「そう、考えたんだけど、一品に絞ったレシピ集を作ろうと思って」 それが饅頭のレシピだと言う。 「お前、饅頭好きだもんな」 「うん、まあ、好きかと言うと好きなんだけど、あれ、温める事出来るじゃない。僕は仕事で雑用も兼ねてたから・・・食事も最後だったし。フンギと一緒な時も多かったからね。フンギが何時でも好きな時に食べるようにって饅頭を用意してくれたのが始まりだったな」 「ああ、蒸し料理は温め直しが結構出来るからな」 俺はマグロと野菜入りの饅頭が好きだったな。あの船では。 「あ?あれ。あれは僕が考案したの。そっかあ、テッド、好きって思ってくれてたんだ」 それを聞いたテッドはぽんと手を叩く。 「あ、それで俺の好きな味だったのか。なるほど」 俺、魚嫌いだって言ってたものな。で、マグロだけ好きだとか。 「後、マグロのフライを薄焼きのパンに挟んだのもあったでしょ?」 「ああ、あれもお前が?」 「あれは、エレノアさんだよ。お国の方にそんな料理があるんだって。マグロじゃなくて羊だけどね」 あのアル中おばはんの? 「いや、否定はしないけど、何か酷い言い方・・・だよ」 「他に言いようは無いだろ?」 「あるよ」 「何?」 テッドはまじまじとラズロを見る。実はテッドはエレノアが好きでは無い。理由は簡単で、自分に似ていると言う同族嫌悪だ。手段は選ばないのに、後々まで後悔して引きこもるのがそっくりと言うわけである。 「もう、軍師でしょ?」 ああ、そう言えばそうだよな。 「我らが軍師殿だったな」 いや、普段はただのアル中なおばはんにしか考えて無かったからなあ。 わははとテッドは豪快に笑い飛ばす。 「なあ、ラズロ。あのおばはん・・・生きてると思うか?」 テッドの言葉にラズロは首を傾げる。 「どうかなあ?由な所は全部見てまわったよ。後、見てないのは赤月だけだよ。まあ、ここは本拠地だから見つけにくいだろうけどね。仮に生きていたとしても」 あの人、群島との戦争の時に一族の力使ったからね。赤月は一時といえど、群島と組んだ事になるね。 「ふん。利害関係が一致したんだからどうでも良いだろ?国ってそんなもんだろ?」 利益があれば組み反目すれば敵対する。 「まあ、そうなんだけど。エレノアさんは・・・」 「お前は優しいな。でも、あのおばはんは、やりたいようにやっただけだ。赤月の事は借りを返してもらっただけだと思うけどな」 「借り?」 フィルが首を傾げる。 「赤月の国境虐殺事件を穏便に済ませた・・・まあ、もみ消しを手伝ったと言うやつだよ。もみ消しは出来なかったけど、穏便に納めたのは彼女の尽力だよ」 自国の不祥事にフィルも黙り込む。たとえその赤月と言う国を滅ぼした本人でも、国への愛着はあるのだ。 「どうやって丸く収めたのか解らないけど、それでエレノアは群島に来た。故郷を後にして」 「帰りたかったかな?赤月へ」 だが、ラズロは首を振った。 「帰りたく・・・はなかったと思うな。エレノアが気がかりだったのはグレアム=クレイだけだ。国に裏切られた哀れな弟子。彼だけが彼女の手をすり抜けてしまった唯一なものだ。あの戦争もクレイが出てこなければ、エレノアは乗ってくれなかったと思うな」 「そんな事無いだろ?だって、罰の紋章がある」 罰の紋章はクレイが持ってた事もあるんだから。 「まあ、そうなんだけどね」 「・・・エレノアは、僕が死んだら・・・これを自分に宿したかったんだろうと思う。彼女はこれを使うのにあまりためらいが無かった。理由は僕には解る」 うん。 「死を宣告されたも同然で生きてる僕だったからね。エレノアは情と言うものを切り離してくれたよ。単純に驚異的な力を持つ紋章だと割り切ってくれた」 「それって側から見てると薄情だよね」 「でも、僕的には助かったよ・・・。テッドに会うまでは刹那的に生きてたと言うか何かしたい、何か残したいと言う為に生きてたからね」 「うん、まあ、あのおばはんはそう言う考えだろうな」 テッドは笑う。 「切り札にはお前を使うと決めてたんだよな。ある意味、お前にとっては楽な人だったよな。死ぬ人間に慰めやこれを使わせないようにしようなんてな。優しい慰めだが、それは本人には辛いよな」 「テッドはどう思った?」 「う〜ん。難しいな。俺にはどちらも解る。ただ、お前がすり減るのは辛いと思ったな」 うん、ありがとう。 「だからな。まあ、便利になったからと言って使うのもな」 あんまり感心しない。 「でも、今までしんどかったんだから借りは返して貰わないと。僕的には不満だよ」 「まあ、それもそうか」 |
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