幻想水滸伝 あの空の果て〜5
 湖の城にいる間、暇なキリルとアスは一日中、釣りに明け暮れていた。
「小姑、なかなか上手いよな」
 フィルはそんな二人を覗きに来るのが日課だ。
「アスそろそろ飽きたんじゃないか?もう、3日目だからな」
 確かに子どもには飽きる時期ではある。
「いいよ。アス、フィルと遊んでおいで。フィルの事だからここの隠し通路とか教えてくれるかもしれないよ」
 隠し通路と聞いて、アスの目が輝く。
「お?知りたいの?じゃあ、行こうか」
 わあいと年相応に嬉しそうにアスはフィルの手を握る。
 二人が去ってしまってから、ラズロが顔を出した。
「あ、アスなら隠し通路探検に行ったよ。フィルとね」
「そう。へえ、隠し通路なんてあるんだ?」
 ラズロはキリルの隣に座るとアスが置いていった釣り竿を投げた。
「暇になったんだ?」
「いや、そうでもないけど。まあ、返事待ちなんで。ほら、ゴードン商会のね。ここの真珠を扱ってくれるかどうかで持ちかけてる」
「上手く行って無いの?」
「まあね。問題は細工師がいない。一応、ここに工房をおいて職人を募って見るか・・・でないと、群島から来てもらうかだね。僕の細工師を寄越せと言われたよ」
 流石にそれは無理だし。
「君、専用の細工師だからね」
「まあね。一応、レパント殿にも進言してみるけど、ここに装飾細工の工房を置いて欲しいなあとは思ってる。腕の良い職人が集まる工房を」
「そう言うのはミルイヒ殿に頼んだ方が良いんじゃない?フィルに頼んで」
「そうだね。まあ、これは僕の領分だからフィルに頼むのは気が引けるんだ」
「でも、何処まで君が手を出しておくんだ?」
 キリルはそれ懸念している。
「それは・・・体制が整うまで・・・のつもりだけど・・・」
「で?それは?」
「・・・意地悪。当面はここにいると決めたの。フィルが・・・後、5年はここにいる。それにアスにも色々と教えてあげたいし」
「それは解ってる。けど・・・フィル以外にも君が気にかかる人はいるんだろ?何故、その人の所には行かないの?」
 ラズロはキリルと友人で心底良かったと思う。
 こうやって口に出してくれる人がいるのといないのでは違う。
「うん・・・まあ。キリルも解ってると思うけど。僕はフィルも連れて行ってあげたいから・・・。彼の所には」
 ただ・・・
「恐い。あの子には星は力を貸してくれないのかもしれないと思うと・・・」
「兄の方は?」
「ササライか。彼はまだ自分の事に気がついてないからね。与えられた役割を果たすだけと・・・それが良いのかどうかは僕には何も言えないよ」
 そもそも盗まれないように人に宿すなんて事は、ファレナの事を意識してやってるんだろうけど。
「ファレナは・・・結局は失敗だろ?」
「だからより強固な入れ物を作ったんじゃないか。自分の分身。血と肉を分けた子を」
 あの器が壊れるまでの紋章の入れ物と思ってるんだよ。
「紋章もそう思ってるの?」
「いや、紋章は・・・ただ・・・風の紋章は・・・縛られるのが嫌だから・・・」
 ラズロの言葉は苦い。
「そう言えば、ナナミさんに連絡したんでしょ?」
 ラズロの渋い顔を見たキリルは話題を変える。
「ああ、うん。グレミオさんに頼んであるしナナミちゃんも了解してくれたよ。リノに頼んで塾の方も何とかしてもらってるし」
「ああ。リノね」
 あの子も勤勉だよね。
「あと、23日で帰れると思うから」
「グレッグミンスターに直に行けば良いだろ?ゴードン商会なら」
「まあ、そうも行かないんだよね。シュウさんとのかねあいもあるから、返事は全てここで聞く事にしてるんだ」
「面倒だねえ」
「これ、本来の僕の仕事なんだけど?」
 君の仕事ねえ。
 キリルは苦笑すると手を振った。
「深入りしすぎて無い?」
「ゴードン商会から返事が来たら、僕は手を引くよ。あまりグレッグミンスターを開けたく無いし」
「それが良いね。君はあくまでフィル専用なんだから」
 おっと、こんな事聞かれたら、あの子はつけあがるね。
「まあ、つけあがった方が良いんだけど」
 僕もそろそろ行こうかと思ってるんだよ。
「うん。あ、アスも連れてなの?」
「うん、連れて行っても良いかな?」
「そうだね。キリルとなら安心出来るし。広い世界を見せてあげたいしね」
 うん。それが良いね。
「コルセリアはね。君と旅をしたかったから・・・」
「うん、解ってる。まあ、最初だからそんなに遠くへは行かないよ。取り敢えずは都市同盟の方に行ってみようかと思うんだ」
「ハイランドに行くんだね」
「フィルが・・・ここに来た時から考えてたんだ。一度だけアスと行ってみようとね」
 ところで、軍師殿のお墓は何処にあるの?
「さあ、案外隠し通路の中にでもあるんじゃないかな?」
 グレッグミンスターにもあるみたいだけど、フィルはここって言ったからね。
「アスに聞いてみたら?」
「そうだね」
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