幻想水滸伝 あの空の果て〜4
「あら?お久しぶり」
 赤月の都、グレッグミンスターでテッドとラズロはジーンに再会した。
「ジーンさんも変わりなく」
「あら、嬉しいわ。ありがとう」
 テッドは後ろでそれに突っ込みを心の中だけで入れていた。
『いや、本当に変わりないや。人の事は言えないけど』
「うふふ、そうよ。人の事は言わないのが花よ」
 にこり。
『うげえ、心読まれてるのかあ』
「立ち話も何だからどうぞ」
 二人はお礼を言うと部屋の奥に踏み出した。

「ジーンさんは相変わらず紋章師なんですね」
「ええ。まあ、これが得手だから」
 ラズロは頭を下げた。
「お願いします。紋章の気配の消し方を教えて下さい」
 続いてテッドも頭を下げた。
「お願いします」
「あら、私に出来る事なら力になるわ」
 ジーンの言葉に二人はほっと顔を見合わせる。
「じゃあ、早速で悪いんだけど、とって来て欲しいものがあるの」
「何ですか?」
 うふふ。

「で、何でこんな山奥に行く事になるんだろうなあ」
 テッドの呟きはもっともだろう。
 ジーンが言うには、
『ちょっと取って来て欲しいものがあるの。場所は・・・』
「まあ、ジーンさんに頼み事をするのはこっちだから、ちゃんと果たさないとね」
「まあな」
 会話の間に二人はぽりぽりと良い音をさせている。
「久々に食べたけどいける。やっぱラズロは料理上手いな」
「それはどうも」
 二人が食べているのはバッタの甘露煮だ。
 麓の村を通った時に子どもが虫取りをしていた。
「でも、風の紋章をあんな風に使うなんて思わなかったなあ」
 テッドは風の紋章を使って小さな竜巻を起こしたのだ。
「まあ、みみっちい使い方だけど面白いだろ?」
「うん、おもしろい。それにこれ初めて食べるけどおいしい」
 群島では魚の餌にしてたんだけど。
「ん?まあ、所変わればだよ。俺は結構食べてた。まあ、生でだけど」
「生?!」
「腹壊した事もあるけどな。不味いし」
 油で揚げるとそこそこいけるって知った時はちょっと感動したな。そこにさらに醤油砂糖入れて煮ると
「驚く程旨い」
 作ったのはラズロだが、料理を指導をしてくれたのはテッドだ。
「思えば、あの船での食事はおいしかったなあ。マグロは最高だった」
「テッドは魚嫌いだって言ってたけど、結構、何でも食べたよね」
「そりゃあ、ろくな食べ物食べて無かった時もあるからな。俺、魚は生臭いとか思ってたんだけど、とりたての魚は凄く旨いよな」
 ああ、又、マグロ喰いたいな。
「うん、僕がうんと大きいの仕留めてあげるよ」

「・・・バッタ食べたんだ」
「え?結構、おいしいよ」
 きょとんとするラズロにフィルはさめざめと泣く。
「俺、テッドに口に突っ込まれた時、半狂乱で暴れそうになったよ」
 テッドが旨いって言っても信じられなかったし。
「う〜ん、実は僕も最初は半信半疑だった。でも、テッドがおいしそうに食べてたから」
「信じたんだ」
 うわあ、俺、そこまで信じて無かったよ。

「これかな?」
 ジーンが指摘した場所。そこに行けば解ると言われたのだが、確かに異様な光景だった。
「これは・・・星?」
 夜の森だというのに、キラキラと輝いている木がある。木に見えるだけなのかもしれないが。
「紋章樹?あの木のおばけ?」
「いや、違うだろ?普通の木に見えるし。周りの木も異変はないし。ともかく、これがお目当ての木だよな」
 ここに成ってる実を持ち帰れば良いわけだよな。
「食べてみるか」
 テッドは一口囓ってから、べっと吐き出す。
「何か味しねえ。それに舌触りも悪い」
「食べ物じゃないんだ?」
 何なのかなあ?

「あら、ご苦労様」
 ジーンは二人を労うとにこりと笑い、手を出す。
「あ、はい、どうぞ。これですよね」
 ラズロが取りだした袋を覗いて、ジーンはゆっくりと頷いた。
「ええ、これよ・・・」
「で、それ何なの?光ってるし喰ったら不味いし」
 テッドの言葉にジーンは目を細めた。
「・・・あら、食べようとしたの?あらあら」
「じゃあ、食べ物じゃ無いんだ」
「これはね・・・」

「で、結局、それは何だったの?」
 フィルはテッドは何でも喰う奴だったんだと呆れている。
「うん、あれはね、化粧品の原料。あれで紋章を消す事が出来るんだ。もちろん本当に消すわけじゃないよ。皮膚の上から塗って、紋章事態を隠す。そうするとどう言うわけか紋章の気配が薄れるんだ」
 なかなか剥がれない代物だから結構長く使えたよ。もちろんそれだけじゃあ駄目だろうから、他の方法も教えてもらったけど。
「へえ、便利な物なんだ。俺も欲しいな」
「それがね。その後、そこに行って見た事あるんだけど、何にも無いの」
 ジーンさんが言うには枯れたって言うんだけどね。
「ジーンさんは夜行樹とか言ってたけど。月の無い時は輝かないらしいよ。月夜の晩、特に満月に光が強くなるらしいけど」
「小姑は見た事ないの?」
「僕は無いね。夜行樹の存在はラズロから聞いて知ってたけど」
「おとぎ話かあ」
 そうだね。今ではね。


「色々お世話になりました」
 二人で丁寧に頭を下げるのにジーンは笑う。
「ふふ。いいえ。又、何処かでお会いしましょうね」
『何処かかあ・・・』
 テッドは何だか不思議な気持ちだ。
 何処かでと言われて、それを素直に受け取れると言うのが。
 本来、テッドには、何処かでと言われたらそれは二度と会えない事だ。
「そう?そうでも無いわ」
『又・・・読まれた?いや、顔に出たのか?』
「ええ、何処かで又」
 テッドにしては珍しく、本心からそう言った。そして、それが楽しみでもあった。
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