幻想水滸伝 あの空の果て〜15
 ラズロは何とも上等な品を前にして、尻込みをする。
「良いじゃない。これを来て、レパントの夜会にでも行けばね。もちろん、その時は俺も行くよ」
 あ、そう言えば、
「もうすぐ建国祭でね。何でも舞踏会があるんだとか言ってたよ」
「じゃあ、フィルにも招待状が来るね」
 建国の英雄だ。
「うん、例年になく舞踏会なんかするらしいから」
 建国祭は地味だったんだよ。
「戦後処理もあるし色々とね。でも、まあ、たまにはガス抜きにこんなのも良いんじゃない?ミルイヒが張り切るのが目に浮かぶね」
 そうだね。と、ラズロも苦笑する。
「絹なんてもったい無いけど、ありがたく貰っておくよ。そうそう、お礼にこれを上げるよ」
 ラズロが化粧箱を取り出す。
「開けて良い?」
「どうぞ」
 中からは大ぶりだが、繊細な真珠と珊瑚玉のブローチが出てきた。
「建国祭と言うからは君の演説があるんじゃない?それにどうぞ」
「う、しまった。それがあったか」
 フィルは頭を抱える。
「・・・もしかして、考えて無かったの?」
「うん・・・。いやあ、俺はプー太朗だしい・・・と、思ってた」
 失念してたなあ。
「まあ、たまにはそう言うのも良いか。レパントに力を貸してやろう」
 折角の粋な計らいがあるんだから?
「?」
「いや、こちらの話〜。そうだ、ラズロは誰か連れて行かないの?群島諸国の偉いさんなんだから、誰かお付きがいるんじゃない?」
「え?いや、そんな大げさな。あ、でも、リノがついて来るね。あの子、僕の代理人だから」
 フィルは穏やかな物腰の青年を思い浮かべる。
「ああ、リノか。そう言えば、あの人は幾つなの?」
「リノの年?ええと、幾つだったかなあ?25か6かな?」
「結婚してるの?」
「いや、独身だよ」
「独身かあ。じゃあ、クレオの相手をしてもらおうかな」
「ああ、良いね。僕からリノに言っておくから」
「本当、良いの?」
「もちろん」

 当日、二頭立ての馬車でやってきたフィルを見て、ラズロは驚いた。
「え?これに乗るの?」
「そう。あ、リノさんもどうぞ」
 え?私は・・・と、尻込みをするリノをぐいぐいと押して馬車に放り込むと、ラズロも馬車に乗った。
「おや、これはこれは」
 ラズロが目を細める。
「お揃いとは知らなかったです。こんにちわ。グレミオさんクレオさん」
 パーンさんは?
「パーンは城の警護の方にまわってますよ。私もついたら警護に・・・」
「駄目!クレオは今日はお休みなんだから。パーンも僕らが着いたらお休みをもらう事になってるから」
 フィルの言葉に、クレオは苦笑だ。
「リノ、今日はクレオを宜しく。僕の姉のような人なんです」
「あ、はい。宜しく、クレオさん」
 リノが丁寧に頭を下げるので、クレオも頭を下げる。お互いに顔を上げる度に又下げるので、フィルは呆れてしまった。
「ところで、リノ。それは群島の服装?」
「あ、いえ、これはラズロさまがつくって下さった服です。こちらに来た時に。こちらの礼服が解らなかったので」
 なるほど。だから、トランぽい服装なのだな。
「でも、チープー商会の代理人だから、群島ぽく仕上げてもらったんだよ。この赤と青のモザイクの裾飾りとかね」
 ラズロの言葉に成る程とみんなが思う。
 確かに変わった色遣いだ。
「僕は黒と赤を好んで着てるんだけど、群島の軍服は派手な色だね」
 確かにと、リノも頷いた。


 壇上にフィルが立つと一瞬にして、場が静まりかえる。

「兄弟たちよ。我を支え供に歩んでくれた兄弟たちよ。
 トランの礎となりし者達に我は祈りを捧げる。
 今宵、建国の喜びを祝えるのは、トランの礎となりし我が兄弟たちの平和を願う祈りが届いた故。
 トランは我が撒いた種だ。
 今だ若木だが、この若木を大樹にと育てるのは、礎となりし兄弟達への我らの義務だ。
 さあ、隣の者の手を取り、若木を育てて行こうではないか。
 大樹に育てる為に」

 フィルは段上から下るとラズロの手を取った。
「許しを司る貴方さまからもこのトランに祝福を」
 ラズロはやられたなと思いつつも、祝福の言葉を紡ぐ。

「トランに繁栄あれ。世界に幸あれ。英雄に安らぎあれ」

 一対の絵のように見える二人だ。
 沈黙を破って次々に割れるような拍手が鳴り響く。
「では、平和である宵を楽しみましょう」
 ミルイヒの言葉に、中庭からぱんぱんと花火が打ち鳴らされる。と、音楽も始まった。

「ねえ、踊ってよ。ラズロ」
「はあ、でも、僕は男だけど?」
「無礼講だもの」
「まあ、そうか。祝いの夜だからね」
 フィルがクレオをちらりと見るとリノが手を出している。
「流石にラズロの血縁だよね」
 こそりと呟くと、ラズロは苦笑する。
「それはどう言う意味で?」
「もちろん褒めたの。ほら、行こう」
 ところで、グレミオはパーンと並んで壁にいた。
 パーンがグレミオを踊りに誘うとは思えなかったが、二人で何だか楽しそうに語り合っているらしい。
『まあ、パーンらしいよね』
 フィルは先程の演説とは違った、ごく普通の青年の雰囲気で踊りの中にとけ込んでいる。
 先程の厳かな雰囲気と今の姿では、何だか同じ青年には見えないのだが。
「天魁星は何だか極端なんだよね」
「何が?」
「普段の時と戦時中と言うかリーダーである時の姿が」
 どちらも同じ自分ではあるんだけど、人の目には違って映るみたいだね。
「僕も全然思わなかったけど、そう言われた。ラズロは普段が普段だからって」
「それ、俺の事言ってるの?」
「まあ、そうだね」
「そうかもね。リオウもそんな感じだし」
と、リオウの名を出した時、くいっと服の裾を引かれた。
「?」
「こんばんわ、フィルさん。ラズロさん」
「リオウじゃないか。どうして?」
 しっとリオウは人差し指を立てる。
 その顔は何だか愉快なお面を被っている。
「お忍びでレパント殿から招待をもらいました」
 だから、名前呼んじゃ駄目ですよ。
「じゃあ何て呼ぶの?」
「そうですね。とりあえず、ラインバッハ3世で」
「・・・まあ、良いけど。じゃ、ちょっとこっちへ」
 フィルはリオウを引っ張ると奥の方に引っ張っていった。

「ここは?」
「レパントが用意してくれた俺の控え部屋」
 ラズロが少し遅れてからドアをノックする。
「飲み物と食べ物を貰ってきたよ」と。
「ありがとう」
「フィルが聞きたい事は、山ほどあるからこれもいるでしょ?」
「うん、山ほどあるけど、取り敢えずは再会に乾杯しようよ」
 そうだねと、リオウは杯をもらう。
「では乾杯」
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